第26時限目 競争のお時間 その51
「ほあー、疲れましたね……」
「そうだね……」
皆での夕食を終えて、寮まで戻ってきた私と谷倉さん。
ライブ終了後、皆での食事会が続けてあったから、ゆっくり出来ないというか、気が抜けない時間が続いたのだけれど、玄関の段差に腰掛けた途端、どっと疲れが出た。
それは谷倉さんも同じようで、隣に座って大きな溜息を三和土に転がしている。
ただ、実は寮でもまだまだ気が抜けない、ということをすぐに思い知らされた。
「……あ、帰ってきた」
後ろの方からそんな声がしたから振り返ると、
「ホントだ」
「おかえり、なさい」
「ちょっと! sound of the seaのミチルさんが来てたってマジ!?」
とぞろぞろ食堂から皆が出てきた。
どうやら皆、食堂に集まっていたらしい。
「あはは……」
「お疲れ様。皆、帰って来るの待ってたのよ」
ちょっと呆れ混じりの穏やかな顔で迎えてくれた萌の向こう……食堂から届く香りに、私ははっとした。
「……あっ、そういえば夕食いらないって言うの忘れてた!」
「ちょっ……突然声出すから、びっくりしたじゃない。財布でも忘れてきたのかと思ったわ」
そんな茶化すような萌をきっかけに、小さな笑いの輪が広がった。
「で、ご飯食べてきたの?」
「うん。まあ、ちょっと……その辺も含めて、とりあえず食堂で話そうか」
今日どうだったのかを話さないと、このまま部屋に返してはくれないだろうから。
私は谷倉さんに少し疲れた笑顔を向け、同じ表情が返ってきたのを見てから、床に根が生え始めていた重い腰を上げた。
それからの食堂は今まで以上に騒がしかった。
当然といえば当然、いつもならそういう騒がしい周りを止めるはずの萌ですら、今日の話でヒートアップしていたのだから。
「え、本当に? ミチルさんって谷倉のお姉さんなの?」
「はい。私はただの一般人なので、負担を掛けないようにって黙っていた方が良いって言ってたんですけど。つい、私がステージで言っちゃって……」
「でも、突然お姉さんが出てきたら、驚いて当然」
頭を掻いた谷倉さんに、相変わらずの無表情で華夜がフォローする。
「でも、ライブが無事に終わって、良かった」
繭ちゃんの言葉に、私と谷倉さんは多分、今日1番大きく頷いたと思う。
本当にそれ! って感じで。
皆からの質問攻めが一旦終わった……と思ったら、その後お風呂でまた質問攻めになり、部屋で寛げるようになったのは、いつもなら予習復習を終えて、そろそろ布団に入ろうかなという頃だった。
その寛ぎの時間も、テオをもふもふする時間に取られている。
朝早くから出ていって、夜遅くまで帰ってこなかったからか、お風呂のために着替えを取りに戻ったところで、テオが私にふぎゃふぎゃとかふごふごとか、文句なのか歓呼なのか、とにかく大きな声で鳴きつつ体を擦り付けてしばらく離してくれなかった。
そして今、部屋に戻ってきて、布団の上で横になった私の顔をぺちぺち尻尾で叩いている。
ご飯はちゃんとあげたから、多分スキンシップの要求……つまり、まだモフり不足だということだろう。
「疲れたよー、テオ」
多分、このまま目を閉じてしまったら、泥のように眠ってしまうだろうと思うけれど、テオの体に手を往復されていたら、そんな私の眠気をノックの音が押しのけた。
「はい……?」
こんな時間に誰だろうと声を返しつつも、何となく扉の向こうの相手に見当はついていた。
上体を起こすと、予想通りというべきか、
「あ、もう寝てました……?」
とドアの向こうから谷倉さんがパジャマ姿で顔を覗かせていた。
「ああ、大丈夫。どうぞ……じゃない、ちょっと待ってね」
3回目にもなると流石に覚えていた。
私はベッドを下りて、部屋のドアに向かうのだけれど、何故か谷倉さんは先に自分の部屋の方へ。
「…………あれ?」
今までだったら、部屋を出て合流してから谷倉さんの部屋に入っていたのだけれど、何故か私を置いて部屋に戻っていく。
違和感を覚えつつも「最終日も眠くなるまで話をしましょう!」という理由で呼ばれたのだろうと思いながら谷倉さんの部屋に入ると、何故か谷倉さんはベッドに入り、人1人分くらい布団を広げていた。
……その様子を見て、私の脳内のハテナ密度が急上昇し、思考が止まった。
「え、えっと……どういう、状況、ですか?」
思わず私が丁寧に尋ねると、
「良ければ、一緒に寝るとか、どうかなと!」
と学校に居るときのテンションで、谷倉さんが言った。
……んん? どういうこと?




