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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第26時限目 競争のお時間 その50

 私が呆気あっけにとられていると、


「あー、ごめん。ワタシ、宇治田うじたあゆ。美歌みかの友達……って言えば分かる?」


 自分のくせのある髪をでつけながら、宇治田さんはそう言った。


「あ、名前は……はい」


「そう? じゃあいいや。で、キミ、男の子だよね? あ、コレ生物的な意味での話ね」


「……」


 全く自分の言葉を疑うこともしない、そんな真っ直ぐな言葉に私はまた言葉を失った。


 ……いや、当たっているから何も言えないのだけれど。


 色々伝説は聞いていたけれど、まさか服の上からですら当てられるとは思っていなかった。


 戸惑とまどう私に宇治田さんは続けて言った。


「ワタシさ、服着てても大体採寸出来ちゃうんだけどー。それ以前に、どう見てもその骨格って男の子なんだよね」


「あ、あの……」


 丁度皆が出ていって2人しか居ない、正確にはライブハウス自体には人が居るけれど、この楽屋がくやには他にだれも居ないということはしておくけれども、それはそれとして……ヤバイ。


 とにかく、何か言って誤魔化そうかと思った私の言葉を押しのけて、更に続ける。


「会った瞬間、どう見ても男の子なのに何で? って思ったんだけど、周りの子たちが全然気にしてないじゃん? だから、あれー? もしかしてー? 誰も知らなーい? 的なやつー? それとも知っててえてのやつー? ってのが分かんなくてねー? 一応、本人だけのときに聞こうかなって思っててー。だからワタシさー」


 じりじりと近づいてくる宇治田さんを無視することは出来ないし、うそこうにも、ここまで一切自分を疑っていない人が安易あんい誤魔化ごまかしに乗ってくれるとは思えない。


 ならば、もういっそのこと本当のことを――


「体は男の子だけど、心が女の子ってやつなのかなって思ってさー」


「…………えっ」


 固まった私を無視して、相変わらず一方的な言葉の雨を降らせる。


「いやー、そういう子って会いたくてもなかなか会えなくてー。いいよねー! 男の子の骨格のがっしりしたのだけどー、でもそれでもカワイイをまといたいっていうの! カワイイは正義! カワイイは作れる! カワイイは自己表現!」


「あ、あのー……」


 完全に自分の世界にトリップしていて、一切私の話を聞いてくれない宇治田さん。


 ……と思ったら。


「だからー、今度ちょっとうちに来なーい? あ、コレがワタシのコミューのIDだから。むしろこっちから登録しよっか? スマホ出して、ほら早く」


 一切、拒否権きょひけんの発動を許さない勢いで私に手を差し出す。


 今すぐスマホを出せというアピール。


「その……」


 宇治田さんは出していた手をそのまま私の肩に置き、耳元で、


よこしまな考えで美歌たちに近づいたんなら、今すぐ警察に突き出してもいいけど」


 と冷え切った声でささやく。


 飛び上がりそうなほど反応した私は首を何度も横に振り、すぐにスマホを取り出して、震える手でIDを表示させた。


「あ、ワタシが入れる方ー? いいよー、そんなにおびえてちゃ入力出来ないしねー」


 ……笑顔が怖い。


「で、どこまで知られてるの?」


「その、美歌さんたちにはまだ――」


「こ・や・ま・さ・ん!」


 ばがーん! と表現すべきか、とにかくとびらに対するいたわりの心……いや”板割り”の心すら感じる開け方をするのは……まあ、言うまでもなく。


「あ、谷倉たにくらさん……」


 目をり上げているのは「何度も呼びに来てるのに!」ということだろうけれど、私はまだ宇治田さんに事情を説明していない……と思って、ちらりと彼女の方を見ると、


「あー、ごめんねー。彼女、背が高くて色々コーディネートしたいなーって思って、ワタシがちょっと引き止めちゃったー。じゃ、またねー、小山こやまさーん。連絡するから“絶対“来てねー」


 り付けた笑顔で手をひらひらさせ”絶対”を強調して出ていく宇治田さん。


「あ、あのっ、参加されないですか!?」


「ん? あー、ワタシはいいやー、パス。でも、お誘いはありがとー」


 谷倉さんの言葉にそう言って出ていく宇治田さん。


 …………こ、怖かった……。


 いや、そもそもは自分が色々招いたことではあるけれど、とにかく地獄じごくみたいな状況だった。


 これなら、さっさと本当のことをカミングアウトしてしまった方がいいのでは? と思ったくらい。


 ただ、そう簡単にいく話ではないのだけれど……。


「……ま……さん。おーい、小山さん!」


「…………あっ、はいっ!?」


 自分を呼ぶ声に対して、反射的に答えると、不安そうな表情の谷倉さんが私を見ていた。


「小山さん、大丈夫ですか? あの、体調悪いなら、小山さんだけ別の日でも……」


「あ、ううん、大丈夫、ごめんなさい。行きましょう」


 そう笑って、私は谷倉さんをうながすように先に歩き出した。


 ……いつかは自分のことを話さなければならない。


 それが今日ではなかったことが良かったと思うべきなのか。


 それとも、今日だった方が良かったのか。


 今の私には分からなかった。


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