表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

811/957

第26時限目 競争のお時間 その44

「とにかく、落ち着いて。まず深呼吸」


「は、はいっ! すぅー……はぁー……」


 深呼吸をして若干じゃっかん落ち着きを取りもどした谷倉さんに、私はいつものノートに書いたリストを見せた。


「分かる限り書いてみたけど、他に必要なものはない?」


「え、ええっと……」


 2人で必要なものを確認しつつ、出掛でかける準備をする。


「あっ、娯楽室ごらくしつの片付けは――」


「必要ないものはそのまま置いといて、帰ってきてからか、明日帰る前に片付ければいいよ。誰もあの部屋は使ってないし。とにかく、今は忘れ物がないかだけに集中」


「わっ、分かりました!」


 私の場合は財布とスマホ、そしてライブのチケットを肩掛けポーチに入れるだけ、そして谷倉さんは色々入ったギターケースを背負って準備完了。


「それじゃあ、行ってきます」


「行ってきます!」


「いってらっしゃーい」


 りょうの皆に見送られながら、私と谷倉さんは寮を出た。


 ライブハウスに近づけば近づくほど、隣に居る谷倉さんの口数が減っていき、もうじきライブハウスが見えるというときには完全に口を閉じてしまったのだけれど、それに追い打ちを掛けるような状況がライブハウス前に出来上がっていた。


「よお、2人共来たか」


「いえーい」


「ひゃいっ!?」


 谷倉さんが驚いたのも当然といえば当然。


 ライブハウス前で、黒系統のシックなワンピースに白のカーディガン、その逆で白系統のワンピースに黒のカーディガンの、ある意味でおそろいの女子が2人、突然私たちに絡んできたから。


 一瞬「え、誰?」と目をしばたたかせた私は、理解にやや時間を要したけれど、口調と顔に見覚えがあって、


「……ああ! 星歌ほしか晴海はるみ?」


 と尋ねた。


「どう見てもそうだろ」


「何ー? 見とれちゃった系の話ー?」


 仁王立におうだちの星歌と口元を押さえて笑う晴海に、私は苦笑しながら言った。


「いつもと違う感じの服装だったから、ちょっと驚いただけ」


「あたしだって、ホントはこんな服装したかねーんだけどな。“あの人”に強制的に着せられたらどうしようもねえ……」


 黒のスカートをつまんで、諦観ていかんの表情の星歌。


「そんなこと言って、星っち、十分似合ってるじゃーん」


 スマホでパシャパシャ星歌を撮っている晴海。


 どちらも黒と白だけの服装だけれど、礼服みたいな堅苦しい感じではなく、レースやその他の飾りがアピールしている、ちょっと大人びた服装だった。


「谷倉も今から何か着せられるんだろ? まあ、悪い人じゃねーが……こだわりが強いタイプだから、なんだ、その……頑張がんばれよ」


 ぽんっ、と肩をたたく星歌。


 最初はいつもと違う服装の星歌と晴海にぽかーんとしていた谷倉さんだったけれど、肩を叩かれたときにまたびくっとして、


「えっ? な、何が……どっ、どういうことですか?」


 と戸惑とまどう様子の谷倉さんに追撃。


「よしっ、じゃあアタシは谷倉ちゃんとあゆねえのとこ行ってくるからよろぴー」


「えっ、えっ……ええっ!?」


 谷倉さんの肩を押しつつ、谷倉さんは晴海に連行されていった。


 その2人に視線を向けたまま、


「……あゆ姉って人は何者?」


 と星歌に尋ねる。


「あー、まあなんだ。衣装に並々ならぬこだわりを持つ人で……メジャーなくても下着姿の相手を見るだけで採寸出来るとか、ライブハウスにミシンとかでけえ裁縫さいほう道具持ち込んで、その場で服1着作り上げたとか、色々伝説がある変人だ」


「いくら何でも大袈裟おおげさだなあ」


 伝説というくらいだから、ちょっとくらい誇張されていても仕方がないか、と私が笑うと真面目な顔で星歌が首を傾げた。


「ん? 実話だぞ? 少なくとも、その2つはあたしが目の前で見たやつだからな。それよりもやべえうわさはあるが、そっちは知らん」


 星歌の真顔の返答に思わず「おぉぅ……」と言葉をらす私。


 何というか、ある程度は想像していたけれど、それを上回るレベルで“変人”っぽい。


「美歌さんが服の方については問題ないって言ってたのはそういうことね」


「ああ。今回出られなくなった志鶴しづるさんの服装を調整して使うのかと思ったら、調整するよりも作り直した方が早いからって、1着新しく作ったらしい」


「えっ、ちょっ!? それ、お金とか払わないといけないレベルっていうか、かなりお金が掛かるんじゃ――」


 普通にレンタルの服があると思っていたら、1着準備するって本気!?


 あわてふためく私の言葉に、また苦笑する星歌。


「あの人は自分が作った服を誰かに着させるのが趣味でな。着てくれるなら喜んで服を作ってくれるタイプの人間なんだよ」


「いや、でも……」


「ま、今回あいつは巻き込まれた側だから、もし請求せいきゅうされたとしても姉貴が出すさ」


 そのあゆ姉さんと美歌さんが良いなら良いのだけれど……。


「とりあえず、ライブハウス入る――」


「あ! 小山さん」


 私と星歌がライブハウスへの階段を下りようとしたところで、何だか安心したような、中性的な声が背後からした。


「ん? ……あ、桜乃さくのさん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ