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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第26時限目 競争のお時間 その38

『あー、だいじょぶだいじょぶ。これから飛行機乗ってそっち帰るとき、嫌ってほど寝れるから』


「あ、帰ってくるんだ!」


 谷倉さんのお姉さんは『そだよー』と付け加えてから続けた。


『でさ。真理ちゃんがオッケーなら明日の夕方くらいにご飯でも食べに行く? ちょっと昼から出掛でかけなきゃいけないから、時間はそれ終わった後……20時とかくらい?』


 その言葉に、谷倉さんがちょっと考えてから首を横に振った。


「ごめんなさい。行きたいんだけど、明日参加するバンドのライブが終わった後、片付けとかがあると思うから……」


『そっかー、なら仕方がないね。明後日にはまた出掛けなきゃいけないし、会って話が出来るのは明後日の朝ご飯くらいかな……残念』


 そうは言いながらも、ちょっとにこにこしている谷倉さんのお姉さん。


『しっかし、まー……私と同じようにバンド始めるとはねー。お姉ちゃんうれしい、よよよ……』


 そんなことを言って、泣き真似まねするお姉さん。


「バンドを始めたっていうか、ただの代理だよ。それに、私の技術なんかじゃ迷惑めいわくになっちゃうくらいで――」


「『そんなことない』よ!」


 ほぼ同時に、スマホの向こうからと、私の口から同じ言葉が出たことに驚いて、私は思わずスマホの向こうに居る谷倉さんのお姉さんと顔を見合わせ、吹き出してしまった。


『ほらー、小山さんとやらは良く分かってるじゃん?』


「はい。ここ数日、ずっと隣で聞いてましたから」


 私たちの反応に、谷倉さんは、


「えっ、ちょ、ちょっと……!?」


 と困惑こんわくうれしさと恥ずかしさを等分で混ぜたような表情になる。


『まあ、簡単に言えば思ってる以上に周りはちゃんと見てるってこと。昨日質問と一緒いっしょに送ってくれた演奏の動画の時点で十分弾けてたじゃん』


「ちなみに、お姉さんの助言で更に良くなりました」


『マジで? いえーい、真理ちゃんサイコー!』


 谷倉さんのお姉さんは親指を立ててるし、私もお姉さんの意見に力強く首肯しゅこうしているから、聞いていた谷倉さんは顔を赤くしつつ、話題をずらそうと躍起やっきになっているようだった。


「あ、えっと……そっ、それよりも! お姉ちゃん、電話してきたのは何かあったの!?」


『ん? いやー、とりあえず動画見たかなーって思ってさー』


 そう言って、ホテルの一室と思われるところで、ギターを構えて谷倉さんのお姉さんが言う。


『あの“Moon Love”とかいう曲、最後の方はまーじで頭おかしいレベルでむずいけど、安定して弾けるようになったら楽しいかもって言ってた真理ちゃんの見立ては正しいと思うよ。私も弾いてみたけど、スローテンポでダウナーなのに、弾いてて楽しい曲だね。1度、曲作った人と話をしてみたいなー』


 そう言いながら、その“むずい”というところをさらっと演奏してみせる。


 それも、谷倉さん以上に余裕よゆうをもって。


 ……あれ、もしかして谷倉さんのお姉さん、結構すごい人なのでは?


「連絡先交換したから、今度会ってみる? 会ってくれるか分からないけど……」


『おー! いいじゃんいいじゃん。真理ちゃん結構積極的になってきたねー。それはあれ? 小山さんのお陰?』


 むふふ、みたいな表情をする谷倉さんのお姉さん。


 本人としては茶化ちゃかしたつもりだったのだろうけれど、谷倉さんは真面目な表情でうなずいた。


「それは間違いないよ。今回バンドに参加させてもらうのも……色々あったけど、小山さんのお陰だし」


『そっかー! そいじゃ、今度は小山さんも連れて、一緒にご飯でも行こっか』


「私は良いけど……」


 そう言いながら、上目遣いで谷倉さんは私を見る。


「ええ、お2人がよければ」


『オッケー。じゃ、また連絡するねー、チャオ!』


 そう言って、手を振ってスマホに手をばし、通話を切……ろうとしたところで動きを止めた谷倉さんのお姉さんが『あー、ちょっと聞きたいんだけど』と切り出して尋ねた。


『そういえばさー、さっきの“Moon Love”って曲、有名な感じ?』


「え? どうなんだろう……」


 谷倉さんがうむむ……と首をひねったのを見て、


『あー、いやごめんごめん。別に大した話じゃないから、あんまし気にしないで。んじゃねー』


 とお姉さんは切り替えて、改めてスマホの通話を切った。


「もう! 最後の、なんだったんだろ……ごめんなさい、小山こやまさん。お姉ちゃんが最後まで好き勝手言って」


「いえいえ、何だか楽しそうなお姉さんだったね」


愉快ゆかいなのは良いんですが、周りに居る人にとっては大変で――」


 少しだけ不満そうで、でもうれしそうでもある谷倉さんがぶつぶつと文句なのか姉自慢なのかをぽつぽつとらしているようだった。


 ……しかし、谷倉さんのお姉さん、何を気にしていたんだろう。


 少なくとも、曲の作者はあの篠谷しのやさんのはずだけれど、もしかすると同じ曲名を何処かで聞いたのかもしれない。


 まあ、本人が気にしなくて良いと言っていたから、気にする必要はないのだろうけれど。

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