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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第26時限目 競争のお時間 その35

 寮生りょうせいが全員集合してしまったせいでお風呂の中は大混雑。


 それはもうしっちゃかめっちゃかで、いつもは広々使っている寮のお風呂が少しでも動くと誰かの体にぶつかるくらいの芋洗い状態。


 視覚からの肌色はだいろ成分の過剰摂取かじょうせっしゅだけでも危ないのに、触覚まで追加されたら色々と危ない! と思った私はとにかくその場で固まりつつ、必要なときにだけ「ソウデスネ」と返すだけの機械になりきることで難をのがれた。


 そんな状況で心が休まるわけもなく、明日も朝早いからと私たちはお風呂から少し早めに引き上げてきて、各々(おのおの)の部屋にもどってきたにもかかわらず、今の心模様こころもようと同じ色の灰色パジャマ姿である私はもうへろへろ。


 テオからの再三のモフり要求にも対応出来ない状況だったのだけれど、最近サボり気味になっていた今日の授業の復習だけは……と勉強机にノートを開いて、今日の授業内容を一通り再確認し終わった辺りで、ひかえめなノックが私の背中にぶつかった。


「はい?」


 上体じょうたいひねってとびらに声を投げると、


「あ、あのっ、谷倉たにくらです!」


 と声がする。


 何か問題でもあったのかな、と思って私は扉を開けると青系統のパジャマ姿で立っていた谷倉さんが少しだけ躊躇ためらった表情で立っていた。


「どうしました?」


「えっと……」


 谷倉さんは少しもじもじしながら言う。


「早く寝なければならないのは確かなんですが……少し落ち着かなくて……。良ければ、少しだけお話でもしないかと……」


 寝付けなくても、目をつむって横になるだけでも疲れは取れると思うよ、という面白みのない答えがのどまで出掛でかかっていたけれど……そういえば、谷倉さんにとって、寮に泊まるというのはある意味で旅行とか合宿みたいな、ちょっとした非日常感があるのかもしれない。


 そうなると、ここでとにかく早く寝なさいと言ってしまったら、私はさながら修学旅行の見回りの先生かな、なんてことを想像してしまって、少しくすりと笑ってしまった。


「……どう、ですか?」


「あ、うん。どうぞ」


 そう言って、私は部屋の扉を大きめに開き、部屋に招き入れようとしたのだけれど。


「あ、あの、こちらの……私が泊まっている方の部屋で、いいですか?」


「え? ……あ、そっか!」


 谷倉さんはねこが苦手だ、ということをまたすっかり忘れていた。


 というのも、大体この部屋に来る子は猫が嫌いどころか好きすぎて、むしろ私よりもテオに会うために来る子しか居なかったから、今日谷倉さんから猫が苦手って話を聞いた後ですら、テオに会いに来たのかなと思い込んでいた。


「うん、そっちの部屋に行くね」


「はい!」


 そう言って、私はまた出ていくのかと若干じゃっかんうらめしそうな表情のテオの頭をでつけた後、座布団ざぶとんを両手に抱えて、おしりで扉を閉じた。


 谷倉さんの部屋は、当然だけれど、猫用グッズと倉庫から借りてきたローテーブル、そしてちょっと前に机の引き出しだけだと入らなくなってきた本を置くため、同じく倉庫から借りた本棚ほんだながないこと以外は私の部屋と全部同じ。


 そんな部屋に持ってきた座布団を敷く。


「今日は一生分、人と話をした気がします」


「一生分はちょっと言い過ぎだけど……でも、大人気だったもんね」


「はい」


 とにかく、今日の谷倉さんは質問のあらしを全身で受ける日だった。


 また、谷倉さんは真面目すぎるきらいがあり、冗談じょうだんにまでちゃんと答えていたからなおのこと大変だったと思う。


「あの……りょうに誘ってくれて、それに練習にも付き合ってくれて。こんな時間に話も聞いてくれて……本当に、ありがとうございました」


 谷倉さんは深々(ふかぶか)と頭を下げるから、私はあわてて、


「ちょっ、そこまでしなくていいから! ほら、それにそうするって約束だったし!!」


 と答えたのだけれど、谷倉さんは強い意志を感じるほどに首を横に振った。


「違うんです! そもそも、そういう約束をしてくれる時点で、全然違うんです! ……あの、正直なところ、小山こやまさんも最初は私を面倒くさいと思ってましたよね?」


「え? えっと、それは――」


 素直にそうだ、なんて言えるわけもないのを谷倉さんも分かっているだろうから、私の言葉をさえぎるようにして続けた。


「大丈夫です。反応を見ていれば分かるんです。皆からのあしらわれ方で、ああ嫌がってるなとか面倒くさがってるなって。でも、捻くれた私にはそうするしかなかったので……だから、面倒くさそうでも、ちゃんと付き合ってくれたのは、先生を除けば小山さんが初めてです。だから、ありがとうございました」


 そう言ってまた頭を下げるから、私はほおきながら、言葉を選びつつ自分の思いを吐露とろした。


「確かに、最初は距離が近すぎるタイプだなって思ったのは事実かな。でも、言葉遣いの丁寧さとか色々気になるところもあって……もしかすると、何処かでボタンを掛け違えちゃったタイプなのかなって」


 他のクラスメイトのおいえ事情を沢山たくさん目にしてきたから、谷倉さんのところも家庭の事情が複雑なのかな、くらいには思っていた。


「小山さんは何でもお見通しなんですね」


「いやいや、そんな大層なものじゃなくて! 単純にまあ……私も昔、色々あったから……っていうか、もうこの際だから、私が転校してきた理由とかも少し話すね」


 そうして、私は他の子たちにもした前の学校の話をした。


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