第26時限目 競争のお時間 その34
ということで、練習中に気付いた問題点について、谷倉さんからお姉さんにコミューで相談したい旨の連絡をしてもらった。
お姉さんは今は海外に行っているらしく、連絡はすぐには返ってこないかもしれないとのことだから、とりあえず寝る前までに連絡が来れば良いね、という状態。
そんな谷倉さんのお姉さんだけれど、聞くところによると割と谷倉さんに甘いのか「毎日でも、相談したらちゃんと返してくれます!」という話らしく、その上「お姉ちゃんは不安になったらとりあえず聞け! 無理なら無理って答えるから! って言ってました」という方針だそうだから、まあもし明日も練習中に何か気になったら相談しようか、なんて話はしている。
あ、そういえばそのときに谷倉さんとコミューのIDも交換しておいた。
ここまで色々と関係が出来たのだから、多分今後も連絡することはありそうだし。
これでクラスメイトのほとんどの子とコミューのID交換をしたことになるかな。
後、交換していないのは誰だったっけ……?
それはさておき、スケジュールの通りにいくと予定通りにお風呂。
……そう、お風呂なんです。
「お風呂場は1階の、階段下りたら左奥の方にあるからね」
私は必要な情報だけ伝えて、足早に自分の部屋に戻ったのだけれど。
「はい! ……あれ? もしかして、小山さんは入らないんですか?」
谷倉さんがたたたっと走ってきて、私の部屋の扉の向こうから顔を覗かせた。
「え? あ、ああ、入るのは入るけど、ほら……えっと、うちの猫がね? ずっと待たせっぱなしで、構ってあげないと拗ねちゃうから。後から入るよ」
テオが構って欲しがっているのは本当だけれど、お風呂入って出てくるまでくらいは我慢出来る。
なのに、敢えてそう言ったのは、もちろんいつもの……私の性別が問題なわけで。
今までも出来るだけ“こういう状況”は回避しようとしてきたけれど、大体は行く以外の選択肢がなくなっているケースの方が多かった。
だから、今回は早めから行かないという状況を作るぞ! と決めて行動しているというわけ。
「そ、そうですか……」
少し落胆気味の谷倉さん。
仲良くなったと思ったのにやっぱり壁がある……みたいなことを思っているかもしれない。
そういうわけではなくてね……と言いたい気持ちはあるけれど、ここはぐっと堪えて――
「……お風呂入るの?」
「えっ?」
その声は、自分自身お風呂に行こうとしていたらしい花乃亜ちゃんだった。
「あ、そうです。入ろうかなって……」
「じゃあ、一緒に行こ」
谷倉さんの言葉に、花乃亜ちゃんはそう言って先導するから、
「わ、分かりました!」
と力強く頷いた谷倉さんがついていく。
ああ良かった、これで一緒に入るのを回避出来た。
安堵した私が改めて部屋に戻ろうとしたところで、私の頬に、
「準」
と芯のある声がぶつかった。
「ん?」
声の方を向くと、花乃亜ちゃんと谷倉さんがまだそこに居た……というか足を止めて、こっちをじーっと見ていた。
「えっと……どうしたの?」
「待ってるから、早く着替え持ってきて」
花乃亜ちゃんが有無も言わさぬ様子で、言葉を発した。
「えっ? あ、えーっと……谷倉さんにはさっき言ったんだけど、私はちょっと後から――」
「待ってるから」
私の言葉を遮った上での、花乃亜ちゃんの無言の圧が凄い。
どうにか言い訳しようと、しばらく「あの」とか「えっと」を繰り返していた私は、
「……わ、分かりました……。すぐに着替え持ってきます」
と折れて、思わず敬語でそう答えた。
……うん、そう答えるしかなかった。
今度こそ部屋に入った私はすぐに近づいてきたテオに「本当にごめん、もうちょっと待って」と声を掛けて、着替えを準備してからすぐに廊下に戻ると。
「なるほど……たまには押すのも大事なんですね!」
「そう。準相手だと特に、押すのは大事」
「勉強になります!」
……花乃亜ちゃんが谷倉さんに要らないことを吹き込んでいそうな様子だったけれど、何も言わないことにして、3人で洗面所兼脱衣所に。
「……あれ? 準ちゃんたちも、入るところ?」
扉を開けると、丁度タオル1枚で前を隠している繭ちゃんが立っていた。
……うん、もうこの際、何人増えても変わらないよね! って逆に吹っ切った私はいつも通りの感じで、お風呂に――
「相変わらず、騒がしいわね」
「やっぱり居た」
「何か皆集まってるじゃん」
「うるさいにゃー」
「どうしたんですか?」
――もう、全員でお風呂に入ることにした!




