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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第5時限目 合宿のお時間 その10

 正木さんとの会話に意識を集中していたら、いつの間にか小さな建屋の前に着いていた。特に寮長室的な主張は見られないけれど、表札部分にやや特徴的な字で『益田』と書いてあるから、おそらくここが寮長室なんだと思う。


 ノックしようかと扉に近づくと、すぐ隣に呼び鈴が見えたので鳴らしてみると、


「はーい、どなたですか?」


 聞き覚えのある声。まあ、そりゃあ益田さんの声だから聞き間違え……あれ? 益田さんはもう少しクールボイスというか、テノール寄りのアルトと言うべきな声だけれど、今聞こえてきたのは明らかにハイトーン。この声って……。


 しばらくどちゃどちゃ音がしていたと思ったら、扉が開いて中から眼鏡を掛けた女性がひょっこり顔を出す。


「あの……」


「あら? 小山さん、とえっと……この前倒れていた正木さん? でしたっけ?」


「はい。坂本先生、こんにちは」


「ええ、こんにちは」


 扉を開けて迎えてくれたのは坂本先生だった。確かに先生たちは仲が良いとは聞いていたけれど、早速遭遇するとは思っていなかった。


「どうしたの?」


「えっと、益田さんはどちらに……? というかここは寮長室で合っていますか?」


「ああ、綾里なら今シャワー入っていますよ。良ければ部屋の中で待ちますか?」


「えっと……」


 私と正木さんは顔を見合わせてから同時に頷いた。テーブルの件を聞きたいし、今ここで帰っても勉強会を本当に皆で寝転がってやることになってしまうし……まあ、そのときはそのときでアリかもしれないけれど。


 部屋の中は、こう言っては何だけれど存外綺麗に片付いていて、大きめのテレビとか、3人掛けくらいのソファが2つとか、結構大きめな台所とか、到底1人暮らしでは有り余る設備があるのに、それを置いても尚余裕がある建屋だったのでちょっと驚いた。寮の部屋の2倍以上かも?


 ……というか、更に奥にも2つほど扉が見える。この部屋にはベッドが見当たらないから、ベッドルームとかかもしれない。尚の事、1人じゃ使い切れないかな。


「自由にソファに座ってね。あ、私の部屋ではないけれど」


 微笑を残して台所に入っていく坂本先生を見送りながら、私と正木さんは新居に移された猫みたいに辺りを警戒するようにして部屋に入る。 正確には警戒しているのではなくて、何やら見たことのない調度品的なものとか絵とかが飾ってあって、物珍しくキョロキョロしているだけなのだけれど。


「結構、広いですね」


 正木さんの囁きに私は頷いて答えた。


「そうですね……思っていた以上でした」


 余りに広かった部屋に戸惑いを隠しきれない私たちは、坂本先生が戻ってくるまで遠足前の小学生みたいな状態で、


「はい、どうぞ。ドリップ式のコーヒーしか無かったけれど良かった? ……あら?」


 思わず坂本先生が目を丸くするくらいだったみたい。


「あ、ありがとうございます」


 私たちは少しだけ汗をかきながら、坂本先生が出してくれたコーヒーと砂糖、ミルクをわたわたと受け取る。普段はあまりコーヒーを飲まないけれど、とりあえず砂糖とミルクを入れれば飲めるかな、きっと。


「それで、今日はどうしたの?」


「寮の物置にローテーブルとか置いていないかなと思いまして……」


「ローテーブル? 何に使うの?」


「クラスメイトと勉強会をしようかなと思ったんですが、机が無くて……」


「ああ、なるほど、そういうことでしたか」


 ポン、と手を打って坂本先生がずれた眼鏡を戻す。


「良いですね、勉強会。もう、この歳になると勉強会というとただの講習会などしかないので、羨ましいです」


「勉強会が羨ましい、ですか」


 首を傾げる正木さんに、慌てて首を振る坂本先生。


「ああ、別に私も勉強が好きな訳ではなかったので、勉強自体が羨ましいというわけではなくて。……私も綾里たちが居るから救われている方ですが、この歳になると中々皆で集まることも出来なくなったり、そもそも全く違う仕事をしていたりするので、同世代で悩みを分かち合うのって難しいんですよ」


「そういうものなんですか」


「ええ。だから、そうやって勉強会みたいに集まる機会があるのって羨ましいなあって。……あ、すみません、脱線してしまいましたね。この部屋には余っているテーブルは無かったと思います。寮の方は綾里に聞かないと」


 坂本先生の言葉のタイミングを見計らったかのように、ガラッと音がして髪を乾かしながら、益田さんが浴室と思われる扉から現れた。


「公香、そろそろシャンプーが無くなりかけているから……おや、お客様か」


 益田さんの登場シーンは、髪を拭いているバスタオルで上半身の隠すべき部分を的確に隠しているという状況だった。下半身は大事なところをガードしてはいるものの、そのガードしているモノ自体が本来見えていてはいけないもの。つまり、毎日お決まりの工藤さんの姿よりももう1段階くらい困った状況で、自分でも感心するくらいに素晴らしい速度で視線を手元のコーヒーカップに落とした。


 え、そこまで解説出来ている時点で、しっかり見ているって?


 ごもっとも。


 今回は、というか今回も、だけれど同じ女性同士という嘘前提があるお陰で皆無防備になってしまっているから、私も普通という表情を顔に貼り付けつつ、なるべく見ないように見ないようにと振る舞うのが非常に難しい。


 ……って益田さんは私が男と知っているんだから、少しくらい胸とか下半身とか隠して……いや、隠したらバレてしまうから、駄目なのかもしれないけれど、ああもうやっぱり益田さんは想像通り普段からルーズなんですね! と勝手に心の中で非難する。


 仁王立ちとまでは言わないけれど、一切隠す様子も恥ずかしがる様子も見せない益田さんは、そのままの格好で台所に入り、麦茶を入れたコップを持って、そのままの格好で私と正木さんの斜向い、坂本先生が座っている隣に座った。そのままの格好で。あ、胸だけは肩に掛けたバスタオルで隠れたからセーフ、ってそういう話ではなくて。


 いや、いくらなんでももうちょっと恥じらいを、ね!?


1/24 文章修正

「益田さんの登場シーンは、両耳の脇から流している長い黒のストレート髪だけで上半身の隠すべき部分を的確に隠していた。」

「益田さんの登場シーンは、髪を拭いているバスタオルで上半身の隠すべき部分を的確に隠しているという状況だった。」


文末の修正もありますが、何よりも修正は最終行手前のバスタオルで隠す云々含めて、益田さんの危ないところを隠すシーンです。

私自分でキャラクター設定した際に、益田さんの髪の毛短く設定していまして、それを下手ですが、絵で設定資料的な形で「活動報告」に昔保管していました。

それを覚えていただいていた方から「益田さんの髪の毛って短くなかったっけ?」とご指摘頂き、自分で絵を見直して「……確かに髪の毛短いじゃん!」と気づき、修正することにしました。

ご指摘ありがとうございます。

なので、まあストーリーにあまり影響無いですが、分かっている不一致部分を残しておきたくない(というか修正忘れてしまう)ので、今修正させていただきました。



それではまた。

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