表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/961

第5時限目 合宿のお時間 その8

 そこはかとなく雲がお腹の中に溜まったような、すっきりとしない気分のままで授業が終わって放課後。


「小山さーん、部屋に行ってもいーい?」


 毎日の焼き直しみたいな流れで、岩崎さんが鞄を抱えながら小走りで近づいてきた。


「ええ、構わないですが……」


「あ、もちろん勉強のためだよ?」


「本当ですか?」


「ほ、ホントだって! あー、それでさ、小山さ、」


「おい、小山ー。どっか遊びに行こうぜ」


「遊びに行くじゃーん?」


 突然後ろから、声と共に全身を預けるようにして誰かがもたれ掛かってきた。


「えっ、あっ」


 声の主を見上げると、茶髪ギャルその1その2たる大隅さん、中居さんが左右からもたれ掛かっていた。2人からは香水かと思われる匂いと共に若干の化粧臭さも感じた。


「ちょっと、大隅!」


「なんだよ」


 岩崎さんと大隅さんの視線同士がラグビー選手みたいに真っ向勝負で火花を散らす。


「小山さんはあたしたちと今から勉強なの」


「へー? 奇遇だな、こっちも今から勉強だ」


「遊びに行こうとか言ってたじゃん!」


「社会勉強だよ、社会勉強」


 大隅さんの言葉に苦笑いする私。あれかな、屁理屈が多いタイプなのかな、大隅さんって。


「っつーかさ。いつも小山って岩崎たちと居てばっかりで、他のクラスの奴らと全然絡まないし、岩崎たちが振り回してばっかりだから小山が可哀想だろ」


 私の椅子を半分無理やり奪うようにして座る大隅さんは、ギャルの基本事項だと勝手に私が思っているだけかもしれないけれど、制服をアクロバティックに着崩しているせいかあっちこっちから素肌だの下着だのが覗いていて、私は強引さと共に目のやり場にも困ってしまっている。正木さんほどではないけれど、粗野な物言いの割にはそこそこに女性的な体格だと思うので、ドキドキしないこともない。


 中居さんも中居さんで、どちらかと言うと控えめバディだけれど、際どいなあで済む大隅さんとは違い、常にアウトというか、ワカメちゃんスタイルとまでは言わないけれどこの格好で登校しているの!? って思うくらいに制服着崩しマスターなので、顔以外にはあまり視線を向けられない。


 ま、まあそれで挙動不審になってしまってはいけないのだけど、もうちょっと服装には気を遣って欲しいな! 私のために!


 でも、正直なところ前の学校と比べて、女子校で男性の目が無いからなのか、服装の乱れというか着崩しは多い気がする。


 スカートの短さは正木さんみたいに真面目な子を除いて膝上が当たり前だし、机に足を乗せてたり椅子に立て膝していたりするから大隅さんに限らず見えてしまうし、クロスタイは外しているかゆるーく首からネックレスみたいに垂らしている子も一定数居る。


 ……あ、お隣に座っている大隅さんはもちろんのこと満点でした。


「そっ、そんなことは……で、でも今日はとにかく小山さんと勉強するんだから!」


「ふぅーん?」


 大隅さんはジロリというかギロリ、と岩崎さんを睨んで、


「まー今日はいいや。んじゃ小山、明日は空けとけよー。あーあ、今日だったら勉強する気あったのになー、残念だなー」


「さげぽよー。んじゃほしっち遊びいこー」


「おうー」


 茶髪2人娘が鞄を持って教室を出ていったのを見送ってから、私の手をワニの口みたいにガッチリ掴んだ岩崎さんは、


「行くよ!」


 と声を張り上げて言うから「お、おおう……」とたじろぎながらも私は頷いた。


 教室を出る際に振り返ってみると、また教室からの視線がビビビと太陽光を虫眼鏡で集めたみたいに集中していた。ああ、何だろう、転校してからそんなに時間経ってないはずなのにクラスメイトからの視線を集めることが多いなあ。


 手首が痛いくらいに掴んだまま私を引っ張っていく岩崎さんと私たちの後を慌てて付いてくる正木さん、少し離れていてのんびりと歩いているけれども見失わない程度にはちゃんと付いてきている片淵さんという構図で私たち4人は昇降口まで到着。流石に靴を履き替える為に手は離してくれたので一呼吸。


「あ、あの」


 外履きに履き替えながら私が切り出す。


「あの2人のことはあまり気にしなくて良いですよ」


 勉強する気だったというのも本気ではないと思う。なんたって得点取れるような勉強方法でも勉強したくないって即答する2人だから。


「分かってる」


 分かっているとは言いながらも、ぶっきらぼうというか突慳貪つっけんどんというか、とにかくツンツンモードの岩崎さんが今度は足早に校舎を出ていくから、残された私たちは親猫の後を追う子猫みたいにぞろりぞろり付いていく。


 寮に着くまでは無言、私の部屋に入ってからも無言。ただし、部屋ではテオとベッドの上で猫じゃらしを使って遊び始めていて、少し笑顔も見える。とはいえ「あれ、勉強するんじゃなかったっけ?」なんてことを言い出したら言わずもがなかな。


 まあ、とりあえず慌てて勉強する必要も無いかなと思い、飲み物とかの準備をしようかなと腰を上げて、


「あ……そういえば、勉強用の机が無いなあ」


 と真っ先に大きな問題にぶち当たった。


 ここのところ、大隅さんが言っていた通り、全員一緒に居ない日は土日くらいで、平日は昼食含め、常に4人行動をしていると言っても過言ではなかった。


 もちろん嫌ではないのだけれど、他のクラスメイトとはやや疎遠のままだなあというところだけは少しだけ気になっている。


 その岩崎さんたちなのだけれど、前に宣言していた通り色々なものを私の部屋に持ち込んで、占領とまでは言わないけれど、若干の侵食はされていた。トランプとか人生ゲームみたいな遊び道具とか抱きまくら的な感じで持ってこられた結構大きな枝豆のぬいぐるみとか。


 まあ、とにかく小物は増えたけれど、肝心な勉強用のローテーブルは私も持っていなかったし、持ってくる人も流石に居なかった。私用の勉強机があっても、皆で勉強する机がなければ何にしても勉強会は出来ない。まさか皆で寝そべって勉強するわけにもいかないし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ