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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第5時限目 合宿のお時間 その7

 授業が終わって休み時間。そういえば、と思って咲野先生が教室を出たところで声を掛ける。


「咲野先生」


「ん? どったの?」


 足を止めて振り返った咲野先生は疑問符を浮かべる。


「えっと、渡部さんってどうなったんですか?」


「ん? あれ、見つけたって話、太田ちゃんから聞いてない?」


「あ、いえ。見つかったとは聞いてはいます」


 さっき授業中にこっそり携帯見たら、確かに登録したばかりの太田さんの電話番号がずらりと並んでいた。おそらく太田さんが言っていた渡部さんが見つかったという連絡のためだと思う。授業中だからってサイレントモードにしたのが失敗だったなあ。


「どちらかというと、その後どうしたのかなって」


「あー、公香が保健室に居たから公香に言って、美夜子に取りに来てもらうように言ったらしいよ」


「ああ、なるほど」


 そっか。全部自分で解決しようとせずに、坂本先生にお願いする手もあるんだなあ。


「ってか、アタシはまさか小山さんがあの大隅と中居を無血開城で連れてくるとは思ってなかったよ」


「ああ……えっとあれは色々あって……」


「んにゃー、良いよ言わなくても。何となく太田ちゃん帰ってきたときの態度からして、一悶着あったんだろうなーってのは分かってるし」


「う……」


 凄くいい加減な性格しているのに、変なところ鋭いなあと思う。


「太田ちゃん、真雪ちゃんと同じで真面目過ぎるからねえ。何か真面目そうだから小山さんも同じなのかなーって思ってたけど、適度にゆるくやってくれたからあの2人もついてきたんかなーなんて。ま、とにかく良かった良かった」


「どう、でしょうね」


 ある意味、太田さんとの仲をイケニエに、大隅さんと中居さんとの仲を改善したところがあるから、良かったと素直に喜んで良いのかは分からない。


「あはは、まあ太田ちゃんは肩肘張りすぎだし、あのままじゃ近い内に限界が来ちゃうだろうから、どうにか止めてあげたいんだけど、中々頭ごなしに言っても聞いてくれないかんねー。だから、そういうところは小山さんが助けてあげてくれると嬉しいかなーなんて、転校してきたばかりなのに小山さんに頼ってばっかりだなあ、アタシ」


「いえ、私で出来ることなら」


 頬をポリポリ掻きながら、咲野先生が呟く。


「んー、そうだなあ。小山さんが困ったときには何でも言うこと聞いてあげようかなー、なんてね」


 きゃぴっ☆ とでも擬音が付きそうな動きで言ってから、咲野先生がまた真面目モードに戻る。


「まあ、知ってるというかもう分かってるかもしんないけど、うちのクラスってアクの濃い子ばっかりなんだよね。で、その中でも大隅と中居はうちのクラスの中でも飛び抜けて変わり種だから、学校側からも締め付けが強くなりつつあったんだよ。でも、小山さんのお陰で少しは学校生活楽しんでくれそうだから、ホントに困ったら何でも言って良いからね」


「……分かりました」


 ふざけた調子の咲野先生と真面目調子の咲野先生。どっちも本当の咲野先生なんだろうと思うし、こういうキャラクターだからこそ、うちのクラス担任なのかなと思う。


「あ、教室とか職員室で話しにくいこととかあれば、たまには寮長室とかでも良いよ」


「え? 寮長室ですか?」


「そそ。週に1、2回くらいアタシとか公香とか遊びに行ってるからそのときに言ってもらってもいいしさ。アタシだけじゃなくて、綾里とか公香も相談乗ってくれると思うし」


「ああ、なるほど。……本当に仲が良いんですね」


 登校初日も坂本先生は寮長室に居たみたいだし。


「んまあ、アタシ含めて3人共独身貴族だからねえ。とか言いながら、独身じゃない真雪ちゃんもたまに来てるけど」


「理事長も?」


 う、理事長が居るタイミングでは行きたくないなあ。


 いや、悪い人ではないし、寮長さんとか咲野先生みたいな面倒なタイプでもないのだけれど、どうしても緊張してしまうから。


「真雪ちゃん、怒ると怖いけど昔から根はいい子だからね。ってかいつも怖いだけだったらアタシ転校してるし」


「理事長怖いから転校します、なんて先生居るんですかね……?」


「確かに居ないかもねー」


 あっはっは、と大笑いしながら咲野先生が言う。


「まあ、居ても別の理由付けて無理やりこじつけて転校するでしょ、多分多分。……っとまずい、職員室戻らなきゃ。んじゃ小山さん、授業頑張って」


「あ、はい。ありがとうございました」


「ばいばー」


 咲野先生が手を振りながらスロープを下りていくと同時に、お手洗いの方から歩いてくる女子生徒の姿。そういえば授業中は流石に白衣を着てないんだなあ、なんてことを改めて思いつつ、私は彼女の名前を呼ぶ。


「桜乃さん」


「ああ、小山さん。……その、今朝は済まなかった」


「あ、やっぱり分かっててやってたんですね」


 みゃーちゃんを探しに行って欲しい、と言っていたときに突っ伏していたのは単純に眠かったからなのかとも思ったけれど、この反応からして私と目を合わせないためにやっていたんだと分かった。


「ああ」


「まあ、確かに咲野先生も桜乃さんがみゃーちゃんの部屋に行っていることは知らなかったかもしれませんが……」


「いや、咲野先生は知っているよ」


「え?」


「私が彼女、美夜子の部屋に出入りしているのは咲野先生も知っている。キミが来る前は彼女にどうしても何か連絡がある場合は私が呼ばれていたからね」


「だったら――」


 私の言葉を制するように手をかざす桜乃さん。


「言ったろう? 先生が”懐いている”と。ボクと彼女はただの仕事仲間というか、研究や情報を共有するだけの間柄で、それ以上でもそれ以下でも無いんだ。だから、美夜子の機嫌が悪い場合は何があっても一切話をしてくれなかったし、向こうから私を呼び寄せるようなことはよっぽどのことがなければなかった。でも、キミは渡部さんを通じて呼び出すようなことがある。それは絶対的な、ボクとキミの違いなんだ。……少し悔しいけどね」


 少し悔やむような、はにかむような、何とも言えない表情で言った桜乃さんは、


「でも、何となく分かる。彼女がキミを頼るのも……ああ、いや、この話はやめよう、忘れてくれ。ああ、授業がもう始まる。教室に戻ろうか」


 と慌てて話を打ち切って、そそくさと教室に戻っていった。


 おそらく、桜乃さんは勘違いしている。私がみゃーちゃんが私を呼んでいるのは単純に私が男だという秘密を知っているから、それをネタに呼んでいるだけ。事情を知らない他人には仲良く見えるかもしれないけれど、ただそれだけのこと。


 誰に言うでもなく、そう思いながら私も教室に戻った。

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