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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第5時限目 合宿のお時間 その5

「渡部さんが見つかったから連絡したのに全然電話に出ないし、妙だと思ったら……!」


「す、すみません」


 まだ携帯は見ていないけれど、おそらく着信履歴に太田さんの名前がずらっと並んでいるんだろうなあ、と冷や汗をかきながら思う私に、溜息を吐いた太田さんが私に言う。


「まあ、でもどうせその落ちこぼれ2人が貴女を困らせて引き下がったのでしょう。授業だって出る気はないとか言ったでしょう? だから放って置いて帰りましょう」


 じろっ、と眼鏡の奥から大隅、中居両名の顔を睥睨してから、昇降口に向かう太田さん。見られた2人を私も見ると、大隅さんはふん、と明後日の方を向いているし、中居さんは手をひらひらさせて「さっさと行っていいよー」というポーズをしている。


 ……確かに、最初はちょっとアレな2人だと思ったし、最初こそ関わりたくないなあなんて思ったけれど、案外話をしてみると嫌な子ではなく、色々考えてるからこそじゃぶじゃぶと両足ごと人生の深みにハマってる系女子なんだなって思うから、駄目な人間だって勝手に決めつけるのって良くないと思う。まあ、実際授業に出る気無いっては言っていたけれど、どうにかしたいとも思っていたみたいだし。


「いえ、むしろ私から話を長引かせてました」


「何を言っているの?」


「というよりも、授業中に戻ってくれば出席したことにしてくれるから、それまでサボっちゃおうと」


「…………貴女、何を言っているか分かっているの?」


 静かに揺らめく炎が如く、太田さんの怒りボルテージが上がっていくのが分かる。無視を決め込もうとしていた大隅さんが私の言葉に何かを言おうか戸惑っている顔と、ちょっとおろおろし始めた中居さんが視界の端に映っていた。


 でも、私も止まらない。


「ええ、もちろん。たまにはサボるのも良いかなと思いますし」


「ふざけているのっ!?」


 ブチッ、と血管が切れるような音が聞こえたような気がした。


「ふざけてはいません。事実を言ったまでです」


「貴女ね……!」


「お、おい、小山。そこまで煽る必要は――」


「――そう。小山さんはそういう人だったってことね」


 大隅さんの言葉に被せ気味で、太田さんが私に鋭い視線を送りながら言い放つ。


「はい」


 冷静に、沈着に、私が悪びれもせず言葉を押し出すから、逆に太田さんも吹っ切れたみたい。


「だったら好きにしなさい。私は教室に帰ります」


 捨て台詞のように太田さんが言って、足音を静かに立たせながら去っていくのと同時に、大隅さんと中居さんが近づいてくる。


 ……ふう、疲れた。


 太田さんのあの眼は背筋が凍るかと思った。


「おい、小山。良かったのかよ」


「こやまん、あれはちょーやばたんなんですけど!」


 ギャル2人が血相を変えて、私に詰め寄る。


 やばたん、っていうのは多分ヤバイの上位互換か何かだよね、きっと。


「まあ、そうですね」


「そうですね、で済む話かよ!」


 私の胸ぐらをつかんで、大隅さんが私をめつける。


「完全にあおってんじゃねえか。そんなに太田と仲良くなかったのかよ」


「いえ、どちらかというと今日まではやや仲の良い方だったかと思っています」


「だったら何で煽った」


「んー……太田さんが大隅さんと中居さんをこき下ろしてばかりだったことに腹が立ったから、ですかね」


「……は?」


 大隅さんの口から飛び出した疑問符付きの言葉が私の額に当たった、気がする。


「最初、大隅さん、中居さんと一緒にサボろうなんて話をし始めたのは、妹の件があった上に太田さんも2人を酷くけなすから、ああよっぽど人間的に難ありなんだろうなあって思って、逆に興味が湧いてしまったからです」


「おいぃ!?」


「まあ、最後まで話を聞いてください。後、中居さんの言い方を真似たりしたのは、ギャルみたいなタイプはどうお近づきになれば良いのか分からなかったので、とりあえず輪の中に入るために言葉からかなーと思って」


「あはは、そういうことかー」


 中居さんが笑顔で答える。


「まあ、とにかく今日話をした限り、そんなに悪い人たちじゃないのに、何で太田さんがあそこまで酷いこと言うのかなと思っていたら、何か言い過ぎてました」


「お前……本当にそれだけかよ」


「はい、そうです」


 そう。たったそれだけ。


「……はあ、お前こそアホだろ」


「はは、そう思います」


 私の両肩に手を置く大隅さん。私も正直なところ、あそこまで煽る必要はなかったと思うけれど、もう今更だし笑っておこう。あっはっは。


 多分、太田さんだって今まで何度もこの2人を連れて帰ろうとして、それでも2人がかたくなに戻ることを拒んでいたりした苦労があったのかもと思うと、本当に今更ながら太田さんに悪いことをしたなあと思うけれど、うん、本当に今更だから悩んでも仕方がない。


 髪の毛ドリドリの中居さんもお腹を抱えて笑い出す。


「でもさ、こやまんのキャラ、マジじわるわー。もえっちょブチ切れさせるとか初見はつみだわー。マジ神ぽよー」


「神ですか」


「神神、マジ神」


「……ホントに良かったのかよ、あれで」


 大隅さんはまだ気にしてくれているみたいだったから、私は素直に答える。


「良いんです。まあ、これ以上太田さんを怒らせすぎないように、そろそろ一緒に教室へ帰ってくれる更に嬉しいんですが」


「……はあ、やれやれ。分かったよ」


「よっし、帰るぽよー」


「ええ、そうするぽよー」


 ライトノベルの主人公みたいに苦笑いしながら答える大隅さんと、けらけらまだ笑っている中居さんと共に私は教室に向かった。


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