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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第5時限目 合宿のお時間 その4

「あ、私の方から自己紹介した方が良いでしょうか?」


 私が言うと即座に髪をドリらない方の茶髪少女が答える。


「知ってるよ。最近転校してきた小山準だろ」


「そんなの知ってるじゃん?」


 髪をドリってる方の子も即答するので、


「あら意外。知らないと言われるかと思ってました」


 と素直に驚いた。何か転校生が来た、とかいうくらいしか覚えていないと思っていたし、私自身あまり名前と顔がまだ一致していない人が多いのだけど。


「前のアレがあった後に、転校生のコト調べたんじゃん?」


「晴海、そういうの言わんでいいから」


「覚えてろよ!」と捨て台詞を吐きながら、きっちり誰だったか調べているというのはある意味律儀だと思う。


「それで、どちらがお名前的にどちらなんでしょうか?」


「……大隅星歌おおすみほしかだ」


 後ろ髪を髪留めで留めている方の子が大隅さんと言うらしい、ということは。


「アタシが中居晴海なかいはるみちゃんじゃん?」


「よろしくじゃん?」


「真似せんでいいから」


 私が真似すると、大隅さんがきっちりツッコミを入れてくれる。凄く律儀。


「……でも、二見台みたいな進学校からこんなとこ転校してくるようなお硬い学生さんが何でこんなところでサボろうって言うんだよ」


「二見台みたいな進学校だったからかなと思います」


「んあ?」


 ちょっと間の抜けた大隅さんの声に、私は言葉を選びながら言う。


「まあ、あまりに皆頭が良く、進学校過ぎたからと言いますか」


「あー、勉強ばっかだと疲れるよねー」


「晴海! お前簡単に馴染み過ぎだろ!」


 私の隣にいつの間にか陣取ってうんうん頷いているボケ担当の中居さんとツッコミ担当の大隅さんはそれぞれ完全に分業できているみたい。要所要所で大隅さんが突っ込んでいるのを見て、私は常に漫才を見ているような感覚を覚えて笑いを堪えられない。


「っつーか、あたしと会ったときにはあんなに好戦的だったのに、今回は一緒にサボろうとか何考えてんだよ」


「いや、あのときはうちの妹からカツアゲしようとしたから腹が立っただけで、普段の私はそんなに好戦的ではないですよ」


「あー、つまりシスコンなんじゃん?」


「シスコンではないじゃん!?」


「だから晴海の真似するなって。アホが伝染うつるから」


「うわ、酷いし!」


「そうだし。別に変じゃないし」


「ああもうめんどくせえ!」


 私は中居さんと顔を見合わせて笑い、それに腹を立てる大隅さんを見て笑い、何だか妙に楽しくなった。


「アタシ、小山ちゃんと仲良くなれるかもー」


「よろしくお願いします」


「ったく……」


 腹を立てているようで、それでも少し楽しそうな大隅さんに、


「それで、何してたんですか? ここで」


 と尋ねる私。


「別に何も。ただ、授業に出たくないってだけ」


「まー、アタシたちバカだから全然授業受けても分からないしー」


「たちって言うな、たちって」


「えー? 星っちもいっつも補習組じゃん?」


「……仕方がないだろ。どうせ勉強しても点数取れねえし」


 しゃがみこんで呟く大隅さん。


「うーん……点数が取れる勉強ならするんですか?」


「しない」


「しないじゃん?」


 2人が即答したので、私は頷いた。ですよね。


 私だって、中学の頃は趣味を持っていなかったし、やることが他になかったから勉強をしていただけで、もっと別の趣味を持っていたら勉強に打ち込むことも無かったと思う。


「でも、かといってずっとこのままじゃ駄目だってのは分かってるじゃん?」


「まあな」


「てか小山さん、二見台なら頭良いんじゃん? 家庭教師とかやってくれたら――」


 言い掛けた中居さんを制止する大隅さん。


「やめとけ。どうせ頭が良いやつは頭の悪いやつの分からないことが、何故分からないのかすら分からないだろうしな」


 大隅さんの言葉に、私は少し悩んでから言ってみる。


「んー、やってみます? 家庭教師」


「いや、だから――」


「こやまんが補習にならないくらいにしてくれたらあげぽよー」


「ぽ、ぽよー?」


「や、なんか使ってる人が居てちょーカワイかったから、たまに使ってるぽよー」


「なるほど。じゃあ家庭教師やってみるぽよー」


「だから!」


「ちなみに既に死語らしいぽよー」


「えっ」


 中居さんのノリに合わせて言ってみたら、まさかの中居さんからの暴露に私は素に戻る。


「まあ、でもアタシも知り合いにちょっとそういうの使う人が言うくらいで、あんまし良く分かんないし、カワイければ何でもいいっしょ」


「……そうですね。それで、大隅さんは家庭教師は要らないんですか?」


「要らない」


 頑なに態度を硬めたままの大隅さんに、


「と言いつつ、やる星っちなのでした」


 と相変わらず茶化す中居さん。


「やらねえ!」


「まあ、嫌なら嫌で良いですが、でも本当にそれで良いんですか?」


「……」


 大隅さんの沈黙。何か思うところはあるのかもしれないなあと思いながら、もうひと押し必要かなとも思う。


「大丈夫です。あまりにもアホだったら、私も諦めます」


「アホって言うな!」


「アハハ」


 中居さんが笑って、私も笑って、大隅さんも少しだけ笑ったところで、


「……小山さん、何やってるんですか……!」


 地獄の底から響くような声がして、私と大隅さん、中居さんは壊れかけの手押し車みたいにガタガタと震えながら振り返ると、鬼の形相をした太田さんが腕を組んで冷たい視線を全力投球していた。


「……探してたのってこやまんだけじゃなかったぽよ……?」


「じゃなかったです、はい」


 脳内から緊急脱出していた情報が今更戻ってくる。ホント、今更だけれど。


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