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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第5時限目 合宿のお時間 その3

「まあ、分かんなかったらいいよ。というか小山さんは渡部さんを探してくれればいいし」


「大丈夫です。大隅さんと中居さんも分かりましたので、見つけたらふん捕まえます」


「おお、頼もしいね。んじゃあ太田ちゃんと小山さん、よろしくね」


 私は頷いて、足早に教室に出た。


「張り切ってるじゃない」


 少し遅れて出てきた太田さんに私は素直に今の気持ちを言葉で返した。


「いえ、単純にあの状態で教室に居たくなかっただけです」


 早足だった理由は早く探しに行こうという気持ちの表れではなく、さっきからずっと好奇の目に晒されているのに耐えきれなかったというだけ。


「……まあ、小山さんも転校して大して経ってないのに色々と大変だから仕方がないわね」


 意外と、と言ってはいけないけれど、太田さんが溜息と共に私を気遣うような言葉を発した。


「咲野さんもいい加減なのに変なところ気を回すし、だからと言って自分でそう簡単に動けるわけでもないから声を掛けやすい人間に掛けるしでホント迷惑よね」


「まあ、咲野先生のキャラはもう大体分かってますから」


「あら頼もしい。じゃあ、工藤さんに続いて、咲野先生も頼もうかな」


「謹んで遠慮します」


 私が仰々しく言うと、少しだけ微笑みを作った太田さん。太田さんが笑ったの、初めて見たかも。


「さて、問題児2人と石像みたいになってると思われる渡部さんを探しに行きましょうか。私は屋上から探すから、小山さんは1階……よりも先に外、校舎周りを見回って頂戴」


「校舎の外?」


「……正直なところ、渡部さんは多分校舎内で電池切れしてるだけだろうから校舎内上から下まで探せば簡単に見つかるかもしれないけれど、あの問題児2人は校舎の陰に生えたキノコみたいにこっそり隠れていたりするから、中々見つからなくて。ちょっと手伝って頂戴」


「ああ、なるほど。分かりました」


 綸子に絡んでいたのを見つけたときも、確かに校舎外だった。まあ、あれは既に授業終わっていたけれど、もしかすると生息地はあの辺りなのかな?


 ちなみに、だったら太田さんが外を先に探した方が良いんじゃないかな、なんてことは言わない。多分、工藤さんのときみたいに押し切られるのは分かっているから、無駄な押し問答はしても時間が勿体無いしね。


「あ、こちらで渡部さんが見つかったら連絡するわ」


「あの、でも私、太田さんの番号知らないんですが」


「…………そういえば私も小山さんの電話番号知らないっけ」


 互いに苦笑して、私たちは電話番号を交換してから別れた。


 太田さんが言う通り、1階に降りてから靴を履き替えようとすると、


「あれ?」


 見覚えのある黒猫が背後を傍を通り抜ける。私がしゃがみこんで手を伸ばすと、黒猫ちゃんは私の指の匂いを嗅いでから昇降口を抜けて外に出ていった。あれ、前は足元スリスリするくらい仲良しさんだったのに。あのときはたまたま機嫌が良かったのかな?


 変化といえば前に見たときよりちょっと太ったかもしれない。去っていく足取りをを見る限り、歩き方が少しぽてぽてしたというか、今までの細身からしっかり体型へと変わったかなという印象がある。


 みゃーちゃん、落ち込んでいた感じだったから、逆にあの子を甘やかしすぎて食べさせすぎてるのかも。今くらいならまだ良いけれど、もっと太るようであればちょっと気をつけてあげないと。


「……あ」


 何気なく黒猫のノワールちゃんを見送ってしまったけれど、良く考えればあの黒猫ちゃんが居ればみゃーちゃんの部屋に入れるかもしれない。そうすれば渡部さんを探すことも出来る、はず。今のみゃーちゃんが会ってくれるかという疑問はさておき。


「ちょっと待って!」


 猫にそんなこと言ったところで待ってくれることは無いのだけど、口走ってしまうのは猫飼いのさがかな。慌てて外履きに履き替えて飛び出し、黒猫ちゃんの後を追うと――


「なんだこの猫、迷子か?」


 ……あれ、聞き覚えのある声。


「黒猫ちゃんじゃーん。でも、黒猫って目の前通られると死ぬんじゃなかったっけ」


「マジかよ、今通られたあたしたちヤベーじゃん」


「短い人生だったね、星っち……南無」


「いや、晴海お前もだろ!」


 何だかやけに盛り上がっている女の子たちがいるから、別に見ているのは家政婦だけではないのですよ、とでもいう感じで校舎の陰から覗き込む。私の視線の先には茶髪の女子生徒2人。待ち人来きたる。いや来たのではなくこっちから見つけに行ったんだけれど。


「げっ」


「うえっ」


 去っていく黒猫ちゃんを視線で追っていた2人は視線を戻したときに校舎の陰に居た私と視線があって、明らかに嫌そうな顔と声を表した。


「あら。授業もう始まってるけれど、チャイム聞こえなかった?」


 白々しく私が言うと、


「聞こえてるっての!」


 後ろ髪をまとめている方の茶髪の女の子が苛立たしげに言う。あ、どっちがどっちなんだろう。こっちが大隅さん? 中居さん?


 とにかく早速ミッションの内1つをコンプリートしてラッキーと思いつつ、私の尋ね人の方ではなかったことに少しだけ残念さを感じていた。うーん、渡部さんはどこに居るんだろう。


「何、クラス委員長気取りー? ちょーウケるんですけどー」


「あら、今度は貴女が壁とキスしたい?」


 指を鳴らしながら近づくと、縦ロールちゃんの方が後ろ髪をまとめている方の子と手を取り合って、


「ぼ、暴力反対!」


 なんて言うから、私は少しだけ笑ってしまった。


 さて。


 ポケットの携帯を見ると、後授業終了まで1時間弱ある。高校になってから90分授業になってしまったから正直長過ぎるとも思う。


「な、なんだよ。センコーにチクるんだったらさっさとしろよ! あたしたちは帰らないからな!」


 どうやら後ろ髪をまとめている方の子は、私がポケットの携帯を見たことで本部の咲野先生へ彼女たちの所在を報告でもするつもりなのかと思っているみたい。本当は私自身、すぐにそうしようと思ったのだけど、んー。


「……後50分かあ」


「は? 何が50分なんだよ」


「教室に戻るまでの時間の余裕、かな。ここから教室まで戻るのに2、3分は掛かるだろうし」


「……??」


 茶髪ちゃん2人共、互いに顔を見合わせて疑問符エンジェルを頭上に飛ばしながら目を瞬かせていた。


「授業が終わる時間前に教室戻れば良いって先生が言ってたから」


「だからどうしたんだよ」


「私もちょっとサボろうかなって」


「…………?」


 再度、茶髪ちゃんたちの頭の上に居る疑問符エンジェルはアメーバみたいに分裂して増殖していく。


「い、いや、さっさと帰って、アタシたちを見つけたけど、帰らないって言ってた、って報告すればいいじゃん」


「私もたまにはサボりたいなーって」


「……はあ?」


「あ、そうだ。ところで、どっちが大隅さんで、どっちが中居さん?」


「そこからかよ!」


 ドリルちゃんじゃない方の子から綺麗に漫才みたいなツッコミが入って、私は思わず声を出して笑ってしまった。


2017/10/25 誤字修正

「去っていく足取りをを見る限り、」

「去っていく足取りを見る限り、」

今回のように”語句の中に間違ってはいった不要の字”を衍字えんじというそうです、初めて知りました。

ご指摘いただきましたので、修正しました。

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