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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第4時限目 変化のお時間 その11

「心配掛けて、すまない。……そうだな、もうこの件からは手を引いた方が良いかもしれないな」


「……ええ」


 ようやく呼吸も落ち着いた私は椅子に座り直したけれど、それと対照的に桜乃さんはベッドから腰を上げた。


「もう大丈夫だ。1人で帰れる」


「でも、吸血鬼がまだ近くに居るかもしれないですし、一緒に帰った方が……」


「それについてなんだが、私が調査した限り、同じ人が複数回被害に有ったケースは無かった」


「……つまり1回被害に遭った人は2度目の被害に遭わない、ということですか?」


「まあ、そういうことになるな」


 初めて聞いた話に私は少し首を捻った。吸血鬼に血を吸われた人が吸血鬼化するという話は聞いたことがあったけれど、もしかすると2回目以降血が吸われないという話が「吸血鬼化したから血を吸われなくなった」と捻じ曲がって伝わったのかもしれない。確かに桜乃さんが言うように、本当に2回目以降狙われることが無いのならば、1人で行動していても安全ではあるけれど、吸血被害で倒れているのだからやはり1人で行動するのは良くないと思うのだけど……。


「とにかく、私は大丈夫だ。さて、坂本先生、小山さん、ありがとう。それじゃあ――」


「駄目にゃ」


 桜乃さんが保健室から出ようと保健室の扉を開こうとすると、先に開いた人物が居た。その小さな訪問者は猫耳をぴこん、と立てて仁王立ちしていた。


「……何だい? 美夜子」


「だから美夜子じゃないにゃ、みゃーだって言ってるにゃ! ……さっき、桜乃のお母さんに電話したにゃ」


「え? い、いや、でも……」


 何故か焦りだす桜乃さん。


「どうせ1人で帰ろうとすると分かってたにゃ。だから先回りして電話したにゃ」


「う……」


「全く、まだ反省してないにゃ。体調が万全じゃないんだにゃ。だから、ちゃんとお母さんと帰るにゃ。さっき、すぐに来るって言ってたから、ゆっくり校門に向かうにゃ」


「……はあ、分かったよ。全く、小山さんも美夜子もボクに構いすぎだよ」


 そう言いながら柔らかい笑顔を見せる桜乃さん。


 桜乃さんのお母さんを呼んだみゃーちゃんは、そういえば私に女の子変身セットを作ってくれた本人だから、彼女自身も付いていくつもりで電話したのかと思いきや、


「日焼けするとガンになるから行かないにゃ」


 とか言って校舎の外へ出ることを断固拒否した。確かにみゃーちゃんは幽霊かって思うほど肌は白いのだけど、ずっと外に出ないというのも体に悪いような。


 それはさておき、まだ体調に不安が残る桜乃さんのお目付け役とは大げさだけれど、私が隣に並んでゆっくり校門に向かって歩いていると、沈黙に耐えかねたのか、桜乃さんが口を開いた。


「本当は、母には連絡して欲しくなかったんだけどね」


「お母さんのこと嫌……あまり仲良くないんですか?」


 ストレートに聞きすぎたと思って、慌てて言い換えると、苦笑いのまま首を横に振る桜乃さん。


「いや、嫌いではないが、ちょっと愛情が過剰で――」


「華奈香ちゃん! 大丈夫だったんですか!? 無事だったんですね!」


 桜乃さんが言い切る前に校門の方から、全力で声を出しているのかもしれないけれど、お世辞にも大きいとは言えないどこか抜けたような女性の声が飛んできた。


 へにゃりボイスのその女性は前髪が長く、ほとんど目が隠れていて、前が見えているのか良く分からないけれど、一応こちらに向かって走っているところから、見えないことはないんだろうと思う。まあ、全力疾走しているような動きだけれど、異様に遅いから運動は非常に苦手なんじゃないかなと思うけれど。


 そして、私たちの前に来たところで大きく肩で息をしてから、桜乃さんをひっしと抱きしめ、摩擦熱で火が出るんじゃないかってくらいに頬を擦り付けた。


「ああ、華奈香ちゃん! 無事で良かった!」


「……だろう?」


「はい」


 私は頷く以外に何も出来なかった。もう何というか、小動物に対する愛情の注ぎ方みたいな感じと形容するのが良い気がするほどに愛が溢れている。


「吸血鬼探しをしていたら襲われたって聞いてますよ! 全く、私に似て、好奇心ばかりで後先考えないんですから!」


「はは、母さんも自覚あるんじゃないか」


「ゔっ……あ、当たり前です! 私の子ですからね!」


 言いながら、桜乃さんのお母さんと思われる女性がまだまだスリスリするから、私は数歩離れて親子水入らず空間を遠巻きに見ていると、桜乃さんがむぎゅん、と母親を押し返して私の紹介をした。


「母さん。ボクが倒れたときに助けてくれた、友だ……いや、クラスメイトの小山準さんだ」


「桜乃さんの”友達”の小山準です」


 桜乃さんが言い淀んだから、私は敢えて友達という言葉を強調して言うと、桜乃さんが少し照れて笑ったのが分かった。


「小山……? まさか、貴方が小山女史の子供さんですか!?」


「え? あ……はい? ……ああ、そうで、いえ、あの……」


 まず最初は何を言っているのか良く分からなかったから疑問符が発生し、その後そういえばこの人はうちの親と同じ職場で働いているとみゃーちゃんが言っていたなあなんてことを思い出し、でもそうだと頷いてしまうと自分が男だとバレてしまうので慌てて否定し、と何度も態度を豹変させてしまったのだけれど。


「大丈夫です、安心してください! 私、ぜーんぶ分かっちゃってますから!」


 ビッ、と親指を立てて私に言う目隠れ女性。全部?


「……って、はっ! すみません、申し遅れました。私、華奈香の母です。いつも華奈香がお世話になっております」


 突然、深々と桜乃さんのお母さんが頭を下げたので、私も慌てて頭を下げながら、


「い、いえいえ、私こそいつもお世話になっております」


 と日本人らしいやり取りをする。


「美夜子ちゃんに聞きました。また、うちの子が迷惑を掛けたようで、申し訳ないです。いつもこの子はこうやって人に迷惑ばかり掛けて……」


「か、母さん!」


「お陰で友達もほとんど出来なくて困っていたところなんですっ。でも、こんな優しそうなお友達が出来て、一安心です。これからも仲良くしてあげてくださいね!」


「はい、こちらこそ」


 そのやり取りに恥ずかしくなったのか、桜乃さんが、


「と、とにかくもう帰ろう! ボクは大丈夫だからね!」


 なんて慌てた様子で自分のお母さんの手を引く。


「それでは」


 ぺこり、とお辞儀をして桜乃さんのお母さんが娘である華奈香さんを連れて帰っていったのを見送りながら、私は深く溜息に近い深呼吸をした。


「何だか、今日は疲れたなあ……」


 そういえば、桜乃さんのお母さんが全部分かってる、と言っていたけれど、良く考えれば女の子変身セットを作ってくれているのだから、みゃーちゃんから話をしていたりするのかもしれない。


 ……ということは、桜乃さんのお母さんから桜乃さんにも私が男だということがバレるということ?


 でも、それならさっきのタイミングでバラしていてもおかしくないし……うーん?


 もしかして、実は知っているフリをしていて知らないとか? それとも知っていて、敢えて桜乃さんには言っていないとか?


 何が何だか良く分からないことを整理しようとしたのだけど、一向に進む気配が無かったので、


「……よし、帰ろう」


 と疲れた足取りのまま私は寮へと帰った。


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