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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第4時限目 変化のお時間 その8

「やあ、小山さんか」


 電話の向こうからは、この部屋を出る前に聞いたばかりのやや少年に近い少女の声が聞こえてくる。


「ええ、そうです。まだ粘るんですか?」


「ああ。1時間くらいとは言ったが、あくまで“くらい”だからね。小山さんも教室棟をもう1度探してみてくれないか?」


「えっと、結局吸血鬼の姿が分からないので、闇雲に歩き回ったところで見つからない気がするんだ……するのですが」


 綸子やみゃーちゃんと話をしていたから、徐々に喋り方が砕けてきていたのを慌てて元に戻す。喋り方には気をつけないと。


「いや、まだ分からないぞ。確かに、既に部室棟を一通り見て回りはしたが、隅々まで見たわけではないからな。まだもう少し調べてみれば何か分かるかもしれない」


「……はあ」


 みゃーちゃんがギブアップするのも分かる。桜乃さんは、良く言えば自分の考えを素直に伝えるタイプで、悪く言えば人の話を一切聞かない我儘姫というか。


 ……うん、そうだよね。姫様なら、爺やとか婆やがちゃんと言い返したり、窘めたりするし、こちらも我慢せずに素直に言おう。


「分かりました。そこまで人の話を聞かないのであれば好きにしてください。ただし、私は明日から一切協力しません。宜しいですね?」


「…………」


 長い沈黙の後。


「す、すまない。分かった、今から帰るよ」


 か細い声で、桜乃さんが声を返してきた。あら、意外と素直。


 もしかすると、桜乃さんは今までは我儘を言っても、誰も注意されなかったから、ああやって人の話を聞かずに自分の意見を通す癖が付いちゃったのかもしれない。だから、言えばちゃんと分かる子なのかも。


「……ああ、ちょっとだけ待ってくれ。電話は繋いだままでいい、これは本当に少しだけだ」


 監視カメラ画面の中の桜乃さんは携帯を持った手や体を動かして話をしているようで、電話越しには何となく誰かと喋っているような声が聞こえるけれど、監視カメラには彼女以外誰も写っていないし、話の内容や話し相手についても全く分からない。


「何してるにゃ」


「分からないけど、誰かと話をしているみたい」


「……誰も写ってないにゃ」


「そうなんだよね……」


 カメラに映らない、というキーワードで私の心の中で注意勧告放送が流れ始めた。でも、まだ危険度は黄色ゲージ。


 電話の向こう側の様子を聞き取ろうとじっと耳を澄ませてみても、やはり何を喋っているか分からなかったけれど、話の内容が聞き取れる前に、


「ちょっと呼ばれたから申し訳ないが、帰るのは遅れそうだ。もう吸血鬼探しは終わりだから、先に帰っておいてくれて構わない。明日も同じくらいの時間に来てくれればいい」


 さっきまでとは打って変わり、数年来の友達と話すような声色で言うから、


「え? あ、はい……」


 何かプライベートな内容だから、それ以上踏み込んではいけないような気がして、質問の言葉を強制的に飲み込まざるを得なくなってしまった。


「ああ、ついでにすまないが、美夜子にも同じように言っておいてくれ。それじゃあ」


 一方的に電話を切ったと同時に桜乃さんがカメラの範囲から離れていく。


「何て言ってたにゃ?」


「誰かに呼ばれたから帰るのは遅れるって。みゃーちゃんにも同じように言っといてって」


「だから、誰かって誰にゃ?」


「それが分からないの。一方的に電話切られちゃったし」


「…………」


「…………」


 一瞬、脳内アラームがレッドゾーンをぶち抜くような悪寒がして、それでも私は出来るだけ冷静に、椅子に座ったままのみゃーちゃんに訪ねた。


「ねえ、吸血鬼って確か鏡に映らないとか無かったかな」


「……あったにゃ」


「カメラって……どうなのかな」


「…………まさかにゃ」


「…………まさかだよね」


 言いながらも、お互い間違いなく考えていたと思う。最悪のパターン、つまり“桜乃さんを呼んでいる相手が吸血鬼である”という可能性を。


「準」


「うん、ちょっと行ってくる。部活棟の場所だけ教えて。私分からないから」


「わ、分かったにゃ。さっき、準の携帯に入れたカメラの配置図に学校全体の地図もあるから、それを頼りにするにゃ」


 そう言うみゃーちゃんの目は、明らかに動揺で焦点が合わず、手も小刻みに震えていた。


「大丈夫だよ。きっと、気のせいだから」


「わ、分かってるにゃ。分かってるから、さっさと行ってこいにゃ」


「うん、行ってくるよ」


 私はそう言って、みゃーちゃんを刺激しないように、部屋をゆっくり歩いて階段を上がる。


「……気のせい、気のせい」


 でも、本当だったら?


 さっきみゃーちゃんが入れてくれたソフトを起動させながら、結局まだ借りっぱなしになっている学校のスリッパから外履きに履き替えて、私はスカートが翻るのも意に介さず、胸騒ぎを置き去りにしようと全力疾走。


 ただ、部室棟の場所が分からないから、みゃーちゃん謹製のソフトで場所を確認しながら走る。『校内スマホ使用禁止』と書いてある貼り紙が見えるけれど、もし先生が居ても今は見逃して!


『準、聞こえるにゃ?』


「え? みゃーちゃん?」


 何処かからみゃーちゃんの声が聞こえるから、スピードを少し緩めて、周囲を確認しながら駆け足を続ける。


『スマホの画面にゃ』


「え?」


 足を止めて画面を見ると、確かにスマホの画面の左端に小さな枠があり、みゃーちゃんの顔が映っている。


『さっきのカメラの位置を教えるソフトに、みゃーから映像配信する機能と監視カメラの映像を見れる機能が組み込まれてるにゃ』


「そ、そうなんだ」


『準の位置はさっきのGPS付き防犯ブザーで分かるから、ナビゲーションしてやるにゃ。多分、スマホ見ながら走ったら途中でコケるから、準は走るのとみゃーの言葉にだけ意識してればいいにゃ』


「ありがとう」


 確かにスマホ画面を見ながら走ると、足がもつれそうになる。私はみゃーちゃんの言葉に素直に従い、とにかく走るのとみゃーちゃんのナビゲーションの声だけに集中する。


11/28 段落の頭のスペース追加

Wordで書くようになってから、段落の頭のスペースが反映されないようです。

他の章でも同様に気づいたら修正します。

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