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第1時限目 初めてのお時間 その5

 でも、咲野先生のそんなテンションのお陰で、夜の学校までの暗い道という、恐怖体験では上位に食い込んできそうな状況だったのに、全然恐怖を感じなかったというか、そんなことに意識を向ける暇もなかった。良かったのか、悪かったのか良く分からないけど、無事に学校の昇降口まで着いたから一安心。


「それで、昇降口は開いてるんですか?」


「ん? 開いてないよ?」


「……えっ」


 じゃあ、入れないじゃないですか、とジト目で訴えると、あっはっはと淑女らしからぬ笑い声を上げて、咲野先生が私の肩を叩く。


「そう、普通はそうよねー、うんうん。でも、正面から入るとね、駄目なのよ」


「何故ですか?」


 超ドアップで先生は私に答える。


「真雪ちゃんにバレる」


 身長が私の頭1つ分とは言わないけれど、それに近いくらい小さいので、ちょっと背伸びしているのが、少し可愛いと思えてしまう。年上のはずだけど。というか、私の身長が高いのかな。


「顔、近いです」


「おっと」


 少し離れて、頭を人差し指でちょいちょいっと掻きながら、小柄な先生は言葉を繋げた。


「いやあね、この学校の昇降口とか裏口とか、正規の入り口って全部電子ロックが使われてるのよね。校舎の中だと、電子ロックは地下室以外無いんだけど」


「地下室があるんですか」


「そうそう。まあ、その話はその内にするとして……電子ロックはこの教職員証で開けられるようになってるのよ」


 自分のポケットからカードケースを取り出して、教職員証を懐中電灯で照らして見せてくれる。


 咲野先生が懐中電灯で照らしている場所はカードのごく一部、校章が印刷されている部分だけで、本当に教職員証だったのか分からないけど、どうやら先生は全くそれに気づいていないようで、教職員証と言い張った何かをしまった。


「で、これを使っちゃうと、実は何時に誰のキーで入ったかが全て履歴に残っちゃうらしいのよ」


「そうなんですね」


 それは当たり前だと思う。そうじゃなければ電子ロックの意味が無い、とまでは言わないけれど、セキュリティという意味での利点は多いと思うから。


「で、その履歴を毎日真雪ちゃんが……ああ、真雪ちゃんって理事長のことね」


「あ、あの……」


 再び気になる単語、というか人名が出たので、どうしても気になっていたことを確認する。


「真雪ちゃん、って理事長さんと同じ年くらいなんですか?」


「ん? 真雪ちゃんは年下よ?」


「…………」


 私、しばし、呆然。


 まあ、さすがに高校生でした、ってことは無いだろうと思ったけれど、まさかそんな歳だとは。いやいや、理事長さんだってまだ若いと思うから、実はまだ30代になったばかりとか、そんなくらいなのかもしれない。それでも十分若いと思うけれど。


「どったの?」


「いえ、なんというか……教育実習生かと思っていたので」


「えー」


 顔を下から懐中電灯で当てて、幽霊のマネをするみたいにして、咲野先生はぼやく。


「そんなに子供っぽい? 確かに昔から子供っぽいって言われるけど」


「そういう行動が子供っぽいです」


「あっはっは」


 笑ってから、それはさておき、と前置きして、やや子供っぽい先生は続けて言った。


「とにかく、まあ、真雪ちゃんがね、いつもその履歴を確認してたらしくてね。前にこっそり正規ルートで忘れ物を取りに入ったら、超怒られたの。何であんな時間に校舎に入っているんですか、って。あの時の真雪ちゃん、マジコワだったのよ。1度見てみたら分かる。あれはトラウマもんよ」


「はあ」


 綺麗な黒髪を少しカールさせた理事長さんの姿を思い出す。ややツリ目だったと思うけれど、どちらかというと細い眉を困ったようにハの字にしていた姿しか見ていないので、怖いというよりは深窓のご令嬢がこの世の憂いを嘆いているような、そんなイメージしかなかった。


 ……あ、でもさっき理事長室に行ったとき、「体育は皆と一緒に着替えなさい。でもやらかしたらどうなるか分かっていますね?」と言っていた理事長さんの表情は確かに怖かった。


「まあ、とにかくそういうことだから、正規ルートは無理なわけ。で、じゃあどうするかっていうと……こっち来て」


 言われるがままについていくと、校舎の端辺りに、人が1人はなんとか通れそうな互い違いにスライドさせる小さめの窓。外から覗けないように磨りガラスになっているこの窓はもしかして。


「トイ……お手洗いの窓?」


 一応、トイレというよりはややお上品な言葉で答える。そういえば、トイレにいくことを、場所によってはお花摘みとか言うって聞いたことがあるけれど、この場合はトイレは「お花畑」とでも言うのかな?


「ピンポーン、正解、正解。トイレの窓は生徒でも換気出来るように、とかの理由で電子ロックになってないのよね。だから、いざというときのために、普段からこの窓だけ鍵開けてるのよ」


「それ、学校の先生として良いんですか? というか、私に教えてしまっていいんですか?」


 他の扉を電子ロックにしている意味が無いような。


「まあ、いいんじゃない? 準ちゃんだって、忘れ物したときとかに入れないと困るでしょ?」


「それはまあ、そうですが」


 再び、わっはっはと笑って、咲野先生は言葉を続けた。


「そもそも、この学校は外から簡単に入れないからね。塀の上には侵入者探知用の検知器とかあって、塀を乗り越えると警報が鳴るとか、学校内の至る所に監視カメラがあって、監視されてるとか。だから外からの侵入者とか、無いから無いから」


「そうなんで……あれ、監視カメラあるなら、バレちゃうんじゃないですか?」


「ふっふっふ、甘い甘い」


 ちっちっち、と指を振る。本当に指を振ってる人、初めて見たかも。


「監視カメラは真雪ちゃん管理じゃないから大丈夫なんだよねー。で、監視カメラの管理者はお菓子で手懐けてるから」


 ビッ、と右手の親指を上げて大丈夫! と示してくれる。いや、大丈夫じゃないです、教師として、人として。というか、お菓子で手懐けられる管理者って、子供じゃないんだから。

 よっぽど高級なお菓子なんだろうと思う前に山吹色のお菓子を想像してしまって、さすがにそれは無いだろうと脳内で否定しておく。


「さて……むっ」


 窓に手を掛けた瞬間、先生の手が止まった。


「どうしたんですか?」


「……アタシたちが入る前に、誰か入ってる」


「え?」


まだヒロインが出てきませんね……。

おそらく次回か次々回か、それくらいになるかと思います。


今年中に第1限目は終わらせたいです。

ただ、このペースだと割りと冗談抜きで第1限目すら終わらない可能性があるので、もしかするとペースを上げるかもしれません。いわゆる、年末調整ですね(違。



2015/10/25 文章修正

申し訳ありません。文章修正です。


<文章修正>

「そういえば、トイレにいくことを、場所によってはお花摘みとか言うって聞いたことがあるけれど、この場合は「トイレはお花畑に行って参ります」とでも言うのかな?」

「そういえば、トイレにいくことを、場所によってはお花摘みとか言うって聞いたことがあるけれど、この場合はトイレは「お花畑」とでも言うのかな?」


トイレの窓から侵入する際に窓を見て、準くん思考中での話です。

トイレはお花畑に行って参ります、と意味の分からない言葉になってしまっていたので「トイレに行く=お花を摘みに行く」なら「トイレ=お花畑」なんだろうか、という内容を書こうとしていたはずなのですが、何か妙な文章になっていましたので、修正させていただきました。


2016/8/18 文章見直し

教職員証を咲野先生が出している部分で、文章的に少しおかしいと感じたところを修正したり、真雪ちゃん……いえ、理事長がコワイという話に準くんの回想内容をちょろっと追加してみたりしました。


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