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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第4時限目 変化のお時間 その6

 2人で校舎の壁にもたれ掛かり、しゃがみこむ。


 綸子の言う通り、私は前の学校が嫌になって、当時の担任の先生とお父さん、お母さんに掛け合って逃げるように転校した。その分、転校先の学校では頑張るつもりだった。


でも、せっかく気合を入れて転校した先は女子校だった。


それは再転校の十分な理由になると思うのだけど、自分の都合で転校したのにまた転校、なんてことを親に言い出すのは正直なところ心苦しい。


うちは夫婦共働きのごく普通のサラリーマンで、特別お金に困っているわけではないけれど、裕福でもない。ただ、私は公立高校から私立であるこの西条学園に転校している。西条学園は他の私立高校よりは安い方だとは聞いているけれど、それでも妹が通っている公立よりは高い入学金や授業料を払ってもらっているから、引越し代とかも考えると言い出しづらいのもある。


「っていうか焦って転校しなくても、生活で困ることとか無いんでしょ?」


「まあ、そうなんだけど」


「で、男とバレてない」


「……うん」


 そこが最大の問題点であり、不幸中の幸いなのだけれど。


「だったら、少し時間掛けて悩んだらいいんじゃないの」


「……まあ、そうだね」


「言いにくいならあたしから言っとこうか?」


「ううん、それは駄目。言うときはちゃんと自分で言うから」


 私ははっきりと答える。それはけじめだから。


「そう? まあ、別に良いけどさ。でも何でこんなところ歩いてたの? 普通、こんな学校裏とか歩いてくるところじゃないじゃん。何か部活とかやってたの? だったらさっさと戻らないとヤバイんじゃない? って制服だから、まーそれはないか」


まくし立てるように言う妹に苦笑しながらも、


「あー、それは……」


 と言葉を割り込ませつつ、脳内会議でどこまで話すかを決めるのに少々時間が掛かったけれど、今までの経緯とともにさっき地下室で聞いた話を含めて切断と結合をしながら説明する。その結果、うちの妹からの反応は、


「ナニソレ」


 でした。まあそうだよね。


「えっと……つまり何? 兄貴は何故か知らないけどこの学校に住み着いてる幼女に、最近吸血鬼が出るから捕まえてーってお願いされたから探してるってこと?」


「まとめるとそんな感じ」


「ナニソレ」


 綸子のナニソレは話の流れがそもそも理解できないというよりは、話の流れが分かった上でそれでも意味が分からない、という意味みたい。


「ま、まあ……僕もそう思う」


「はー。うちの学校では上位クラスにも入って、国内大学だったら何処でも目指せるんじゃないかと教師たちがべた褒めだった小山準ともあろう男が、転校したら女装するようになった上、幼女とキャッキャウフフしながら吸血鬼探しているなんて、同級生とか教師が見たら何て言うかね……」


 あちゃー、と額を押さえた我が妹君はははっ、と苦笑いを抑えきれない様子だった。


「そ、それは……キャッキャウフフはさておき、文字面もじづらだけをなぞればそうなんだけど、でも……」


 いや、文字面だけではなく、内容も良く考えれば大方そうだったりするので、ぐうの音しか出ない。ぐう。


「ま、うちの学校、勉強ばっかりだしね。兄貴が嫌になるのも分かるよ」


「……うん」


 そう。綸子は私が去年逃げ出した学校にまだ通っている。私みたいに投げ出さず、ずっと上位クラスに居るらしいから、ホント出来る妹だと思う。


「うーん。でも、せめて吸血鬼探すなら、見た目がどんなのだかくらいは知らないと、探しようがないんじゃない?」


「まあ、正直そうだね」


「だったらそう言えばいいのに」


「うーん……あはは、まあそうなんだけど」


「はー、相変わらず煮えきらないなあ。兄貴らしいけど」


 スカートのホコリを払って、綸子は立ち上がった。


「んじゃま、私は帰るね」


「え? テオを迎えに来たんじゃないの?」


「テオの様子を見に来るつもりだったのもあるけど、本当の目的は自分の兄貴が女装していたのが夢だったかどうか気になって見に来ただけだから」


「あ、ああ、そういうこと」


「で、夢じゃなかった、と」


「……そうだね」


「まあいいや。“女装はしてるけど”元気そうだし」


 やや引っかかりのある言葉を投げかけながら、それでも綸子は微笑む。


「元気と言えば元気だけど……あ、でもテオはどうする?」


「というか今はどうしてるの?」


「一応、寮長さんが寮で飼ってても良いよって許可は出してくれてるから、寮で飼ってる」


「んじゃあ、そのまましばらく飼ってれば良いんじゃない? 何だかんだで兄貴に1番懐いてたし、テオも飽きたら勝手にうちに戻ってくるでしょ」


「そ、そういうものかな……?」


「そういうもんだって。後、ペットフードとか必要なものがあれば家から持ってくるから連絡して。あたしが持ってくるから」


「ああ、うん。ありがとう」


「んじゃ」


 軽くそう言って、綸子は振り返らずにさっさと歩を進めていく。本当にこれだけのために来たんだなあ。そのお陰であんなの、とはクラスメイトに言い過ぎかもしれないけれど、出くわしてしまって。


「あ、そうだ。お兄ちゃん」


 背中とスカートに少し付いた砂を払って、校舎に入ろうとしたところで、綸子が少し大きめの声で私を呼び止める。お兄ちゃん、なんて久しぶりに聞いた気がするけれど。


「ん? 何?」


 綸子は少しもじもじした様子だったけれど、意を決した顔で言った。


「たっ、助けてくれて、ありがとう! そんだけ!」


 見間違いかもしれないけれど、遠巻きに少し頬が赤くなったのが見えた気がした綸子は今度こそ振り返らず全力ダッシュで言い逃げしていった。


 ……うん。本当に、無事で良かった。


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