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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第4時限目 変化のお時間 その4

 階段を上がって、昇降口の床を踏みしめるけれど、既に帰る生徒の姿はもうほとんど無くなっていた。遠巻きに吹奏楽や運動部の掛け声が聞こえるから、皆部活に行っているだけなのかも。


「さて……何処から回ろうかな」


 仰々しく独り言ちてみるけれど、言うほど選択肢が有るわけではなく、1階から見て回るか、3階から見て回るかの2通りしかないのだけどね。


 携帯電話を取り出し、1時間後にアラームをセット。そうしないと、約束の時間を忘れてしまいそうだから。まあ、素直な気持ちでは協力せずにこのまま帰ってしまいたいのだけど、みゃーちゃんもあの部屋で私の様子を見ているだろうし、本当に吸血鬼が居るなら、私だって興味が無いわけではない。被害には遭いたくないけれど。


 1階はついでに体育館や中庭も回ることになるから、先に3階を回る方が効率良いかな? なんてことを考えて、スロープを上がって3階へ。吸血鬼がどんな姿をしているのかとか、全く情報が無いから何を探せば良いのか良く分かってはいない。


「まあとにかく不審者っぽい人が居ないか、探せばいいのかな」


みゃーちゃんから貰ったアプリを起動させて、カメラの位置を確認しながら教室の中まで調べながらぐるりと回ってみる。


……何というか、ほとんどもう生徒が居なくなったから良いものの、特段用もないのにキョロキョロ周りを見回しながら歩いている自分の方がむしろ不審者なんじゃないかな、という言葉が口を衝いて出そうだった。


「美少女好きの吸血鬼かあ……」


 美少女好き、っていうことはやっぱり男なのかな。いや、可愛い女の子好きの女性という線も絶対に捨てられる訳ではない。むしろ、この学校の生徒という可能性も捨てきれないけれど……うーん、そんなバレやすいことをするっていうのは正直あまり考えられないなあ。


 だって、幾ら何でもうちの学校でばかり吸血鬼被害に遭っていれば生徒や教師の中に吸血鬼が居ると疑ってもおかしくないよね。だから、他の学校や町中で吸血行為をした方が疑われなくて良いと思うのだけど。


 ……あれ、つまり他校の生徒という可能性も有り得るのかな?


 次々に湧いてくる疑問が水面に出来た波紋みたいに等間隔で逃げていくから、全く結論に辿り着く気配は無いけれど、校内の調査の方は15分強で終了。約束の1時間までにはちょっと時間が余りすぎている。


 もうみゃーちゃんのところに戻って、報告だけしたらさっさと帰る、というのも手ではあるのだけど。


「校庭とかも調べた方がいいかなあ」


 学校の周りは校舎に入りますか? というバナナはおやつかどうか理論的な疑問があったので、靴を履き替えて、昇降口から出ることにした。ここまでする必要は無い気がするけれど、まあどうせ時間も空いているし。


「いいからほら、早く出せよ」


「ん?」


 校舎の裏側辺りを歩いていたところで、アルトでもやや低めの女声が聞こえてくる。言葉の内容は随分不躾なもので、ぴくんとテオがするみたいに声がする方向を探して耳を澄ませた。


「な、何でですか……」


「勝手に他のガッコ入っちゃダメじゃーん?」


「そうそう、駄目だろ? だから口止め代わりにさあ」


 話の内容からあまり関わりたくない話のような気がするのだけど、まさか本当に他の学校の生徒が吸血鬼だったら、今声がしている生徒たちが危ない。


 ……ま、まあ、何というか、申し訳ないけれどそれはそれで自業自得のような気がしないこともないのだけどね。


 関わらない派の小悪魔と関わりなさい派の天使が脳内でプチ終末戦争を起こしているのを掻き消しながら、まずこっそり様子を覗くことにする。


 私の視線の先にはうちの制服を来た生徒が2人と私服の少女が1人。うちの制服を来た女子生徒はどちらも茶髪で、スカートは膝上何センチというよりも腰下何センチと言った方が良いくらいに丈が短い。


 後ろ髪を髪留めで跳ね上げた茶髪っは私服の少女相手に、少女漫画風に言う『壁ドン』的な状況を作っていて、その後ろのは細い縦ロールがたくさんのくるくる髪をいじっている。


 ああ……私が1番関わり合いたくないタイプ、と思ったけれど、良く考えればこの2人、そういえば始業式のときと教室で自己紹介したときに見た顔だということを思い出して、更に暗澹あんたんたる気持ちに。うわあ、うちのクラスだ、あの娘たち。


 心を切り替えられないまま、私の視線は不良少女2人が詰め寄る私服の少女へ向かい、心がにわかにざわついた。眉をひそめながら必死に言い返しているのは綸子りんず、私の妹だった。


「口止めって……」


「ほら、持ってんだろ? ポケットに――」


 言いながら、後ろ髪をアップにしている女の子が綸子のスカートのポケットに伸ばそうとした手を片手でがっちり掴んで、私は目一杯声のトーンを落として言う。


「やめてもらえるかしら」


「んなっ……いて、いてててて!」


 詰め寄っていた方の女子生徒の腕を捻り上げ、後ろ手にして校舎の壁に押し付けた。こういうのは何ていうのかな。壁にゴリゴリ押し付けるから『壁ゴリ』とか? あ、ネーミングセンス無いな、私。


「その子、私の妹なの」


「だ、だったら――」


「だったら何?」


「うぐぁっ」


 自分自身、こんなにも低く、冷たい声が出せるのかってくらいの声で壁ドン不良少女の額を壁に押し付けていると、


「ちょ、ちょっと待ちなよ……」


 と背後の不良少女2、縦ロールの娘の方が何か言い出すので、


「何?」


 トーンがだだ下がりしたままの視線と声を浴びせると、震えながらも縦ロール不良少女は言葉を続ける。


「か、勝手に他校に入ってくる方がわ、悪いんじゃん」


「へえ、それで口止め料を貰うのが正しいと?」


「うっ、いや、それは……」


 勝手に私が名付けた『壁ゴリ』状態だった壁ドン少女の手を離し、縦ロールちゃんの方の胸ぐらを掴んで、


「恥を知りなさい」


 とすごんだ。


「て、転校生の癖に……生意気……」


「あら。壁とのキス、まだ足りなかった?」


 完全に冷静さを失っていた私は、縦ロールちゃんを離して、再度壁ドンちゃんに寄っていき、


「ま、待って」


 被害者だった妹の少しひんやりした細い指に腕を掴まれたことで、ようやく自分がやり過ぎたことに気づいた。むしろ、陰で見ていただけだったはずなのに、いつの間に飛び出していたのかすら覚えていない。


「……これ以上、何かするのであれば、今日のことを全て教師に報告するけれど、どうする?」


 まだ心が高揚しているけれど、できるだけ平静を装って、私は言う。


「お、覚えとけよ!」


 壁ドンちゃんの方が悪役の下っ端みたいな捨て台詞を吐いて走って逃げ、


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 縦ロールちゃんもそれを追って逃げていったのを見送ってから、私は大きく溜息と共にその場に座り込んだ。


2017/10/25 誤字修正

「約束の時間の忘れてしまいそうだから」

「約束の時間を忘れてしまいそうだから」

初歩的な誤字でした。

ご指摘いただきましたので、修正します。

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