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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第4時限目 変化のお時間 その2

「キミは吸血鬼を知っているかい?」


「吸血鬼……ドラキュラとかですか」


 そういえば最近、岩崎さんたちとそんな話をしたなあ。


「正確にはドラキュラは吸血鬼の名前で、どちらかと言うとヴァンパイアという方が正しいんだが、正式名称については特に重要ではないからこの際置いておこうか。この学校に吸血鬼が出るらしい、という噂は聞いたことがあるかい?」


「はい、聞いたことは。というか最近一部の子から噂で聞いたことが有ります」


「なるほど。そこまで知っていれば話は早いね。単刀直入に言うと、その吸血鬼を捕まえようと思っているんだが、まだ捕まっていないから協力して欲しい、ということだ」


「捕まえる? 協力って……まさか本当に吸血鬼が居るとでも?」


「そのまさかだ」


 私は思わずジト目になって、みゃーちゃんの方を向く。この子、そういうキャラなの? と言う意味を込めて。


「準がそんな顔するのも分かるにゃ。みゃーだって何の冗談かと思ったにゃ。でも、ここのところ、吸血鬼が原因と思われる貧血で倒れてる生徒が増えて困っているって、坂本先生が言ってたから、ちょっとだけ調べてみようと思っただけにゃ」


「そうなんだ」


 私は頷きつつ、みゃーちゃんの「坂本先生が言ってたから」との言葉をしっかり聞き漏らしていなかった。確かにみゃーちゃん、坂本先生には懐いているようだったし、協力してあげたいんだろうなあ。


「でも、お友達から聞いた話では、吸血された跡が残っているとかいう訳でもなく、気を失っているから被害に遭った生徒もあまり前後の記憶が無いと聞いているんですが」


「ああ、そうだ。だからまだ捕まっていないというのもあるが……実はネットでもこの話題で持ちきりでね」


 そう切り出しながら、白衣姿の女の子と思われる生徒が、机の上に手を置き、体を預けながら相変わらず淡々とした口調で言う。


「この噂は学校内だけでなく、学外でも似たようなことが起こっているらしい。件数は少ないんだがね。お陰で吸血鬼が飛び立つのを見たとか、実は吸血鬼の友達だとか、根も葉もない噂が匿名のSNSに書かれている」


「はあ……なるほど」


「それで興味を持って少し調べてみたのだが、どうやらこの街は吸血鬼が住んでいたなんて話が昔からあったらしい。その頃はこの街の中では街に住む人間の半分が吸血鬼だったという噂まである。まあ、流石に最後は冗談だとは思うが」


「なるほど」


「また、学校の生徒の聞き取り調査では、気を失った際、前後不覚になっている生徒が多いのは確かだが、何でも良いから思い出せることを教えてほしいと聞いたところ、ごく一部の生徒が誰かに抱きしめられた記憶が有ると答えていたんだ」


「抱きしめられた?」


「そう。殴られたとか、掴まれたではなく、何故か抱きしめられたという記憶があるとのことだった。実に興味深い結果だとは思わないか?」


 まるで面白い結果が出た実験データをまとめたみたいな顔をして、私に不敵な笑みを漏らす桜乃さん。人が倒れているのにそんな考え方するのはどうか、と言いたかったけれど、話がこじれるのも嫌だから、


「そうですか」


と大雨の後の川の水みたいに濁して答えた。


「それと、その中の1人だけ、制服の首筋に覚えのない血痕が有ったと教えてくれた」


「血痕…………」


 何だか、ホラーかサスペンスかみたいな話になってきたなあ、とおくびにも出さない、つもりだったのだけど。


「ホラーかサスペンス映画みたいに思えるかもしれないが、これは事実だ。生徒名は個人情報だから伏せさせてもらうが」


 どうやら、表情に出ていたらしく、桜乃さんがすかさず答えた。


「最初はボクだって嘘だと思ったが、本当に居るとは思わなかった吸血鬼が居るとしたら、それはそれは、調べて見る価値はあるだろう?」


「そういうものですか」


 静かにテンションを上げている桜乃さんに、私は自分でも大人げないんじゃないかってくらい、つれない声で答える。なんだろう、私、この子とはあまり仲良くなれない気がする。人の心配よりも自分の興味が前に出てしまうタイプなんだろうけれど、本当に吸血鬼が居て、誰かに危害を加えているのだったら、そんな悠長なことを言っている場合ではないと思う。


「まあ、とにかくそんな訳で美夜子が仕掛けているカメラを増やして、学校内で死角が無いようにしたいと言ったんだが、それだけでは捕まえることが出来ないわけさ。だから誰かを寄越して欲しいと美夜子に頼んでいたのだよ」


「それで来たのが私ですか」


「ああ、そういうことだ。吸血鬼が出てきたときには宜しく頼む」


「……頼むと言われても、そもそも遭遇する方法とか考えているのですか? そもそもそう簡単に会えるものなのですか?」


 私が疑念に満ちた顔で心情をちらりと出すと、桜乃さんは首を振った。


「確かにそれが問題なんだ。だが、ここのところ、吸血鬼が原因と見られる学内での気絶件数が増えている。それと、必ず1人で居るところを狙われているということもある。だから、学校内を1人でとにかく歩き回っていればその内に被害に合うのではないかと思うのだ」


「被害に遭ったら駄目だと思うですが……」


 つまり、海に落としたスマホを探すようなことをしろというわけね。コンタクトレンズを探すよりはマシだけれど、難しいことには変わらない。


 百歩譲って吸血鬼が居るとしても、警察とかに任せた方が良いんじゃないかと思うのだけど、きっと調査するために捕まえたいとか思っているのだろうと思う。


「確かに被害自体は痛いが、そこはそれ、所謂コラテラル・ダメージのようなものだ」


「……」


 本当に、この子はズレている。

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