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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第18時限目 夜闇(やあん)のお時間 その4

 抱き起こした女性はか細い声で、


「……は、はい……」


 と答えたから、意識はあるみたい。


 透き通るような白いはだ、月明かりで金色に光るかみ、そして暗がりに溶けるような黒かこんの和服姿。


 月明かりに浮き上がるようなその姿はまるで幽霊だったけれど、どうやら手をすり抜けずに抱きかかえられたとか、ちゃんと重さがあったとか、何か色んな意味で一安心した。


 私と彼女は神社の石段に座って、お互い大きく息を吐いてから話し始めた。


「あ、あの、すみませんでした」


「いえ、こちらこそ……。ところで、こんなところにナニかゴヨウですか?」


「あ、えっと……その……」


 日本に長く住んでいる方なのか、金髪きんぱつの女性から流暢りゅうちょうな日本語でそう問われて、私は言葉を濁す。


 濁した理由は、こんな時間、こんな場所を訪れるような人は2つのグループに分かれると思った上で、服装や立ち居振る舞いから多分この人は私と同じグループに属する人ではないと思ったから。


 私と同じグループ、というのは今回みたいな肝試しをしてこの場所に来たという、まあ言ってみれば軽い理由というかよこしまな理由のグループ。


 もう1つは……ここに何かしらの因縁いんねんというか、想いがある人。


 そして、この人はきっちりと和服を着込み、手には何も持っていない。


 つまり、私たちみたいな理由で来ている人ではない、と判断したのだけれど。


 もし、私が考えているということが正しかったとして、何故こんなところに? という問いに対してどう釈明すべきかというと――


「あ、そうだ。ヨければタべませんか、サクラモチ」


「えっ」


 金髪の女性がそう言って、私に差し出した桜餅はこちらが持ってきたものよりも幾らか大きくて……じゃなくって!


「あ、あの、失礼ですが……貴女あなたも同じ、だったんですか」


「はい?」


「あの、肝試しに来たとか……」


「キモダメし、ですか?」


「……?」


 ……あっ、そうか。


 そもそも、ここの神社に居る神様? が桜餅好きというだけであって、別に肝試しにしかこの桜餅を使わないわけではないんだった!


「あ、あの、えっと……」


 折角せっかく地雷を踏まないように気をつけたのに、埋めもどした直後に、埋めたことを忘れて自分で踏み抜いたみたいなアホさ加減に乾いた笑いしか出ない。


 私があわあわしていると、しばらくぽかーんとした目の前の金髪女性は、


「……ああ、なるほど! ここにサクラモチがオかれているのは、キモダメしでここまでキたことのショウメイだったんですね!」


 ぽん、と手を打つ仕草しぐさで、女性が大きくうなずいた。


「え? あー……はい、はい?」


「いつもサクラモチがオいてあるからナニかとオモいました」


「は、はあ……まあ……そんな感じ、です」


「このジキのモノなのですか?」


「いえ、普通桜餅は春だと思います」


 まあ、そう考えるとなおのこと、この神社は不思議だけれど。


「どうしましょう? ワタシ、イクつかイタダいちゃいました」


「え、ええっ!? いや、その、神社にお供えしているものは、勝手に食べない方が……」


 ばちが当たるというのももちろんあるし、野ざらしにしてある食べ物はお腹を壊しそうだし。


「そうだったんですね。ワタシ、ちょっとおナカがヘっていて」


 言葉を証明するかのように、くぅー……と小さく金髪女性のお腹が鳴って、少し恥ずかしそうに笑った。


「あ、あの、私が持っているのでよければ……。まだお供えしてないので」


「え、でも、それもおソナえするものでは……?」


 金髪女性が少しだけ不安げな表情をするけれど、私は笑って答えた。


「大丈夫ですよ。困っている人を見過ごす方が嫌ですし」


 ……ま、まあ、なんというか、あれだけ都紀子ときこたちにおどされた後だから不安が無いわけではないけれど、それでもこれは仕方がないと思う、うん。


 とりあえず、命が取られるようなことさえなければ……な、ないよね?


「ありがとうございます。イタダきます」


 そう言って、金髪の女性は渡した桜餅を食べ始めた。


「え、ええっと、それでそちらはどのようなご用件で……?」


 あまり触れない方が良いかなと思いつつ、でも少しだけ好奇心こうきしんがうずいてしまった。


「え? んー、ナゼここにイるかとイうと……」


「はい」


 髪をでるかのように――


「このジンジャのカミサマだからですね」


 ――爆風が吹き抜けていった。


「……はい?」


 丁寧な所作しょさとは掛け離れた……いや、むしろ箱入り娘的な能天気さで答えた女性が、ぱあっと笑顔を見せた。


 ……あー、よし、うん、なるほど、そういう設定ですね。


 ここに来る人たちのグループとして私が考えていた2グループとは他に、もう1グループが居たんだということに気付かされた。


 そのもう1つとは『中二病』グループ。


 あまり詳しくは知らなかったのだけれど、前に花乃亜かのあちゃんが持っていた本を読ませてもらったとき、そういう言葉があることを知った。


 私が知る限りではあるけれど、中二病というものは本物の病気とは異なり、実際に中学生くらいになった頃に発生するものらしい。


 中学生になると、小学生から比べて『自分の出来ること』が増えてくるから、そんなときに全能感を覚えてしまい、何か魔法とかスーパーパワー的なものに目覚めたと勘違かんちがいしてしまう現象? だとかなんとか。


 この方が何歳なのかは分からないけれど、少なくとも私より上……いや、外国の方は日本人よりも大人びて見えるから少し下に見積もって私と同じくらいなら、中学生の頃のそういう感情をまだ引きずっておられるのもおかしくないかもしれない。


 うん、そうに違いない。

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