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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第3時限目 日常のお時間 その16

「後は……まあ、ほら、紀子と一緒に買いに行くと、同じ歳とは思えない自分の大きさに……ね」


 ふふっ、と自虐的になる岩崎さんに苦笑しながら同調する。


「なるほど……でも、あの、確かに分かりますが、そこまで気にするものですか?」


「甘いなー、小山さんは」


 ちっちっち、と指を振る岩崎さん。


「大きさだけじゃない、って言うけど最初はやっぱり見た目から入るじゃん? そうすると、目に留まらないとその先が無いわけじゃん?」


「えっと、何がですか?」


「彼氏とか」


「あ、ああ……なるほど」


「ていうか、小山さんは彼氏居るの?」


「い、いえいえいえ……」


 大げさに私は両の手を左右に振る。


「逆にそこまで必死に否定するのがアヤシイ……」


「ほ、ほら、もしそこまで色気づいていれば、そもそも服装とか下着とかに頓着しますし」


「んー……まあ、そういえばそうかも」


 そうなのかな? と自分自身言ってから思ったけれど、意外と岩崎さんは簡単に引き下がったから、岩崎さん的にはそうだったみたい。


「まあとにかく、外歩いてても紀子は声掛けられたことあるけど、あたしは1回も無かったし」


 岩崎さんにとっては正木さんは友達だけれど、羨望というか嫉妬というか、そういう気持ちは有ったりして、結構複雑なんだなあ。普通の女子って多少なりともそういう気持ちを持っているものなのかもしれないけれど、少なくとも中身は男の私にはあまり良く分からない。


「あの、じゃあ片淵さんは?」


「都紀子は都紀子で身長もちっちゃいから需要はあるし」


「じゅ、需要って……」


「というか都紀子くらいまでになると、逆にそれが強みというかなんというか。あたしくらいの身長だと微妙なんだよね。……よし! 今度ブラ買いに行くのと共にバストアッ――」


 岩崎さんが何か言い掛けたところで、流行りの音楽が割り込んできた。どうやら岩崎さんの携帯電話の着信みたい。


「あれ、紀子だ。もしもーし、何? へ? 紀子の家まで? 何で? ……あー、なるほど、道理で早いと思った。……うん、オッケー。小山さん連れて行くね。ばいばー」


 スマホの通話オフボタンを押してから、岩崎さんは自分のスカートのポケットにスマホを投げ込んで立ち上がった。


「紀子が家まで来てって」


「正木さんの家までですか? 構いませんが、どうしてまた?」


 岩崎さんに倣って、私も立ち上がる。


「紀子が家に戻って、猫ちゃんの話をしたら、親御さんが車で近くのペットショップまで買いに行ってくれたみたいでさ。色々買ってきたは良いけど、持ち運べないからこっちまで取りに来てって。学校の中まで車を入れるわけにはいかないし」


「ああ、そういうことでしたか」


 確かに猫用のトイレとか猫砂とか餌とか、色々買ってきてくれていれば、2人でも運ぶのはちょっと大変かも。というか、買ってきてもらっているんだから、むしろこちらから受け取りに行くべきだよね。後でお金ちゃんと払わないと。


「じゃ、行こっか」


「はい。……テオー」


 声を掛けられた真ん丸猫団子はこちらをチラリと見て、尻尾を優雅に大きく動かした。でも、一切動く気配はない。これは行きたくない、というか日向ぼっこしてたいのかな。


「ん、じゃあお留守番、おとなしくしててね」


 私の言葉が終わるのを確認してから、ごそごそと向きだけ変えてまた丸くなったテオ。その様子を確認してから、私は既に部屋の外で待ってた岩崎さんに並んで、鍵を掛けた。


「あのテオって子、人間の言葉分かるの?」


「あー、えっと……どうなんでしょうね。分かってるような、分からないような。ただ、分かってるかどうかはさておき、ついつい話しかけてしまうのは、ペットを飼っている人の性だと思いますよ」


 勝手にペットを飼っている人代表みたいなことを言っているけれど、きっとそうだと思う。


「ふーん? あたしはペット飼ってないから良く分からないなあ」


 なはは、と苦笑で誤魔化す私。確かにペットを飼っていない人から見れば、犬とか猫に話しかける人って変わって見えるかもしれない。でもほら、テレビに向かって話をする人とかも居るらしいし、ね?


「あ、それでさ。話は戻るけど、バストアップ体操とか一緒にやろうよ」


「え、あ、は、はい?」


 宣言したとは言え、唐突に岩崎さんの話が飛んだので、私は思わず言葉に意識を取られ、階段を1段落ちてしまった。すぐに手すりに掴まったから良かったものの、そのまま気を抜いていたら下まで落ちていたかも。


「あ、あの、どういう……」


「だって、紀子ばっかりズルい!」


「……でもバストアップとは言っても――」


「バストアップ?」


「うわぁっ」


「ひゃっ」


 階段を降りきったタイミングで、私の言葉に被せるように突然のっそりと動き出したカバのようなゆったりボイスが左手壁で死角になった方向から転がり込んできたから、私と岩崎さんは思わず声を上げた。


「……どうしたの」


 声を掛けた工藤さん本人は相変わらずの起き抜けのような目を私たち2人に交互に向けている。


「あ、あはは……何でもないですよ。ねえ、岩崎さん」


「そ、そうそう。何にも無いから」


「……そう」


 じっと私を見つめる工藤さんに、本当に何もないからと私が目で訴えると、相変わらずの癖っ毛髪を盛大に暴発させたまま工藤さんは興味を失ったようにふらふらと食堂の隣の部屋に入っていった。扉が閉まったのを確認してから、私と岩崎さんは同時に溜息を吐いた。


「びっくりしましたね」


「ホントにね。普段から何か生気がないっていうか、幽霊みたいなタイプだからあたし苦手なんだよね。……ってそういや、あの子も去年くらいから急激に胸大きくなってたっけ」


「去年から?」


「そうそう」


 靴を履きながら、岩崎さんが首を捻って言う。


「高校入るくらいまではそんなに大きくなかった、っていうか私と同じくらいかちょっと大きいくらいだったはずなのに、何か高校2年くらいから急に大きくなったんだよね。周りは皆、詰め物か何かしてるんだろうって言ってたけど、前に着替え中にこっそり見たら、見た目だけなら本物っぽかったし……うむむ、ヒアルロン酸でも注射したのかも」


「良く調査してますね……」


「まあねー」


 よっぽど気になるのかな、岩崎さん。彼女自身、言うほど無いわけではないと思うんだけれど。


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