第17時限目 水際のお時間 その31
こちらもまさかという気持ちでいっぱいだったけれど、それでも正木さんの水着を見つけてくれたのは嬉しい。
これで正木さんも心置きなくまた海で遊べる、というのもあるけれど、それ以上に――
「良かった……」
そう言いながら、ほんのり涙目の正木さんの、安心した表情が見られたから。
「ちなみに、さっき魚釣った後に手は洗ったが、それでも若干魚臭いかもしれん」
「そうですか? ……あ、ホントですね、ちょっとだけ。でも、うん、大丈夫です」
そう言った正木さんが、私の後ろでごそごそ。
……しばらくして。
「真帆、ちょっと後ろ、結んでもらえる? 自分でやると、また解けそう」
「ん、分かった。……ってか、こっちまで戻ったら背中貸してとか言っときながら、結局準の背中借りてるじゃん」
親友の行動にちょびっと腹が立ったのか、
「い、いたた……痛いよ真帆。きつく締めすぎ」
と正木さんが音を上げるくらいに、多分真帆が水着の上の紐を縛っているのだろうと思う。
……なので、まあ、その、暴れる度にですね、ぐりぐりと押し付けるのは、こちらとしてはちょっと、その色々と……。
「うるさーい! 友達がいの無い奴め!」
なんてことを私の背後でやるから、こちらとしては針のむしろ……とまではいかなくとも、くしゃくしゃになった毛布の上程度の居心地の悪さはある。
「にゃっはは、準にゃんは体おっきいから隠れやすいよねー」
都紀子がフォローに回ってくれるけど、
「ホントかー? ホントにそれだけかー?」
とまだ真帆の追及は続く。
「そ、それだけ、それだけだから!」
真帆と正木さんがはちゃめちゃしているのをやれやれと見やりつつ、
「んで、どうするんだ? もうひと泳ぎするのか?」
と都紀子の伯母さんが声を掛けてくれたが、私たちは顔を見合わせ、数回の瞬き程度の後、
「……今日はもういいです」
と、各々言葉は違っても、同じ意味の返答をした。
まだ日が高いとはいえ色々と疲れた、というのが総意だったみたい。
帰りの車の中。
「いやー、流石に今日は肝試しやめとこうかねー」
疲れと共に吐き出した都紀子の言葉に、真帆が即座に反応した。
「え、今日やろうとしてたわけ? 早くない?」
あれ、知らなかったっけ? と思ったけれど、そういえば日焼け止め取りに行っている間に話をしていただけだから、真帆と正木さんは知らないんだっけ。
「いやー、そうは言っても3泊4日しかないからねー。しっかり遊ばないと、やり残して悔いが残ったらいけないしねー」
「あの、でも勉強もしないと、ですよね」
真面目な正木さんがそう言うと、
「にゃっはっは、面倒なことは後に回そうかなってねー」
と都紀子が笑う。
駄目だこれ、絶対に最終日に慌ててやるパターンだ。
「何だ、勉強会するからって集まったんじゃないのか?」
私たちの……というか特に都紀子の言葉を聞いて、都紀子の伯母さんが会話に参加してきた。
「夏季休暇の宿題はもちろんやります。でも、高校最後の夏休みなので、しっかり遊ばないと、と思って」
私たちと話すよりはやや丁寧な言葉で、都紀子が答えた。
「ふむ。しかし、肝試しってことはあの神社か」
「知ってるんですか?」
都紀子の伯母さんの反応に、真帆が尋ねた。
「ああ、まあな。あそこは良くそういう用途で使われるからな」
そういう、というのは肝試しだろう。
「あの桜餅神社はなあ……」
「……何故、桜餅?」
真帆の疑問に私も頷いたのだけれど、伯母さんの代わりに都紀子が答えた。
「うちのおばあちゃんが色々お供えして調べてねー。桜餅をお供えすると、必ず無くなってるんだってさー。他のはなくならないのにねー」
「近所の子供とかが遊びに来て、勝手に食べてくとかじゃないの?」
「流石にそんな罰当たりなことはしないさねー。というか、近所に子供はほとんど居ないし、大体顔見知りらしいから、もしそうだったらすぐにバレるしねー」
まあ、さっきから流れる風景からすると、一向に林というか森というか、とにかく木々の間を進んで民家がほとんど見えない感じからして、なんだっけ……限界集落? に近いような状況なんじゃないかなと思う。
「だから、肝試しをやるときは神社のお賽銭箱の横にお皿を置いといて、1人1個ずつ桜餅を持っていって、お供えしてからお賽銭して帰るっていうのが定番さねー」
「もし、桜餅を持っていかなかったら……?」
もちろん、そんなことをするつもりはないけれど、興味本位で聞いてみた。
「…………」
都紀子も、伯母さんも押し黙る。
その様子に、私たち3人はごくり、と唾を飲む。
「まあ、ちゃんと桜餅は準備してるから大丈夫さー」
明るく打ち切った方が心配!




