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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第17時限目 水際のお時間 その30

「いやいや、病人……ってかけが人? 溺れかけた人間が何言ってんの」


「溺れかけたのは単純に足がつっただけだし、ちゃんとストレッチしたから大丈夫」


 自分で言っていて説得力はないと思う。


 ただ、こちらとしても見ている限り、真帆まほが心配だからどうにか無茶させたくないという思いがあるから、無理があっても言うしか無い。


 そして、やっぱり真帆も頑固がんこなところがあるから、うんとは簡単に言わない。


「あたしも、体力は自信あるから、大丈夫」


 うーん、これは平行線かな。


 どうしよう……と思っていながら、並走……じゃなくて並泳へいえい? していると。


紀子のりこ?」


 無理を通す方法を考えて、視線を対岸に向けていた私は、真帆のちょっと驚いた声で再び真帆へ視線を戻す。


 私の視界に映ったのは大人しくしていた正木まさきさんが真帆から降りて、自分で泳ぎ始めた光景だった。


「ちょっと紀子!」


「真帆に無理させて、途中で何かあっても困るからね」


「でも、水着が――」


「大丈夫、ちゃんと向こうに着いた後はまた背中貸して?」


 正木さんがそう言ったから、はぁと溜息ためいきいてから、


「仕方がないなあ」


 と真帆は少しだけ笑った。


「あっはっは。紀子ちん、案外やるねー」


 都紀子ときこの言葉に、正木さんは笑顔でこたえた。


 というわけで、4人ともペースを落としつつ並んで泳いでいたのだけれど、真帆が半分以上の距離をかせいでくれていたからか、正木さん含めて全員が対岸まで辿たどり着くまでにさほど時間は掛からなかった。


 いや、正確には宣言通り、足が付くところで一旦停止いったんていしして、両腕で豊かな半球を隠した。


 ……これ、結構目立つなあ。


 当事者側だからそう感じるのかもしれないけれど、視界に入った時点で「あれ、何かあったのかな?」と感じる程度には何かあった感がある。


 早く都紀子ときこの伯母さんが来てくれないと困ったことになりそう。


「都紀子。伯母さんは?」


「多分、すぐに――」


「おい」


「ひゃい!」


 周囲の様子を窺いながら、恐る恐る上陸した正木さんは、突然の声で私の背中に抱きついた。


 ……あー、うん、真帆がどうこう言いたくなるのも分かるくらい、はい、大きいです。


「なんだ、どうした。タオルを持ってきたんだが」


 声を掛けてきたのは都紀子の伯母おばさんで、言う通りタオルを差し出してきていた。


 ややダウナーボイスだから、一瞬男の人と間違えたのかもしれない。


 ……いや、私は別に「もう厄介やっかいなことになった!」とか間違えてないよ、うん。


「あっ、すみません、ありがとうございます」


 呆れ顔の、都紀子の伯母さんからタオルを受け取って、肩から羽織はおるようにして上半身全体を隠す。


 小学校の頃とかにプールで着替えるとき、体を一周してゴムで落ちないように止められるバスタオルがあったけれど、それに近い状態。


 それはさておき、何とかみんな無事にもどってこれたことに安堵あんどする。


 いや、他人事ひとごとのように言っているけれど、実際1番危なかったの、私だったりするのだけれど。


 ちなみに、空きペットボトルをビート板にする作戦は案外悪くなくて、話しながらだったからというのももしかするとあるのかもしれないけれど、往復の帰路きろ側とはいえ、そんなに苦労はしなかった。


「しかし、折角せっかくの海なのに、水着が無いってなるとしばらく海は無理かな。まあ、仕方がないんだけどさ」


 流石さすがに真帆も疲れたのか、ぺたんとその場に座ってそう言いつつ、さっきの小島に視線を向けてから、正木さんに視線を向ける。


「紀子、他に水着持ってきてないっしょ?」


「うん。この1着しか……」


 高校生に何着も水着を買う財力はないよね、普通。


 かくいう私もこの1着しか持ってきていないし、帰ったら手洗いで乾かそうかと思っていた。


 ……今更だけれど、みんなが2着とか当たり前に持ってきてたらヤバかった。


 しかし、1着しかないと、こういうときはどうしようもない。


「泳ぐのはちょっと難しくても、濡れても良い服装で海に入るとか……あー、でも透けちゃうかー」


 他の方法を提案した都紀子が、自分で言いながらすぐNGを出した。


「ごめんなさい、正木さん。私のせいで……」


「い、いえ! 私がしっかり結んでなかったのがいけなかったので……」


 私たちがあーだこーだ言っているところで、


「水着がどうした?」


 と都紀子の伯母さんが怪訝けげんな表情を見せた。


「あー、えっと、友達の水着が流れてしまって……」


 少しだけいつものトーンから丁寧さを追加した都紀子が伯母さんにそう言う。


 この2人の場合はどっちの関係だろう……やっぱりお嬢様おじょうさま都紀子?


「もしかして、これか?」


 そう言って、都紀子の伯母さんは見覚えのある黒い水着を出した。


「……あっ! こっ、これです! あれ、どこにあったんですか!?」


 正木さんが差し出された水着を確認し、受け取った。


「投げ込んで放置してた竿さおのラインに引っかかってたから回収した」


 いや、でも普通水着とか回収するかな? と少し思ってしまった。


 ほら、こう……何かよこしまな感情で回収する人なら居るとしても、普通水着なんか回収しないような……。


「やけに新しかったのと、この海水浴場は落とし物が毎年多くて、落とし物の預かり所があるからな。渡しに行こうと思っていたところだったんだが……まさかここに居るとは」


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