第17時限目 水際のお時間 その28
「まあ、準に限らず、あたしら3人のサイズじゃ無理だから……ほら」
海中で私たちに背中を向けた真帆が、上半身だけ振り返って、指で正木さんをちょいちょいと呼ぶ。
「え?」
私もそうなのだけれど、正木さんもどうやら真帆の行動の意味するところが分からないらしく、疑問符を返した。
「いや、紀子を背中に乗せて対岸まで運ぼうってこと。で、向こうに着いたら都紀子の伯母さん呼んで、胸隠す用のタオルとか持ってきてもらうってわけ」
「正木さんを乗せて泳ぐ……って大丈夫なの?」
言いたいことは分かるけれど、人を乗せたまま泳ぐのってちょっと危険な気がする。
「まあ、大丈夫かどうかっていうとあんま大丈夫じゃないかもしんないけどさ。今の状況から考えてこれくらいしか方法なくない? 紀子の体力が回復するのを待って、自力で泳いでもらうにも、ほら……向こうの海岸、結構人増えてきてるし、違う意味で危険でしょ」
真帆が言う通り、確かに人が少しずつ増えてきている気がする。
それに、正直なところ正木さんが水着をちゃんと着ていたとしても、もう1度この島から海岸まで泳ぎ切るのは結構大変だと思うし。
「おやー? そうすると準にゃんはアタシが運ぶことになるのかねー?」
都紀子がそう言うけれど、
「いや、それは無理だと思うから、1人で泳ぐよ。まあ、もうちょっと休憩させて欲しいけど」
と私が否定した。
話をしながら腕とか足の状態を確認していたけれど、特に動きに問題はなさそう。
ただし、足はまだ若干痛むから、もうちょっとストレッチとかしてからの方が良いけれど。
「私よりも小山さんの方が大変なんじゃ……特に足も痛めていますし」
「それはまあ、あたしも気にはなったんだけど、ぶっちゃけて言うと紀子も乗せていけるか怪しいのに、準は無理だから頑張ってもらうしかないって話」
「まあ、そうだよね」
これについてはしょうがないと思う。
浮力がどうこう以前に体の大きさ的に。
「むー、それはそうしてもらえると助かるけど、でも準にゃんちょっち心配だねー」
気に掛けてくれているのは嬉しいし、あまり水泳が得意ではない上、さっき溺れ掛けた……いや実際に溺れた直後だから不安が全くないわけではないのだけれど、正木さんを乗せて運ぶ以上に無理がある。
せめて、プールみたいにビート板みたいに浮力を確保出来るものがあれば――
「……あ、ペットボトルとかあるかな?」
私の突然の言葉に、真帆はきょとんとした。
「ペットボトル? それなら、1度対岸に戻ってから、飲み物買ってくればいいと思うけどさ、何に使うワケ? あ、海の水飲みすぎて喉乾いた?」
真帆の言葉に、私は首を横に振った。
「ううん、そうじゃなくて。いや、まあちょっと喉が乾いてるのはあるけど……それよりも、こういうときって空のペットボトルがあるとそれなりに浮力が稼げるって何かで見たことあって。こういうとき、泳ぐときに楽かなって」
ビート板は流石に無いと思うけれど、ペットボトルならすぐに手に入るし。
「ほー、なるほど」
「確かに、テレビか何かでそんなことやってたねー」
真帆も都紀子も頷いた後、
「んじゃ、あたしが行ってくるからちょっと待ってて」
と真帆が言ったのだけれど、都紀子が止めた。
「いやいやー、紀子ちんを背負って泳がなきゃいけないんだし、真帆ちんは待ってていいよー。それに、真帆ちん、お金持ってきてるかねー?」
「ん? そりゃお金くらい……あ、そういや財布、車の中だ」
あちゃー、というポーズをした真帆だったけれど、都紀子はそれを見てにっひっひと笑う。
「実はアタシの水着にはポケットが付いててねー。そこに小銭を入れているのさー」
「ポケット? 何処に?」
「ここだねー」
陸まで上がった都紀子がビキニの下の左右に付いている少々大きいリボン的な装飾に触れた。
え、もしかして脱ぐの!? とちょっと焦った私に対し、都紀子はリボンをパカッと開いた。
……いや、リボンを開くというのは正確ではなくて。
えっと、がま口? っていうんだったかな、こういうの。
リボンで上手に隠されているけれど、その下には水着と同じ生地の、がま口付きの小さな袋が付いていて、確かに小銭くらいであれば入れられるようだった。
男子用のスクール水着では確か水着の内側に小さなポケットが付いてたし、この前こっそり確認した限りでは、ハーフパンツみたいなタイプでは普通のズボンと同じようにポケットが付いているのに女性用には見当たらなかったのだけれど……こんなところにあったんだ。
……あれ?
私のにはそんなの無い。
むむ、もしかして都紀子が持っているような水着は特別製ってこと?
「え、それってただの飾りじゃなかったの?」
「アタシも実は買ってから気づいたんだけどねー。多分、ロッカーの鍵とかを入れられるようになってるっぽいんだよねー。ってことで、アタシがお金持ってるし、ちょっと待っててねー。あ、ついでに伯母さんにタオルの準備もしてもらってくるさー」




