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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第17時限目 水際のお時間 その24

「そりゃっ」


「なんのーっ!」


 スパイクを打った真帆まほのビーチボールを都紀子がレシーブして打ち上げ、


「はいっ」


 私がトスして、


「……とおっ!」


 スパイクを真帆に向かって打ち込もうとした正木まさきさんが勢いよくジャンプ……しようとして砂浜に足を取られ、そのままボールにかすらず顔面から倒れ込んだ。


「だ、大丈夫ですか!?」


 心配して近づいた私たちに、手で顔の砂を払った正木さんは、


「み、見ないでください」


 と両手で顔を隠した。


 ……前にもこんなのがあったような。


 正木さんは運動神経がからっきしというわけではなく、体力や筋力が不足しているのと、


「紀子が調子乗るから」


 と真帆が言ったように、ちょっとだけいいところを見せようと気負うと失敗しちゃうんだと思う。


「にゃはは。いい具合に目の前にボールが来たら、やりたくなっちゃうよねー」


 都紀子の言葉に、再度顔を手でおおったまま、小さくこくこくとうなずいた正木さん。


「はあ、まあいいんだけどさ。てか紀子、それ危ないよ」


「それ? ……あっ」


 真帆の指差す部分……良く実ったその球体を包んでいる黒い布が、先程元気よく転がった際にどうやらずれたらしく、もう少しで中身が見えてしまうところだった。


「あ、危なかった……ありがと、真帆」


 さっきの正木さんと真帆の立ち位置が入れ替わって、今度は正木さんが真帆にお礼を言う立場に。


 なるほど、この2人ってお互いにこんな感じでフォローしあって来たんだろうなあ。


「まー、男子どころか人自体少ないから、そうそう問題にはならないだろうけどさ」


 あきれ半分、笑い半分の真帆が周囲を見回してから言う。


 真帆が言う通り、始まってすぐとはいえもう夏休み。


 今年は結構暑い日が続いているから、もっと家族とか学生グループが海水浴に来ていても良い気がするけれど、意外と人はまばらだった。


 ……田舎だからかな。


 そう思ったら、まるで私の心を見透かしたかのように、隣から都紀子の声が。


「田舎ってのもあるんだけどねー。多分、今はまだ暑いから他の人たちは映画館に行ってるんじゃないかなー」


「あー、なるほど。まー、こんだけ日差し強いとねー。確かに調子乗ってすぐに海に来ちゃったけど、もうちょっと日が落ちてからの方が良かったかも」


 手でひさしを作った真帆が頷く。


「ってかしまった! 日焼け止め、車に置きっぱなしだった! 誰か持ってきてる?」


「ううん、日焼け止めをそもそも持ってきてないんだけど……要るの?」


「いや、要るでしょ……ってそうか、準は海水浴ほとんど来たこと無いんだっけ? 悪いこと言わないからしといた方がいいって。あたし、天然成分系だけの日焼け止め持ってきてるから貸すよ」


 そう言った真帆が車に向かって走るのを見て、


「真帆! 片淵かたぶちさんの伯母さん、釣りに行ってるよ!」


 と正木さんがあわてて追いかける。


「え? マジで?」


「うん。えっと、確かあっちに歩いていったから……付いてきて」


「オッケー」


 そう言って、正木さんが先導して真帆と共にさっき都紀子の伯母さんが歩いていった方へ駆けていった。


「にゃはは、皆元気だねー」


「そういう都紀子だって元気でしょ」


「そりゃねー。久しぶりに、夏休みらしい夏休みだしねー」


 ちょっとだけ感慨かんがい深げに都紀子が言うから、私は首をかしげた。


「ん、何かあったの?」


「夏休みとか冬休みとか、連休はずっとピアノの練習ばっかりしてたからねー。だから、どっちかっていうと連休って好きじゃなかったんだよねー」


 近くにあった木の陰に座り込んだ都紀子の隣に座る。


「それはきついね……」


「まー、あの頃はそれが普通だと思ってたからねー。だからまあ、皆と遊ぶ夏休みなんて、小学校以来かなーって」


 都紀子が屈託くったくのない笑顔を見せた。


 そっか、そう言われてみれば――


「私も似たようなものかぁ」


 と私がぽつりとらすと、都紀子がちょっとだけ意外そうに目を丸くしてから、


「おやー、準にゃんも何かあったんかねー? 何々、お姉ちゃんに聞かせてみなー?」


「誰がお姉ちゃんか。……中学までは普通の夏休みだったんだけどね。高校に入ってからは、1年生でも夏休みには夏期補習があって、遊びに行くことって無かったなって」


「あーそっかー、準にゃんが居た二見台ふたみだいってガチガチの進学校だしねー」


「うん」


 ホント、そう考えると前の高校って色んなところが異常だったんだなあって思う。


 もちろん、それだけ頑張がんばることで良い学校に入れる確率は上がるかもしれないけれど、勉強とは青春を全て犠牲ぎせいにしてでもすべきことなのか。


 ……少なくとも、今の私は違うんじゃないかなって思っている。


「じゃあ、準にゃんもJK最後の、ひと夏のアバンチュール、しないとねー」


 にっしっしと笑う都紀子に、


「言い方!」


 と私は苦笑で返した。


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