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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第17時限目 水際のお時間 その23

「なるほど、お友達のお家が所有する別荘べっそうですか。それも海の近くで、すぐに泳げるっていうのは楽しそうですね」


 正木まさきさんがようやく平泳ぎが25メートルまでは問題なく、そしてクロールもなんとか20メートル付近まで泳げるようになってきた頃のシャワー室。


 もうすぐ来る今年の夏休みに片淵家かたぶちけの別荘に泊まらせてもらう予定なんです、という話を正木さんがしたときの坂本先生の返答。


「別荘があるって、すごいですよね」


 はぁ、と感嘆かんたん溜息ためいきいた正木さんに、


「そう……なのですか?」


 といった反応をした坂本先生。


 この反応に、シャワーを浴び終えて髪の毛をタオルでいていた私と正木さんはピキッと静止し、顔を見合わせてから、坂本先生にずいっと近づいた。


「え、坂本先生の家にもあるんですか?」


「え? え、ええ……もう私は長いこと行っていないですが」


「……」


 ぽかーんと口を開けた私は、同じくぽかーん中だった正木さんにこっそり耳打ちをする。


「ま、正木さんの家にはありますか?」


「い、いえ、無いです」


「そうですよね? うちにも無いです……」


 私たちがあまりに庶民しょみん過ぎるのか、それとも坂本家がお金持ちすぎるのか。


 ……あ、いや、坂本家だけでなく片淵家かたぶちけも持ってるって言ってたから、今は2対2でイーブン。


 他に情報を集めないと判断出来ない。


「あ、あの、別荘と言ってもその、本当に小さい山小屋みたいなもので……」


「いえ、あるだけで十分です」


「ですね」


「あ、あら……?」


 きっぱりと返した私と正木さんの言葉に「違いました?」と困惑こんわく気味の坂本先生。


 いえ、ホントそれがあるのは普通ではないです……多分。


「坂本先生の実家って、どんなところなんですか?」


「実家ですか……」


 正木さんの言葉に、少し返答にきゅうする様子を見せた坂本先生は、


「え、えっと、普通の家ですよ。両親どちらも医療関係に従事しているだけですが」


 と曖昧あいまいに笑った。


「やっぱりお医者さんだからですかね……」


 また、ひそひそと正木さんが耳打ち。


「ど、どうでしょう……そうかもしれないですが、都紀子の家はピアニストですし……」


 私もひそひそ。


 私たちの反応にまだ少し困った表情の坂本先生は、


「あ、あはは……。でも、気をつけてくださいね。プールと違って、海は流れがありますから、油断して流されないようにしてくださいね」


 とちょっとだけ気を引き締めて言ったのだけれど、それに対して正木さんが、


「大丈夫です! 泳ぎは練習したので!」


 と元気に答えた……のを覚えているし、確かにそのときには私も同じことを思っていた。




「……どうしてこうなってしまったのか」


 私は正木さんと、それぞれが両足を開いたら島の端から端まで届くくらいの小さな島の上で身を寄せ合っていた。


「ど、どうしましょう……」


「とりあえず、お、落ち着きましょう」


 そう、何故私たちが最初から生えていた小さな島のヤシの木がごとく、その場を動くことができなくなってしまったのかを、思考を辿たどりながら思い出していた。




「ひゃっほーい!」


「いえーい!」


 テンション高めの真帆まほが1番手で、追って都紀子ときこがワンボックスカーから降り、海岸へ駆けていった。


「おーい、あんまはしゃぐなー」


 気だるい感じの女性が運転席から降りてきて、2人に向かって言うが、もちろん聞いていない。


「ったく、子供は元気だな」


 ちなみに、そのちょっとだけ粗野そやな感じで声を掛けた女性は、都紀子の言っていた叔母おばさん。


 その叔母さんの運転で、駅から片淵家の別荘まで送ってもらい、荷物を置いてからすぐ着替え、近くの海へ来たところ。


 一応、別荘のすぐ前にも海はあるのはあるけれど、聞いたところによると数メートルくらい行くだけで足がつかないくらい深くなってしまうらしく、正木さんが泳ぐのにちょっと不安というのと、都紀子の身長的な問題でも少し危険かも、といった諸問題を解決すべく、少しだけ離れた海水浴場へ来たのだった。


「運転、ありがとうございます」


「ん? あー、構わんよ、別に。運転は好きだからな。まあ、飲むのも好きだから、夜は運転してやらんが」


 そう言って、都紀子の叔母さんは車の後ろに回り、トランクを開けた。


「何をするんですか?」


「釣りだよ、釣り」


「釣りですか」


 そう言った都紀子の叔母さんは何やらじゃらじゃらというか、がちゃがちゃさせながら、釣り竿ざお疑似餌ぎじえなどを準備し始めた。


 あまり釣りはやったことがないけれど、少なくとも本格的にやっていそうな雰囲気ふんいきはある。


「刺身がねーと、日本酒が美味くならんからな」


 都紀子の叔母さんはそんな言葉を残して、どこかへ向かっていった。


「な、なんかすごい人ですね……」


 呆気あっけにとられつつつぶやいた正木さんに、同じく呆気にとられた私が頷いた。


紀子のりこ! 準! 何してんの! 早くー!」


「あ、うん、今行く。小山さん、行きましょう」


「そ、そうですね」


 私は正木さんの言葉に同意して、小走りで海岸へ向かった。


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