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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第17時限目 水際のお時間 その16

正木まさきさんがうらやましがるほど、妹と仲良くはないですよ。喧嘩けんかとかも結構してましたし」


 まあ、喧嘩は言っても、綸子りんずの機嫌が悪くなり、私がおろおろするという形が多かったけれど。


 私の言葉に対し、首を横に振って正木さんが言った。


「いえ、むしろそうやって喧嘩出来るっていうのが羨ましいなって。私は姉妹が居なかったので、そういうのって出来ませんでしたし」


 私にとっては良いことではないと思っても、正木さんみたいに一人っ子だと、兄弟喧嘩することも羨望せんぼうの対象になるんだってことが少しだけ驚いた。


「もし私に姉妹が居たら、今みたいな引っ込み思案ではなくて、もっと意思表示が上手に出来たかなって思うんです。もちろん、今と変わらないかもしれないですが……それでも、またちょっと違ったかなって」


「それはあるかもしれないですね」


 私だって、良くなったか悪くなったかは不明だけれど、妹が居なければ今の私とは違った私だったかもしれない。


 ただ。


「でも、私は今の正木さんが良いと思います」


「そう、でしょうか」


「ええ、今のままの正木さんが好きですし」


「……えっ」


 正木さんが少しほおを赤らめた反応を見てから、何気なく放った自分の言葉が、なかなかの危険球だったことに気づいた。


「いえっ、あのっ、変な意味ではなくて……そのままの意味というか……いや、それもおかしいかな、いやおかしくはないんですけどっ」


「あ、ち、違いますっ! わ、私が勝手に勘違いしてしまっただけでっ!」


 2人して、あわあわしながらお互いに謝罪と釈明を繰り返し、それがあまりに滑稽こっけいすぎて最後には笑い出した。


「……私、小山さんがお姉ちゃんだったら良かったのになって思うことがあります」


「あはは、ありがとうございます。正木さんみたいな妹だったら、全然手が掛からなくてお姉ちゃんらしく出来ないかもしれないです。むしろ、四六時中一緒で嫌なところが見えちゃうかもしれないですよ?」


 私がそういうと、


「そういうことも含めて、小山さんのこと、知りたいと思ってます」


 と真面目な表情で正木さんが言うから、私はちょっとどきりとしてしまう。


「私、小山さんに出会えて、本当に良かったと思ってます」


「それは、私も同じです」


 私もきっと、正木さんたちに会えなかったら、前の学校に居た時みたいな、夢も希望もない人間で終わっていたと思うから。


 カラン、と氷が溶けてカップの中で転がった。


「そろそろお買い物の続き、行きましょうか」


「はい、そうですね」


 私たちは喫茶店きっさてんを出て、幾つかの洋服屋を見て回った後、解散。


「今日はありがとうございました」


「こちらこそ。今日は楽しかったです」


 深々と頭を下げる正木さんに私も同じくらい頭を下げる。


「こんなに喋ったのは初めてかもしれないです」


 もじもじしながら正木さんが言う。


「私も同じです。こんなにお友達と喋ることって全然無かったので。また、良ければ買い物とか行きましょう」


「えっと、それは……2人で、ですよね」


 ちらっと上目遣いで言うから、私も少しどもってしまいながら、


「は、はい、そのつもり、です」


 と答えた。


 駄目駄目だめだめ、正木さんだって単純に十分に親しい友人としてそう言ってくれているだけで、それ以上の感情があるわけではないのだし。


「は、はいっ、それではまたっ!」


 そう言って、正木さんはたたたっと走り去っていった。


 ……ふぅーっ、色々とこう、危なかったというか、どきどきがゲージ目一杯上がった感じだった。


 もちろん、他の子でもどきどきすることはあるけれど、正木さんとは特に緊張してしまうのは何故かな。


 やっぱり、事故とはいえ初めてのキスの相手だったから、まだ意識しちゃうのかもしれない。


「……よしっ、帰ろう」


 まだ少しだけ火照ほてる頬に両手でぱちんと気合いを入れてから、りょうへ戻った。


「テオ、ただいま」


 私の言葉に呼応こおうするように大あくびをしたテオは、いつものように私の足元に近づいて、顔をすりすりとこすり付けてきた。


 そのテオを、こちらもいつものように定位置の頭に載せて、私は椅子いすに座る。


「さて……」


 帰ってきて早速勉強……ではなく、今日買ってきた服、特に水着を確認する。


 さわやかなスカイブルーの水着、私に正木さんが似合うと言ってくれた。


 残念ながら、この部屋には姿見すがたみはないから自分で改めて確認は出来ないけれど。


「……テオ、似合ってるかな?」


 女性の水着を着ることに対する抵抗でなく、ちゃんと似合っているかを心配していたことに気づくのはしばらく後のことなのだけれど、呼びかけられたテオはさっきと同じ大あくびを寄越すだけだった。

 

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