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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第17時限目 水際のお時間 その10

「色ペンですか?」


 ちょっと不思議そうな表情を見せた正木さん。


「はい。みゃーちゃんと、子猫の引き取り手を探すポスターを作るときに、色ペンが必要だねって話になって」


 そう説明すると、正木まさきさんは「ああ、なるほど!」とに落ちた表情になった。


「そういえば、前に子猫が生まれたあの子たち、これから引き取り手を探しているんでしたよね。お母さんの黒猫ちゃん……ノワールちゃんは元気ですか?」


「はい。子供が生まれてすぐでも、威嚇いかくまではされてなかったんですが、ケージの外に出てきた子猫を戻してあげようとすると、体で私の手を押しのけ、子猫に触れるなというアピールをしてたんです。でも、最近はむしろ子猫をくわえて私のひざまで連れてきたりするようになって」


「それは何だか可愛いですね! わ、私も今度遊びに行っていいですか?」


「ええ、もちろん」


 確かに目をキラキラさせている正木さんが言う通り、最初は可愛いと思っていたけれど、何度かそういった行動を見せているから、もしかして子供の面倒を見るのが面倒くさくなって「はい、よろしく」と押し付けられているのでは? という疑惑があったりなかったり。


 まあ、少なくとも私を信頼してくれているということは間違いないと思うけれど。


「でも、それなら確かに色ペンも要りますね。一緒に探しましょう……あ、ここです」


 文房具屋ぶんぼうぐやさんは案外近くにあったみたいで、私たちはまず正木さんが探しているシャーペンコーナーに。


 正木さんが真剣に悩む横で、私も何気なくシャーペンを見てみる。


 私自身も今のシャーペンは安物を買って数年使っているけれど、ずっと壊れたら交換としてきた、まだ壊れていないのに新しいシャーペンを使うのは勿体もったいないなと思ってしまう。


 もちろん、ノックしたときに若干引っかかりを覚えるとか、そういう気になる点が出てきてはいるから、そろそろ替え時なのかもしれないけれど。


「……あ、これ、綺麗きれい


 何気なく、手近てぢかにあった深い青色と少しの白が混ざったシャーペンを手にする。


 惑星をイメージしたシャーペンとのことで、私が手にした青のシャーペンは海王星をイメージしたものらしい。


 見た目だけでなく、試し書きでも何だかしっくりと馴染なじむ感じがある。


「あ、このシリーズ綺麗ですよね。私はこっちの火星が気に入ったんですけど、ちょっとだけ高くて、どうしようかなって……」


 正木さんが見せてくれた火星イメージのシャーペンは、真っ赤というよりはやや朱色しゅいろに近い鮮やかな色に、少し更に深い赤のもやが掛かったような雰囲気ふんいきだった。


 ただ、言われて初めて気づいたけれど、確かに高校生が買うシャーペンにしては少々お高い感じはある。


 それでも、見た目も実用性も良さそうとは感じる。


 テスト勉強とかで、シャーペンが詰まってイライラ、みたいな後顧こうこうれいを断てると考えればよいのかもしれない。


「あ、あの……小山さん、それ、買いますか?」


「えっ? あ、えっと……」


「もし、小山さんが青買うなら、私はこっちの赤、買おうかなって。ずっと気にはなっていたんですが、買う勇気がなくて……」


 あはは、とちょっとだけ恥ずかしそうに正木さんが笑う。


 ……そう言われると、やっぱり欲しくなってしまう。


 ちょっと高いかなと思う気持ちと、今後の勉強に対する快適さと、友達とペアの物を持つという楽しさを天秤てんびんに掛け……るほどでもなく。


「……よし、買います!」


「じゃ、じゃあ、私も買いますっ!」


 正木さんはグーを作ってそう言ってから、私を見て、


「あ、あの、おそろいですねっ」


 と続けたから、私も、


「ええ、お揃いですね」


 と笑顔を返した。


「……あっ、じゃ、じゃあ次は色ペンですね」


「はい、探しましょう」


 私たちはそんなこんなで、当初の目的を半分くらい忘れて文房具屋で必要のあるものないものをあれこれと見てははしゃぎ、はっとしたときには思った以上の時間が過ぎていた。


「ちょ、ちょっとはしゃぎすぎましたね」


 口元を隠しながら、照れる正木さんに、私はうなずいた。


 とりあえず、目的である色ペンも手に入れて……じゃなくて、全体の半分をクリアした私たちは、今度こそメインイベントの水着売り場へ。


 でかでかと『海の季節! 夏の水着フェア!』と書かれていて、洋服売り場の一角が夏モードに切り替わっていた。


「結構色々な種類の水着があるんですね」


 正直、普段着ていた男性水着も、基本的には学校指定のものくらいしか持っていなかった私としては、自分の部屋のタンスを初めて開いたときみたいに、色とりどりでちょっと面食らってしまった。


 というか、友達もあまり居なかったから、一緒に海に行くことも無く、最新の記憶での海水浴は小学校か中学入ってすぐくらい。


 だから、自分で水着を選ぶということ自体、初めてなのだけれど、今回は女性の水着、それもまさか自分で着るものを選ぶというかなり特殊とくしゅなシチュエーションなわけだから、少しずつ慣れてきたつもりでもまだやはり思うところが無いわけではない。


「このデパートは毎年種類が多くて、迷っちゃいますよね」


 言ってから、迂闊うかつな発言だったと思ったけれど、私の「色々な水着がある」という言葉を、正木さんは「女性の水着には」という意味ではなく「このデパートには」という意味で理解してくれたみたいで、ほっと一息。


 ちなみに服や下着はあれだけ種類を揃えてくれていた理事長さんだったけれど、どうやら水着までは準備してくれていなかったみたい。

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