表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

436/960

第16時限目 勇気のお時間 その37

 健一郎君が私を避けていた理由は良く分かった。


 そして、理由が分かったからこそ、言わなければならないこともある。


「……健一郎君、自分は男なのにって言ったけれど、じゃあもし私が男だったら同じことを思った?」


「えっ、そりゃ……男だったとしても、カッコイイと思ったけど……」


「じゃあ、女の私に助けられたのが恥ずかしいんじゃなくて、誰かに助けられたのが恥ずかしいってこと?」


 自分で”女”と強調するのに違和感を覚えつつも、ここは演じきらないといけない。


「それは……」


 言葉に詰まる健一郎君。


 多分、言葉では違うと言いながらも、きっとどこかで“お姉ちゃんに助けられた”というのが引っかかってるのだろうと思う。


 だから、一応“お姉ちゃん(?)”という立場として、言っておこうと思う。


 くるっと回って、健一郎君に背を向けて、私は言う。


「それとも、女の子に助けられたから?」


「えっと……」


 意地悪だとは思ったけれど、私は畳みけるように言う。


「もし、助けたのが男だったら、素直にありがとうって言えた?」


「……」


 黙りこくった健一郎君を、また振り返って、私は笑顔を見せる。


「ごめんね、ちょっと意地悪だったと思うし、そんなこと言われなくても、きっと自分で分かってるよね。だから、私もこれ以上言わないけれど。これをきっかけに、もっと素直になってくれるとうれしいなって思う」


 そう言い終えてから、私は頭をきながら苦笑した。


「まあ、本当にカッコイイヒーローなら、きっと最後に車にぶつかられずに避けきれたんだろうけど、私が鈍くさかったからね」


「そんなことない!」


 強く否定する声を上げてから、健一郎君はちょっとバツが悪そうな顔で、顔をそむけながら言った。


「そんなことない……、そんなことないよ……」


「ふふ、良かった。そう思ってくれているなら」


 私は1度言葉を切ってから、続けた。


「男だろうと女だろうと、誰かを助けようとする姿ってカッコいいなって、私もずっと思ってたんだけど、実際に目の前で誰かが危ないって思ったら、カッコいいとか悪いとか関係なく、咄嗟とっさに飛び出してしまうものなんだなって今回で良く分かったよ」


「うん……」


 私の言葉に、健一郎君も小さくうなずいた。


「あ、でも健一郎君は覚えてるか分からないけれど、ホントは私よりも先に飛び出したヒーローが居たんだけどね」


「……星歌ほしかねーちゃんのこと?」


「そうそう。大隅おおすみさんが先に飛び出したから、私も飛び出せたんだと思う」


 まあ、先に大隅さんが助けられていた場合、後から出た私は明らかに出るだけ無駄、むしろ事故に巻き込まれただけだったというおそれもあった。


 そう考えると、私が飛び出したのは悪手あくしゅだったのかもしれないけれど、結果的には飛び出したのは正解だったから良かったとすべきかな。


「だから、私よりも大隅さんの方がヒーローだと思うよ」


「それは違うっ!」


 私の言葉を、カーリングみたく弾き飛ばしたのは、突然飛び込んできた声だった。


「飛び出してもあたしじゃ助けられなかった。ただ飛び出すなんてのは勇気なんてもんじゃない。ただの無謀むぼうだ。でも、あたしとケンを助けてくれたのはお前だろ、小山」


 何処かで私たちのやり取りを見ていたのか、大隅さんが胸に手を当てて、そう言いながら近づいてきた。


 良く考えたら、病院を出る前に大隅さんに声を掛けているから、ここまで辿たどり着いてもおかしくないのだけれど。


「ホントだったら、あたしもケンも大怪我、下手すりゃ死んでたかもしれない。でも、ここに居るのはお前が守ってくれたからだ。だから……」


 私の胸を軽く叩いて、大隅さんが言った。


「胸を張って、ちょっとくらい威張ってくれよ。あたしの……いや、あたしたちのヒーロー」


 これ以上ないってくらいの笑顔の大隅さんに、私もほおゆるませた。


「……そっか、そうだね」


 私自身、あまり誰かに肯定こうていされたことが無かったからというのもあるけれど、何だか頬が熱くなった、気がした。


 ……いや、気がしたというより、熱い。


「おい、照れんなよ! あたしも恥ずかしくなってくるだろ!」


 そう言いつつ、すでにちょっと自分で言ったことに照れ始めている大隅さん。


「そうだよ、小山ねーちゃんはヒーローだ! ありがとう、小山ねーちゃん!」


 健一郎君も抱きついてくるし、


「そうそう、こやまんはヒーローだよー」


 中居さんも抱き――


「……ん゛っ?!」


 およそヒーローと祭り上げられていた人とは思えないような、変な声を出した私に、


「どったの、マイヒーロー」


 と闖入者ちんにゅうしゃがハテナを作ってそう言った。


「いや、どったのっていうか……中居さん?」


「いえーい、晴海はるみちゃん、です、ぴーす!」


 テンション高めな中居さんが、そうやってピースサインを作って、頬に当てる。


「……お、おい……晴海。お前、どこから見てたんだ」


「えーっと、こやまんとケンちゃんが話をしているのを星っちが見てて、出ていきながら『それは違うっ! お前はあたしたちのヒーローだぜっ、きらりん』って言ったところまで」


「……ほぼ全部じゃねーか! ってかきらりん、ってなんだきらりん、って!」


「きゃーん! 星っちが怖いよー、助けてマイヒーローこやまん!」


 中居さんと大隅さんの追いかけっこが始まった……と思ったら、私の背後に隠れる中居さん。


 いや、小学生ですか、あなたたち。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ