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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第16時限目 勇気のお時間 その34

 大隅おおすみさんが謝ってる……?


 いや、別に大隅さんが謝っている姿がおかしいとか言うわけではなくて、それなりに前のことだから、そのままなあなあにしてしまうかなと思っていただけではあるけれど、大隅さんにとってはちゃんと清算せいさんしておかないと気がすまないことだったみたい。


「謝って済む話じゃねえが、あのときは色々むしゃくしゃして、あんなことやっちまった。本当にすまない」


「……」


 突然のことに、呆然ぼうぜんとしている綸子りんずと私。


「私もあんなこと言って、ごめんなさい」


 大隅さんの隣で中居さんも深々(ふかぶか)と頭を下げる。


 いつものちょっとふざけたしゃべり方ではないし、一人称も「アタシ」から「私」になっている。


 彼女たちと繋がりがない綸子にも、雰囲気ふんいきとしては伝わっている……と思ったけれど。


「……はあ……、謝って済むなら警察は要らないです」


「ああ、確かに」


 溜息ためいきと共に吐き出された綸子の言葉に、頭を下げたまま大隅さんが言う。


「っていうか、そもそも何しに来たんですか」


「お見舞いで……これを」


 頭を上げた大隅さんがげているふくろの中から出てきたのは真っ赤にれた林檎りんご


 透明とうめいな袋にはまだいくつか入っているのが見える。


「親から渡されたから、小山にいてやろうと思って」


「……ふーん、そうですか」


 一瞥いちべつしてからそう言って、綸子は病室から出ていってしまった。


「……やっぱり、おこってるよな……」


「あはは……まあ、そうだろうね」


 何も言わずに出ていった綸子に、落胆らくたんする大隅さんと苦笑いの私。


 綸子にとっては確かに非常にこわい思いをしただろうから、大隅さんをゆるさないというのも分かるけれど、それでももうちょっと別な態度のとり方が……と思うのは、私が大隅さんたちと仲良くなってしまった後だからかな。


「だが、仕方がないよな。やったことはやったことだ。元通りとはいかねえし」


「うん」


 隣の中居さんも、そううなずいた。


 私は後で綸子にフォローというか、話を入れておこうと心に決めていたら、近くの椅子に座って、大隅さんがフルーツナイフを取り出した。


「んじゃ、剥いてやるから待ってな」


 ナイフで林檎の皮に切れ目を入れ始めた大隅さんなのだけれど……いや、ちょっと待って、やけに危なっかしいんだけど!


 切れ込みが急すぎてそれなりに果肉かにくえぐってるし、ナイフの直線上に指を置くのはいかがなものかと思うし。


「あの、大隅さん」


「何だ、集中してるからあまり話し掛けるなよ」


「皮むき……いや、むしろ包丁ほうちょうとか持ったことある?」


 私の言葉に、首を横に振る大隅さん。


「いや、ほとんどやったことは無いが、親がやってるのは見たことがある」


「……」


 不安とかいうレベルじゃない!


 というか、何故やったことないのに微妙に自信ありげに言うの!?


 病院で病人を増やしたらまずいのでは、と思って私が再び声を掛けようとしたところで、それよりも先に動いた大隅さんが勢いよく林檎のへたを切り飛ばし、飛翔体ひしょうたいは私のひたいにびたーん! とぶつかった。


「……」


「す、すまん。ちょっと力が入りすぎた」


 うん、とても危険。


 今のは林檎のへただったから良かったものの、このままだとナイフ自体が飛んでくるまであるかもしれない。


 気持ちは嬉しいけれど、ここは――


「星っち流石にヤバげじゃん? アタシがやったげよっかー」


 そう言って、隣に黙って立っていた中居さんが、再度林檎との戦いにいどもうとした大隅さんからナイフと林檎を取り上げた。


「おい、ちょっと待て。まだ終わってねーし、晴海はるみも同じようなレベルだろ!」


「いやいやー、アタシはガチめな料理まではあんましないけど、家では結構料理とか手伝ってるし」


 私もどちらかというと大隅さんの意見と同じ方向の意見だったのだけれど、中居さんがぴるぴるーっと一繋ひとつなぎの林檎の皮を作っていくのを見て、嘆息した。お、おおう……。


「マジか」


「マジだよー。っていうか、こういうのできてくると結構楽しくなってくるじゃんねー」


 へっへっへーと笑いながら、中居さんが残りの皮を途中で分離することなく剥いてしまった。


「はい、完成……あれ? 星っち、お皿とか爪楊枝つまようじは?」


「……あ」


 あ、って忘れたんだ。


「えー、それはいくらなんでも無理ぽよくない? ワイルドこやまん、やっちゃう? このまま、がりっと!」


 中居さんが笑いながら、皮を剥いただけの林檎を差し出してくるけれど、流石にちょっとそれは……。


「全く、そんなことだろうと思った」


「……あれ、綸子?」


 さっき帰っていってしまったと思った綸子が病室の前に立っていて、呆れ顔で私たちを見ていた。


「紙皿です。爪楊枝もあるから、切り分けてください」


 袋を下ろして、綸子が紙皿を差し出すと、1度紙皿に視線を落とした中居さんが、


「……オッケー、任せとくじゃん!」


 と指で丸を作って、テーブルの上で林檎を切り分け始めた。


「……」


 何も言い出せない大隅さんが、ちらちらと綸子を見るから、見るに見かねたらしい綸子ははっきりと言った。


「今までのことを全部許す気はないです。ただ、まあ……兄のお見舞いに来てくれたということと、兄が邪険じゃけんにしていないようでしたから、追い返すにも野暮やぼだと思っただけです」


 言われた大隅さんは、少しだけ鼻をすすってから、


「ああ、それでも十分だ」


 と破顔はがんした。


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