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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第16時限目 勇気のお時間 その32

「それ以前によめって……もしかして、知ってるの?」


 何を、という部分に触れずに尋ねた綸子りんず


「うん、準はちゃんと男の子」


 華夜かよの返答に、あちゃーと綸子が頭に手をやる。


 綸子の態度もちょっとアレだったけれど、華夜、そのちょっと赤らめた、何とも言えない表情やめなさい。


 おそらく、あのときのことを思い出しているのだろうけれど、あれは自分たちがなかったことにしようと言ったでしょ!


「さっきの、分かっててやってるってことは……まあ、いいや」


 自分の中で一応の納得が出来たらしい綸子はそれ以上つっこまず続けた。


「お母さんたちはいそがしいから、しばらくは学校帰りに見に来るよ。っていっても、残り数日で退院だろうけど」


 もうそんなにっていたっけ?


 色んな子がひっきりなしにお見舞いに来てくれていたから忘れていた。


「多分、お父さんとお母さん、退院のときも来れないだろうから、あたしが代わりに来るよ」


「うん、分かった」


「……何で親が来ないの」


 私たちのやりとりに入ってきたのは華夜。


 その表情は真剣だった。


「ああ、2人とも忙しいので」


 軽くそう答えた綸子に対して、


「忙しくても来るものじゃないの」


 と更に食って掛かる。


「華夜、ちょっと……」


 隣で千華留ちかるが華夜を止めようとするけれど、華夜は千華留の方を見ることもない。


「家庭の事情なので」


 そう綸子は1度答えてから、ちらりと私を見て、溜息ためいきと共に言い直した。


「……いえ、バレているのであれば言っても良い気がするので言います。お兄……いや、兄が性別を隠して学校に通っているので、あまり親に会わせない方が良いと思い、私が面倒を見るから、と話をしたんです」


「なら良い」


 急に聞き分けが良くなった華夜がうなずいた。


「うちの兄、頭は良いんですが色々と抜けてるので」


「り、綸子……」


 いや、まあ確かに妹の服を着て、転校の試験を受けに行ったりしたのは確かだけれど、兄に言う言葉としてはちょっと切れ味がですね……。


「それは確かにそう」


「華夜!?」


 華夜もこちらを見てから、納得だと頷いたのだけれど、言うほど華夜の前でそういうところは見せてない……見せてなかったよね?


「まあ、本来はもっと早く来る予定だったんですが……うちの学校、兄も昔通っていたんですが、それなりに勉学べんがくに厳しい学校なので、普通に授業後に補習ほしゅうとかがあるんですよ。なので、それが無い日か、早く終わった日にしかなかなか来れないので、ようやく今日来れたっていう話です」


「そうだったんですね。兄想いの良い妹さんじゃないですか」


 千華留も、最初は食って掛かりそうな華夜を止めようと、かたに置いていた手を下げ、私を見て笑った。


 兄想い……そうかな?


 今さっきけなされたばかりなのだけれど。


「なので、今後は私が来るので大丈夫です」


「そう。なら、後は家族水入みずいらずの方が良いと思うから、それじゃあ」


 ふふふ、と口元に手を当てて、華夜が出ていき、千華留も軽く会釈えしゃくをしてからその後を追った。


「……で」


 華夜たちが帰ってから、すとんと近くの椅子いすに座って、綸子が言う。


「ん?」


「車にかれたって聞いたけど、何で轢かれたの? ぽやぽやしてるとは思うけど、赤信号とかふらふら歩くタイプではないでしょ」


「あれ、お父さんとお母さんに話してなかったっけ」


 ……もしかすると、話してなかったかもしれない。


 とりあえず、事情を簡単に話すと、


「ふーん、ヒーローごっこしてたら、それに感化かんかされてヒーロー気分で飛び出しちゃったってこと?」


 と茶化ちゃかして綸子が言った。


 だから私もあははと苦笑しながら、


「あー、まあ、そうかも」


 と言ったのだけれど、直後、


「はあ……冗談じょうだんに決まってるでしょ」


 と綸子がジト目で返してきた。


 あれ、違った?


「その男の子、怪我けがはしなかったの?」


「ああ、うん。それは大丈夫だったんだけど……」


「だけど?」


 歯切れの悪い私の言葉を取り出して、綸子が疑問符を打つ。


「無事だったのに元気が無くて」


「え、本当は怪我してたとか?」


「どうだろう、多分それはないと思うんだけど……ああ、でも頭を打ってたりしたら気づかない可能性もあるし、ちょっと病院に行ってもらった方が良いかな」


 うーん、と綸子も首を傾げていたけれど、途中ではたと何かに思い当たったらしく、


「……ん? あれ、もしかして事故の当日も女の子してた?」


「え? あ、私? うん」


 女の子してた、という言い方がどうかはあるけど、まあ正しいから私は首肯しゅこうした。


「あー……うん、そうか、そうかもしんない」


 私の言葉に、何故か綸子は勝手に納得した。


「え、何か分かったの?」


 聞いた私に軽く笑って、


「まあ、その内に分かるんじゃない?」


 と綸子は言葉をにごした。


 ……どういうこと?


「ま、何にしても良かったじゃん。無事だったんだし」


「それはそうなんだけど……ちょっと心配」


「そっちは心配しなくていいって。あ、そうだ。お母さんから桃缶渡されたんだけど、食べる? 流石に1人で桃缶はちょっと食べ切れないだろうし」


「食べるけど、何故桃缶……?」


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