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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第16時限目 勇気のお時間 その28

「今度来たら、会ってみる?」


 花乃亜かのあちゃんの質問に、私は首を横に振って意思を示す。


「いや……止めておこうかな」


 幻滅げんめつしたくないというのもあるけれど、それ以上に色々とヤバそうな感じがひしひしとしているから。


「そう」


 言った本人もあまり本気ではなかったのか、さらっと流すと立ち上がった。


「それじゃあ、帰る」


「うん、色々ありがとう」


 ちなみにこの「色々」はさっきの本の件もあるのだけれど、実はそれとは別の袋に静野さんがお菓子やお茶を差し入れしてくれていたから、それもふくまれている。


 主に和菓子が入っている辺り、静野さんっぽい感じはある。


 ……というか、本にお菓子にと、花乃亜ちゃん、かなり小柄なのに意外と力持ちなんだなあ。


 まあ、確かに良く考えたら意外と本って重いから、力仕事も多いし、図書委員できたえられたのかもしれない。


 去っていった花乃亜ちゃんの背中に手を振ってから、私は本を手に取ると、


「……この部屋、たくさん人が来るんだな」


 距離をとっていたはずの少年が、病室に入ってきた。


 私はちらりとだけその姿を見てから、再び手元の本に視線を落とした。


 興味がなかったわけではなくて、猫と同じであまり視線を合わせない方が良いのでは? と思ったから。


「ありがたいことに、学校の友達が心配して見に来てくれてるからね」


 多分、前の学校ではこんなことありえなかっただろうなあ、なんて心の中で苦笑する。


「大人も来てたぞ」


「あー、うん。それは親と学校の先生、後は寮長りょうちょうさんかな」


「寮長?」


 やはり、まだ精神的な距離があるからか、そばにある椅子いすには座らず、少年が不思議そうに言う。


「寮で1番偉い人」


「寮って何」


「えっと……」


 そうか、知らなかったのは寮の方ね。


「学校には限らないんだけど、生徒たちが一緒に生活するお家、かな。ご飯は献立こんだてが決まっているし、お風呂も入れる時間が決まってるけど、ベッドとか机は元々置いてあるし、それ以外も結構自由だよ」


「ふーん……そんなにいっぱい、人が居るのか」


「まあ、うちの学校の寮は古いせいか、あまり人は多くないけど……皆で生活するのは結構楽しいよ。あ、でもさっきの寮長さんよりもこわい人が居るから、気をつけないといけないけど」


「誰が怖い人ですって?」


「あー、それはぬえぇっ!?」


 ずっと視線を本に向けていたのだけれど、急な声変わりに不穏ふおんな空気を感じた私は少年の方へ視線を向けると、さっきまで少年の姿をしていたはずの子供はいつの間にか成長して、眼鏡めがねをギラリと光らせる怖いお姉さんになっていた。


 ……いや、くだんの怖い人の隣に、ちょっとふるえた少年が居た。


 そして、いつの間にか来ていた太田さんの後ろから、ひょこっと顔を出すまゆちゃん。


 私は慌ててあらぬ方向へ視線を泳がせ、


「あ、あはは……誰のことでしょうねー……」


 とその視線をらしたけれど、私がいつもいたずらっ子にするように、ほっぺたを両側からつねられた。


「全く、陰口かげぐちとは情けないわね。思うことがあるなら、本人に言いなさい」


「あ、あいたたた……ご、ごめんなひゃい」


 まさか、こんなねらったようなタイミングで太田さんが来るとは思っていなかった。


もえちゃん、そういうことじゃ、ないと、思うの」


 繭ちゃんの言葉に、きっぱりと返す太田さん。


「いえ、そういうことよ。悪口を言うのだから、正々堂々(せいせいどうどう)と言って、反撃はんげきを食らえばいいの」


 隣に立っている少年が、わたわたというか、あわあわしているけれど、それに気づかないのか、太田さんは続けた。


なんにせよ、そんなことを言えるくらい余裕があるということはよく分かったわ」


「あ、あはは……」


 何か、前にも……というか既に何回か似たような状況になっている気がするのだけれど、実は私をどこかで監視してたりするんじゃないかな。


 実は太田さんが一流のスパイなのでは説を脳内で展開てんかいしていると、


「だ、大丈夫、でした、か?」


 とひかえめな繭ちゃんにたずねられたから、私は笑顔で返した。


「ほっぺたは痛いけど、大丈夫ですよ」


「自業自得でしょう」


「あはは。それなら、良かった、です」


 途切とぎれ途切れながらも、そうやって言葉を伝えてくれる繭ちゃんに、


「甘やかさなくていいのよ、全く」


 と呆れ顔だった太田さんだけれど、すぐに私に向き直り、


「これ渡したらすぐに帰るわ」


 と不透明な袋を差し出してきた。


「差し入れ?」


「じゃないわよ。貴女あなたの下着」


「……ああ!」


 そういえば、確かに頼んだっけ。


 両親に買ってきてというわけにもいかず、花乃亜ちゃんには本とかを依頼いらいしていたから、更に替えの下着まで持ってきてくれというわけにもいかず。


 バイト中にひどく汗をかいたとき用に、最近は着替えを持ってきていたのが幸いして、昨日の着替え分はあったけれど、今日以降の分が足りなかったから、今日見舞いに来てくれるという太田さんにお願いしていた。


「というか、貴女のブラ、何で全くサイズが違うのがいくつも混じっているの?」


「えっ……あ、えっと……」


「う、それは――」


 私が返答にきゅうしていると思いがけないところからの援護えんごが。


「ま、まだ、成長期、だし、これから成長、するかもしれない、から、だよね? うん、分かる、よ」


 ちょっと赤くなりつつ、繭ちゃんがそう言った。


「あ、えっと……うん」


 そ、そういうことにしよう。


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