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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第16時限目 勇気のお時間 その27

「どうして?」


 私が素直に尋ねると、


「……ふんっ、駄目なものは駄目なんだよ!」


 と吐き捨てるように言うから、


「そっか、じゃあ私は駄目な子でいいかな」


 と言って顔をのぞむと、少年は目をらして逃げていってしまった。


 ちょっと意地悪いじわるだったかな。


 とはいえ、私だって譲れない……ううん、譲ってはいけないところがあるし。


 やりたいこととか好きなことを曲げる必要は無いって思うから。


 まあ、今までの自分がずっと抑圧よくあつされていたからというのもあるけれど。


 ……いや、女装は抑圧された結果による趣味じゃないけどね!?


 翌日以降はもうあの少年は私の病室に来ず……というわけでもなく、ふと気づくとまたとびらの向こうからこちらを覗いていて、目が合うとダッシュで逃げ出す、という感じになっていた。


 最初は私も来る度にそわそわしていたけれど、徐々に慣れてくると余裕が出てきたから、私は読書をしたり、来客らいきゃくに応じたりしていた。


 それで、今日最初のお客様は。


「……本、持ってきた」


「ありがとう」


 小さな体で、よいしょっ、と単行本を数冊抱えてテーブルの置いてくれた花乃亜かのあちゃんにお礼を言った。


 持ってきてもらったのは、花乃亜ちゃんが持ってるコレクションから、花乃亜ちゃんが好きだとおすすめしてもらった花乃亜セレクション。


「これで良いの?」


「うん。読んだことなかったから」


 私は花乃亜かのあちゃんに持ってきてもらった小説の背表紙を見て、うなずいた。


 何故、本を持ってきてくれたのかというのは単純な話で、コミューで花乃亜ちゃんから昨日来れなかった代わりに今日来ると連絡があって、もし可能なら何冊か本を持ってきてもらえると嬉しいと返信したから。


 花乃亜ちゃんの騒動そうどうがあってから、何度か花乃亜ちゃんと静野家しずのけに行くことがあったのだけれど、花乃亜ちゃんと好きな本トークをしていたときに、興味をそそられる本が何冊かあった。


 ただ、花乃亜ちゃんが静野家に行くのも休みの日だけだし、その度に毎回付いていくのも何だか申し訳ない気がして、たまに同行するだけだったから、実際にその本を読むことが出来ていなかった。


 一方で、思った以上に病院のベッドの上はやることがなく、スマホでゲームをする習慣しゅうかんもあまりない私だから、読書をしていたいと思ったのだけれど、家に取りに行くわけにもいかないし、持ってきている本も1冊のみ。


 お母さんにも連絡したけれど、忙しくて毎日は来れないとのことだったから、ベッドの上で有り余った時間を消化するためにも、花乃亜ちゃんにお願いして本を持ってきてもらったという訳。


叔母おばさんがいっぱい積んでたけど、多すぎて持っていけないから、結構置いてきた。1冊だけ中に入ってるけど」


 あはは、と私は苦笑いする。


 そう、静野家に行くからもちろん静野さんにも何度も会うのだけれど、相変わらずの無表情の割に、やたらとお菓子やジュースがグレードアップしていて、来客を喜んでくれていることはよく分かった。


 更に、私が読書好きだということを知ってからは、花乃亜ちゃんよりもむしろ熱心に本を勧めてくれたりしたから、きっと私のお見舞いに来てくれるとき、あれこれと準備してくれたのだろう。


 そして、それを花乃亜ちゃんが無慈悲むじひ分別ぶんべつして置いていったせいで、ちょっと悲しそうな雰囲気ふんいきになっていたのかもしれないと思うと、少しだけクスリとしてしまった。


「で」


「で?」


 私は花乃亜ちゃんが続けて出した言葉に、疑問符を付けて返した。


「あの子は?」


 最小限の動作で、ちらりと流し目を、病室の入り口に向ける。


「あー、うん。まあ、なんだろうね……」


 正直、私もあまり良くわかっていないけれど、1つだけ言えることは、


「昨日はちょっとだけ話をしたんだけど、嫌われちゃったみたいで……」


「どういうこと」


 花乃亜ちゃんに昨日の話をすると、


「……」


 無言で頷いた。


 ……え?


「大丈夫」


「大丈夫って……」


「むしろ、準にもっと興味がわいたから見てる」


「そうかなあ。視線が合うと逃げられちゃうし、むしろ悪化してる気が……」


 苦笑にがわらいで言うと、花乃亜ちゃんが、


「本当に嫌いになったら、もう来ない」


 と即答したから、ちょっとだけ納得した。


「でも、準がそれ、読んでるの知らなかった」


 花乃亜ちゃんがすぐに食いついた。


「ん? ああ、筋肉探偵の外伝? そうだね、私も漫画版が結構面白かったから少し読んでて。最近、ひそかに人気が出てるみたいだし」


 私も知らなかったけれど、真帆の家で漫画を読んでから、寮のテレビだとか、スマホのニュース記事とかで比較的名前を見るようになって、男性よりも女性の方に人気が出てきているらしいということもそのとき知った。


 だから、そういう意味でも別に問題はない気がするのだけれど。


「この作家さんの本、好き」


「知ってる作家さんなの?」


「叔母さんの友達」


「友達」


 まさかの友達とは……。


「何回か、家にも来たことある」


「そこまで近い付き合いなんだね」


「お酒飲みすぎて、酔っ払って家にまっていったこともある」


「……」


 なんというか、うん……まあ。


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