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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第3時限目 日常のお時間 その10

「しまったなあ……」


 スカートなんて履いてくるんじゃなかったと今更後悔。上下をいちいち考えなくても良いワンピースを着てみたのだけど、足を上げる度にスカートが捲れて非常に走りづらいし、何よりもはしたない。


 と同時に、走っている最中ずっと胸で自己主張を続けるブラ。本当の自分の胸ではないから痛くはないけれど、気になって気になって仕方がない。もし、これが本当に自分の胸だったら、気になるどころではなく、擦れて痛かったのかも。


 チリン。


 体の上下どちらもに意識を取られながら走っていた私は、視線の先から鈴の音が聞こえて、少しだけ走る速度を緩める。私に向かってくる方向へ、鈴の音と共に走ってくる四本足の生き物が1匹。


「……また猫?」


 成猫と思われる三毛猫が私の横を軽やかな足取りで駆け抜けていった。猫の首には赤色の首輪がしてあり、聞こえた鈴の音はその首輪のものだったみたい。


 昨日もみゃーちゃんが飼っている猫が居たけれど、ここでもまた猫? この学校は猫のパラダイスなのかな?


「ま、待ってーっ!」


 思わず足を止め、走り去っていく三毛猫を目で追っていたら、後ろから聞き覚えのある女の子の声が聞こえてくる。


「正木さん?」


「あ、あっ、小山、さっ、んっ」


 ひらひらのスカートを翻しながら、へとへとの正木さんが倒れこむように私の肩に掴まる。


「大丈夫ですか?」


「え、ええ……ただ、うちの猫が……」


「さっきの三毛猫ですか?」


「そ、そうです! 普段はお家の中で飼っているんですが、ちょっと目を離した隙に逃げられてしまって……」


「あー……」


 実家で昔から猫を飼っているから分かる。基本的に生まれたときから家の中で飼っていれば、特に外に興味を持たないからほとんど脱走しないと聞いたことがあったのだけど、ずっと実家の部屋飼いだった実家の猫はたまに脱走していた。


 で、探しても見つからないからと半ば諦めた頃に息絶えたトカゲやネズミを咥えて戻ってきて、私の目の前に置いたりしていたっけ。小学校の低学年くらいだったから、最初は嫌がらせか何かかと思ったけれど、親愛の証らしいということを聞いてから、とりあえず持ってきてくれたら頭を撫でてあげることにしていた。


 その猫は私が中学の頃に死んでしまったけれど、今はその子供が実家にまだ居る。確か、何処かの家の猫とお見合いして出来た子を引き取ったんだったかな。今うちに居るのは見た目はほとんどアメリカンショートヘアの雑種で、成猫としてはかなり小さいオスの子。前世は犬だったんじゃないかってくらいベタベタに懐いてくれていたけれど、元気にしているかな?


「ううう……、どうしよう……」


 慌てふためく正木さんの様子で現実に引き戻され、ひとまず近くにあったベンチに座らせる。


「ま、まずは座って落ち着きましょう。ほら、猫に限らず、動物は追えば追うほど逃げると言いますし」


「そう、なんですが……」


 正木さんの様子を見ると、あまり脱走慣れ、と言っていいのか分からないけれど、頻繁に脱走するタイプの子ではないみたいで、正木さんは顔面蒼白とまで言わずとも普段白い肌を更に青白くしている。


「おーい、紀子ー!」


「紀子ちーん……おや、準きゅんも居るじゃない」


 岩崎さんと片淵さんがこちらに近づいてくる。待ち合わせ場所から走ってきてくれたのかな。


「突然、紀子が猫を追いかけて学校の中に走っていくから何かと思ったよ。そういや、あれ紀子の家の猫だっけ。あまりあたしには懐いてくれなかったからすっかり忘れてたよ」


「同じくー」


 わっはっは、と2人は笑いながら言うけれど、正木さんはもう気が気でない様子で小刻みに震えだしたから、私はとりあえず手を握る。


「大丈夫ですよ、正木さん。きっとすぐそこに……?」


 言いながら視線を猫ちゃんが走っていった方に向けると、渦中の人物……いや猫物? がこちらから見える場所でごろん、と横たわっている。


「あっ」


 正木さんもどうやらその様子が見えたようで、がばっとベンチから立ち上がって走り出そうとするから、私は慌ててその肩を掴む。


「ちょっと待ってください!」


 慌てて猫を追いかけようとする正木さんの手を引いてストップを掛ける。


「な、何ででででですか小山さん!」


 取り乱した様子の正木さんが噛み噛みモードで私の手を掴み返す。


「追いかけたら逃げられます。それはどんな動物でも同じなので、基本的には追わないようにしないと」


「で、でも……!」


 困惑状態の正木さんに尋ねる。


「あの猫ちゃんが好きなおやつとか持ってますか?」


「い、家に戻れば……多分」


「じゃあ、取ってきてください。猫ちゃんは私が見ておきますから」


「え? あ、は、はい」


「大丈夫です、任せてください」


「……は、はい」


 正木さんは少し困惑した様子を残したまま、それでも校門の方へ走り出した。


「あ、岩崎さん。正木さんに付いていってあげてください。1人だとちょっと心配なので」


「おっけー。何か良く分からないけど、こっちは小山さんと都紀子に任せるよ!」


 走る正木さんを追いかけて、親指をビッと立てた岩崎さんも走り出したのを見て、隣に居た片淵さんが少し真面目な顔をして私に尋ねた。


「ふーむ? ところで準にゃん、これからどうするんだい? 何か妙案があるのかい?」


 私がベンチに座ると、片淵さんはその隣りに座って、三毛猫がごろんとレンガ敷の床に寝転がっているのを眺める。


「実を言うと、何も思いついていないです」


「ということは、どちらかというと紀子を落ち着かせるためとかかねー?」


「ええ、お察しの通り」


「にゃっはっは、まあ良いんじゃないかな。確かに紀子ちんって、ちょっと慌て始めると手が付けられないところがあるしねー」


 とは言うものの、ただ見ているだけではいつ逃げ出すか分からない。せめて、何かしら猫の気を惹くものがあれば、この場に留めることは出来るかもしれないけれど……。実家の猫はどうだったっけ?


「にゃー」


 前に飼っていた子は脱走癖があったけれど、今の子は凄く甘えん坊で、外に出ようとすることすらほとんど無かったかな。


「にゃー」


 あ、でも私が出掛けるときにはたまに付いてこようとして家の外に出たことはあったっけ。脱走する気は無さそうだったけれど。


「にゃーあ」


「もう! 何?」


「準にゃん、何か別の猫が居るよ?」


「えっ?」


 何だかこの学校に入学してから「えっ」ばっかり言っている気がしないでもないけれど、片淵さんの言葉で視線を左右に往復させてから、さっきの三毛猫ちゃんが居た向きと逆、つまり正木さんたちが走っていった方を向くと、凄く甘ったれた鳴き声の猫がとことこ歩いてきていた。


2016/10/17 文章見直し

一部、文章を見直しました。

変更内容に関しては、同じ3時限目その17に記載しています。


2017/10/25 誤字修正

「ワンピースを来てみたのだけど」

「ワンピースを着てみたのだけど」

初歩的な誤字です。

こちらもご指摘頂きましたので、修正させていただきます。

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