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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第16時限目 勇気のお時間 その11

「はあ……終わった」


 とぼとぼと部室棟からりょうへ戻る。


 場所が場所なだけもあり、立ったまま寝ているせいでほぼ等身大トルソーみたくなっている華夜かよと、忙しそうに副部長と打ち合わせしている千華留はまだ部室に残るらしく、手芸部でのお仕事? から解放された私は1人で帰ることにした。


 ただ。


「ふあぁぁ……」


 前日の疲れの上に着せ替え祭りがたたったのか、途中で眠気に耐えきれなくなり、足取りもおぼつかなくなってきた。


「……ちょっとだけ、休んでいくかな……」


 不幸中の幸いというべきか、他に生徒の姿は見えないから、ふらふら歩いていても周りに心配を掛けたりはしなくて済んだのではあるけれど、学校の入口から近い噴水ふんすいの周囲にあるベンチに座った途端とたん、揺らぐ視界。


「あ、これは……」


 ヤバイとかまずいとか、その辺りの言葉が脳を駆けめぐり、かろうじて左右に倒れる際、地面の方向ではなくベンチの座る方向に倒れた、ところまでしか意識が残っていない。


「……ん」


 気絶するように眠ってから何時間経ったのか、実は数分だったのかは分からないけれど、次に私が目をパチリと開けたときはまだまだ周囲は明るかった。


 とはいえ、そのときの私は時間がどうこうよりも、ここは何処なのかとか、何故私の視界には横を向いた世界がうつっているのだろうとかが先に脳内を支配していて、


「あー……寝てた、んだっけ」


 とようやく現世げんせに意識が舞い戻るには少々の時間をようした。


 そろそろ夏も近づいている、この時期で良かった。


 冬場だったらこごえていたかもしれないし、ちょっと時期が前で梅雨つゆの時期に重なっていたら、雨に打たれて風邪かぜをひいていたかもしれない。


 ベンチも温かくてやわらかくて、もう少しくらい惰眠だみんを……温かくて、柔らかい?


 季節的な「暖かさ」ではなく、側頭部そくとうぶ辺りを包み込むような優しい「温かさ」と逆の側頭部を何かが往復する感触かんしょく……何だろう?


「おや、起きたかい」


「……?」


 声が上から振ってくるけれど、絶妙ぜつみょうな感じで逆光ぎゃっこうになっていて顔が見えない。


「まだ、意識がはっきりしないか。なら、もう少し寝ていると良いだろう」


 この少し淡々(たんたん)としていて、事実を述べることに特化したようなしゃべり方、何処かで聞いたことがあるような。


 ……あ。


桜乃さくのさん?」


「ん? ……ああ、気づいていなかったのか」


 その言葉が自分の上部から聞こえた環境や今にいたるまでの状況、その他諸々もろもろの情報が一堂いちどうかいした脳内から結論が吐き出されたところで、私は飛び起きた。


「おおう!」


「お……おおう、どうしたんだ?」


 2人して同じような驚き方をしてしまったけれど、それもそのはず。


 私の想像通り、桜乃さんが膝枕ひざまくらしてくれていた。


 多分、更に言うと、頭をでてくれていたような気もする。


「ああ、すまない。そんなに嫌だったか」


 少し悲しそうな表情をする桜乃さんに、私は慌てて、


「え、いや、嫌だった訳ではなく……その……ありがとうというか、すみませんというか」


 としどろもどろの回答をする。


「で、でも桜乃さんはどうしてここに?」


「ああ、いやなんだ、もう一応引退はしたんだが、まだたまに科学部に顔を出していてね。その帰り道で君が無造作むぞうさに寝ていたから、何かあったかなと思って少しこうしていた」


「な、なるほど」


 ……そんなにすご寝相ねぞうだったのか、な?


「でも、嫌だったのなら、もう――」


「あー、えっと、まだちょっと眠いなー」


 そう白々(しらじら)しく言って、私は桜乃さんの膝に寝転がった。


「あ……」


 こういうネガティブモードの桜乃さんには、ちょっと強引にいった方が良いことは実証済みだから、私は過去の結果にならって桜乃さんの膝に横になった。


 ま、まあ、女の子の膝に、自分から寝転がって膝枕を強請ねだるとか、バレたらなぐられたりしてもおかしくない状況なのだけれど、今はこの選択が正しい、そう思っておこう。


 逆光で、やっぱり表情は分からなかったけれど、


「……ふふっ、ああ、そういえば」


 と、光と共に届いた桜乃さんの声は同じくらい明るかった。


「どうしてそんなに眠そうなんだい? 小山さんはどちらかというと、あまり寝不足になるまで起きているタイプには思えなかったんだが」


「ああ、えっと……」


 私は昨日の状況をかいつまんで話した。


「なるほど、上映会か。楽しそうだ」


「今度やるときは桜乃さんも来たら良いよ」


「……それは遠慮えんりょしておこう」


 再びしずみ込むような声で返してきた桜乃さん。


「私に来られても、皆が困るだろう」


「私が困らないから大丈夫」


「いや、そういう問題では……」


「そういう問題。だから、また上映会するときは声を掛けるよ」


 私を撫でる手を優しく握ってから、私はそう言った。


「……いや、そうだな。分かった」


 安心したような、桜乃さんの声を聞いて、また少しだけ目をつむると、私の意識は再び光に溶け込むように薄れていった。


「……ありがとう」

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