第16時限目 勇気のお時間 その9
文化祭が中止になる理由って何だろう。
「あ、文化祭が、ではなくミュージカルが、ですよ? 原因は大雨で、外で開催予定だったアイドルのコンサートやミスコンを体育館での開催に変更したせいで、時間が無くなってしまって……」
「そっか……でも普通、普通は雨が降る可能性も考えてない?」
「そうなんですよ! ちゃんと雨のことも考えてたみたいなんですけど、大雨っていうか台風みたいな風が吹いちゃって、飛ばされちゃうからって出店もほとんど出せなかったんです」
「それは確かに……あれ、でも待って。文化祭ってほぼ丸1日やっているから、流石に少しくらいは時間、空くんじゃない?」
確かに大雨でプログラム変更になることはあっても、朝からやっていれば少しくらいは時間が取れる気もする。
「そうなんですけど……うちの学校、体育系の部活も文化祭で、体育館内とかグラウンドで体験型の出店、出してたりするんですよ」
「体験型の出店?」
いや、まあ確かに運動部が出してはいけないというルールもないし、出店が出ていてもおかしくはない気がするけれど、体験型の出店って……?
「バスケ部だったら、フリースローで何回入ったら商品とか、陸上部だったら走り幅跳びでいくつ以上飛べたら商品とか、そんな感じです。体育祭では外部の人呼べないので、どうしても文化祭に皆が合わせて色々やるんですよ」
「ああ、そっか。だから、ほとんど体育館空かなかったってことね」
「正確には、皆が協力してちょっとは空けてくれると言っていたんですが、外部から呼んだ人のコンサートの準備時間まで考えると、ミュージカルの時間が予定の半分くらいになっちゃって、流石に今から台本を短縮もできないからって泣く泣く中止にした、らしいです」
……そこまで不幸が重なると、学校側の気持ちも、やりたかった人たちの気持ちも、どちらも分かる。
「なので、さっきの子……あ、演劇部の今年の部長なんですけど、絶対に開催させたいという思いがあるらしくて。だから……すみません」
「気持ちは良く分かった……とはいえ、私でどうにかなるとは思えないけれど。でも、こういう不意打ちはやめて」
「しゅみましぇん……」
私は一連の話にやるせなさを感じつつも、まだ吹っ切れないでいた。
「やらないという選択肢は無いというのは分かったけれど、せめて規模を縮小させるか何かしないと駄目でしょう。というか、そもそも17人も出てくる時点で、登場シーンだけでミュージカルの時間終わらない?」
「時間は大丈夫です! 今年も演劇部と合唱部と吹奏楽部の発表時間を合わせて、1時間くらいは確保したみたいなので!」
「……」
そこの熱意はあるのね。
いや、むしろ前が駄目だったからこそ、そこに熱意を注いだのかもしれないけれど。
「こ、今後! 小山さんの言うこと、何でも聞きますからぁっ!」
私が二の足を踏むような態度を取るからか、捨てられる子犬みたいな表情をする千華留が縋り付いてくる。
「準、良かったね。何でも言うこと聞くって」
ぽそり、と背後から言った華夜の言葉に、私はまた頭痛が激しくなるようだった。
「いや、良かったねじゃなくて」
「欲張りさん。じゃあ、私も言うこと聞いてあげるって言ったら?」
「そういう問題じゃないから! 1人でも2人でも、結局参加しなきゃいけないんでしょう」
「そう」
一切、迷いのない言葉に、私はやっぱり溜息を吐くしかなかった。
「小山さぁぁぁぁぁぁん……」
「準」
前後から華夜と千華留に挟まれ、私はもう何度目か分からないけれど、はあ……と腹の底から吐き出した溜息を投げ捨てる場所もなく、頷いた。
「……あーもう、分かった、分かったから。参加するから!」
「あ、ありが、ありがとうぅぅぅぅぅ、ございますぅぅぅぅぅぅ!」
女装している男が男装するって、一周回って一体何になるんだろうね。
「じゃあ、私はこれで……」
「あっ、待ってください!」
もう眠いから帰ろうとした私を引き止める千華留。
まだあるの? と私が明らかな不満顔を見せると、
「え、えっと、王子様の衣装、もう作り始めたいって後輩たちが……」
と人差し指を突き合わせる千華留が言った。
「いや、いくら何でも早すぎない? ……あ、いや、でも17人も居るんだったら、衣装も早めに準備しないといけないか」
手芸部の子たち、チームワークが異常に良いから、1週間前後でかなり凝った作りの衣装を作れるみたいだけれど、それが17人分……?
「あれ? もしかして今から作っても間に合わない可能性がある?」
「そうなんです……。ある程度は既製品を使って間に合わせようと思ってるんですが、念の為決まってるメンバーだけでも作り始めたいと……」
はあ、と千華留も溜息。
どちらかというと、千華留も巻き込まれた側の人間みたいだから、あまり厳しく言っても、ねえ。
「……まあ、仕方がないか」
「本当に、恩に着ます」
><千華留が手を合わせてきた。
「で、準は私たちに何をさせるの?」
「え、その話、まだ生きてたの?」




