第16時限目 勇気のお時間 その8
「……それで、演劇部で人が足りないから、誰か呼んでほしいと言われた上、特に王子様役の子が絶対に必要だから、背が高くて体格の良い子を連れてきてくれと……」
「ふぁい」
私が呆れながら言うと、少し赤くなってしまった頬を擦りながら千華留が肯定した。
もちろん、頬が赤い理由は言わずもがな。
「……はあ。で、その劇の名前は?」
「王子様と17人のシンデレラ、です」
「……」
一瞬、目眩がした。
「あ、いや、14人? 19人だったかも……」
うん、もう細かい人数とかはどうでも良くてね?
ただでさえ人数足りないのに何故そんな数のシンデレラを集めようとしたのかが良く分からないのはあるけれど。
なんというか、ガラスの靴はどうするのかとか、カボチャの馬車にぎゅうぎゅう詰めにするのかとか、何か色々と問題はある気がするのだけれど、それよりもその題名とさっき去っていった謎の女子生徒の言葉からして――
「あ、もちろん小山さんは主役ですよ!」
にっこりと満面の笑みでそう言うから、私は追加で千華留の頬を引っ張った。
「ふぇぇぇぇ……」
「むしろ、だから困るんでしょう!」
「ふみまふぇぇぇぇぇぇぇぇん」
何故、演劇など1度もしたことがない私が、それも演劇の主役をやらなければならないのか。
「というか、体格の良さはさておき、単純に身長なら千華留でも良かったんじゃ……。ほら、布をもこもこ詰め込んで……」
「駄目です。私はシンデレラその1ですからねっ!」
「……」
ああ、うん、そうか、そうですよね。
人数が足りてないと言っていたのだから、そりゃあ千華留も既に駆り出されていてもおかしくないよね。
「……私は、魔女役」
寝てたと思ったら、華夜がもっそりとそう言った。
……目は相変わらず瞑ったままだけど、寝言……ではないよね?
「つまり、人が足りないからとにかく頭数を集めようという……」
「そういうことなんですぅぅぅぅぅぅ、だからお願いしますぅぅぅぅぅぅぅ……」
半泣きどころか全泣きしている千華留に頭を抱えつつ、私は溜息をまた量産するしかなかった。
「文化祭……確か9月頃だよね」
「です!」
前の学校にも、文化祭というものはあるにはあった。
文化祭という名ではあるけれど、体育館に集まって、一部の部活と生徒が発表するだけで終わりの、小学生とか中学校の頃にあった学芸会の延長線みたいな文化祭が。
それから比べれば、こちらは出店も出せるし、各部活動での出し物も結構凝っていると真帆が言っていたから、私もちょっと興味はあった。
これで自分がステージに立たなければ良いのであれば最高に楽しみだったのだけれど。
「それで……」
「まだ何かあるの?」
「あの、今度の文化祭、どうやら吹奏楽部と演劇部と合唱部が合同でミュージカルをやりたいと言っているらしくて……」
脳内の呆れがミルフィーユ構造になりつつ、私は溜息とともに言葉を吐き出した。
「……そもそも、人が足りないのに何故それを引き受けたの? いや、というか流石に3部合同にしたら人は集まるんじゃ?」
「いえ、吹奏楽部は演奏しながらダンスに付き合うのは良くても、演技だけは絶対嫌と言っていて……合唱部も後ろで歌を歌うのはいいけど、表に出て歌うのは嫌だって……」
「いや、他の子が拒否出来るなら私も――」
「それだけは、絶対に、ダメーーーーっ!」
「わ、分かったから!」
千華留が私に縋り付いて、がっくんがっくん揺らしてくるから、私は諦めの極致に。
とはいえ。
演劇部としては、文化祭は絶好の機会だというのは分かるけれど、出来ることと出来ないことがある。
それも、素人の寄せ集めで劇をやるのだけでも大変なのに、まさかのミュージカルって。
これが、まだ体育館での上演項目の幕間に上演されるミニ劇場みたいなものであれば、ちょっと失敗しても笑って済ませて貰えるかもしれないけれど、まさかの合同でミュージカルとか、ちょっと笑うにも笑えないレベル。
「せめて、普通の演劇にすることは出来ないの?」
「それは、無理なんです……。去年の因縁で」
「因縁?」
……いや、それ以前に、去年の因縁なら私たち、全く関係ないし――
「やめちゃ駄目ですからね!?」
「……」
顔に出てたかな。
「去年の文化祭で、演劇部と吹奏楽部と合唱部の部長が仲良くて、折角だからミュージカルにしようって準備していたらしいんです」
「うん」
まあ、それ自体は無いことはないかな、という気はするけれど。
「で、文化祭の直前まで皆頑張って練習してたんです。でも、それが中止になっちゃって……」
「中止?」




