第16時限目 勇気のお時間 その5
「ふうん……?」
疑問符を付けて私に言う太田さん。
反応はさっきの華夜とあまり変わらない。
「えっと、この……なんだっけ、ドラゴンジャー? とかいう……」
「ドラ……?」
「その……特撮の……」
どうやら、太田さんも知らないらしく、あまり良く知らないヒーローについて、2人で「良く分からない」空間を作り出しながら話をしていると。
「……こ、これ……」
いつの間にか、私の傍に繭ちゃんが居て、おずおずと大きめの平たい板を差し出してきた。
「え?」
「あの、スマホ、画面、ち、小さいし……これ、使ったら、大きく見れる、から」
「あ、これって……タブレット端末?」
「そ、そう」
確かに、これならスマホよりもよっぽど画面が大きいし、見やすいとは思うけれど。
「借りていいの?」
「う、うん。あの……」
「ん?」
声が尻すぼみになっているのは分かったけれど、少なくとも何かまだ伝えたいということだけは分かったから、繭ちゃんの目線まで腰を折って尋ねた。
「何かあるなら、聞きたいな」
繭ちゃんは続きを促されたことで少し安心してくれたのか、言葉を続けた。
「あ、あの、よ、良かったら、私も、見てみたい」
言葉を出す元気を作るためか、ぐっと拳に力を込めて、私を見上げる繭ちゃんが言った。
「うん、良いよ。一緒に見よう」
まあ、さっき華夜と一緒に見たのだから、繭ちゃんとは駄目なんて理由なんてないのだけれど、楽しめるかな? という不安はある。
でも、私がOKを出したことで、繭ちゃんの表情がぱっと華やかになったから、面白かったとしても、面白くなかったとしても、今後話題にするのには良いのかもしれないと思う。
閑話休題。
「……」
短い髪の毛を、人差し指でくるくると回すようにいじっている女の子が1人。
……太田さんの場合は、合わなかったら後で色々言われそうな気も……いや、それは偏見かな。
「あ、あの、良かったら太田さんもどう?」
「そ、そうね!」
声を掛けられるのを期待していたみたいで、私が声を掛けると即座に反応した太田さん。
「あまり変な映像を見ていたらいけないから、私がチェックするわ」
そう言いながらも、少しだけ楽しそうな表情が見て取れる。
「あの、合わないかもしれないけれど……」
「単に寮の風紀を乱さない内容か確認するだけだから」
さっきと同じように、目の前にタブレット端末を横にして立てた横、左が太田さん、右が繭ちゃんと並んで座ったのを確認してから、動画を再生した。
動画再生前に流れるCM中、繭ちゃんにそっと尋ねた。
「繭ちゃん、こんなタブレット端末使うんだね」
「うん。さ、最近は、漫画とか、電子書籍で読んだり、するから」
「電子書籍かあ。ちょっと挑戦してみたいと思うんだけど、あまり読んだ! って感じがしないからちょっと苦手で……」
まあ、それ以前に高校生のお小遣いでは買えないという最大の問題があるのだけれど。
というか繭ちゃんって、勝手な印象ではあるのだけれど、どちらかというとそういうのは苦手な方というか、紙の本を捲っている方が似合っている気がしたけれど、意外とそういうのに抵抗ないんだなあというのが少し驚きだった。
「私、も、全然使ってなかった、んだけど……お姉ちゃんが、誕生日に、くれた、の。最初に、何冊も本を、入れておいて、くれて、だから、読むようになった、の」
「そうなんだ。やっぱりきっかけが――」
「ほら、始まってるわよ」
――要るよね、と言おうとしたところで、逆側から袖を引っ張った太田さんにそう言われた。
「ああ、うん」
私はタブレットの方に向き直った。
本編の内容はさっきよりはまだ頭に入ってきたけれど、隣で見ている太田さんが事あるごとに、
「あ、危ないっ」
とか、
「だ、大丈夫なの……?」
とか声を上げるから、やっぱり今回も集中して動画を見ることは出来なかった。
太田さん自身も視聴終了後にはかなり疲弊しているようだったけれど、
「ま、まあ、結構楽しめたわね」
とそれなりに満足げだった。
最初はどうなるかと思ったけれど、普段あれだけ物静かで厳格な太田さんにこういう一面があるのが分かったのは良かったと思う。
もう少し、視聴中のテンションを下げてくれると助かるけれど。
「繭ちゃん、大丈夫だった? 退屈じゃなかった?」
私がそう尋ねると、
「うん。おもしろ、かった」
と繭ちゃんは笑顔で答えた。
「それなら良かった」
「続きをまた……あっ、これ」
動画が終わった後に、他の動画へのリンクが表示されていたのだけれど、繭ちゃんはその内の1つを指差して、
「これ、知らない?」
と尋ねてきた。
動画の名前を確認すると『魔法少女ワンダーガールズ 1話』と書いてあるのだけれど……魔法少女?
こちらは特撮ではなく、アニメみたいだけれど、何だろう……?
「む、昔……やってた。見たこと……ない?」
「……ごめんなさい、見たことないわ」
まあ、それは男だからとか女だからとかではなく、私自身が単純にそういう娯楽的なものをあまり嗜まなかったというのが理由ではあるけれど。
「私も見たこと無いわね。名前だけは知っているけれど」
太田さんも首を傾げた。
「面白いよ、見よう」
珍しく、繭ちゃんが「見たい」とか「見てもいい?」とかでなく、尋ねる前にぽちっと動画再生ボタンを押した。
……あれ、もしかして繭ちゃん、もしかしてこういうのが好きなのかな?
まあ、私も特撮に付き合わせてしまったし、見てみようかな。




