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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第15時限目 図書のお時間 その32

「じゃあ、行きましょうか」


「……」


 私の言葉に、小さく頷いて、六名家の扉を見つめる六名さん。


 とりあえず、ここに来る前に種は埋めた。


 それがちゃんと発芽はつがするかは……これからの行動次第。


「……大丈夫」


 私が少しだけふるえていた六名さんの手をぎゅっと握る。


 しばらくしてようやく震えが止まった六名さんは、


「……ありがとう。行き、ます」


 と言って、六名家の扉を開いた。


 もちろん、入ると言っても六名さんが居るからチャイムは鳴らさない。


「……ただいま」


 小さく、か細い六名さんの声が廊下ろうかに響くと、


「……花乃亜かのあ? 帰ったの?」


 少しきつい声風こわぶりの女性の声が返ってきたと思ったら、すぐに聞こえてきた足音と共に、目の吊り上がった黒髪の女性が現れた。


 それも、腕を組んだ高圧的な態度で。


「遅かったじゃない」


 口元辺りは六名さんと近い気がするけれど、いつも無言で静かな六名さんとは雰囲気ふんいきが似ても似つかないから、むしろ叔母おばさんである静野さんの方が近い気がするくらい。


「お母さん……ただいま」


「ちゃんと寮長りょうちょう挨拶あいさつしてきたの? 寮を出てきた……にしては荷物が少ないわね。それに、そっちのは何?」


 矢継やつばやに言う六名さんのお母さんは、不審者ふしんしゃを見るような目でこちらを見ながら言った。


 ……いや、そっちのって。


 いくらなんでも、もう少し言い方があると思うのだけれど。


「お友達」


「お友達ぃ? はぁ……あのねえ!」


 呆れた声で頭をく六名さんの母親。


「今日はお父さんと3人で、大事な話があるって言ったでしょ? なのに、なんで友達なんか連れてくるのよ! 前から思ってたけど、花乃亜、アンタ本当に人の話を聞かないわね」


「……」


「とにかく、今すぐ帰ってもらいなさい。ほら、早く」


 強い口調のままで言う六名さんの母親だったけれど、私は首を横に振った。


「事情は知っていますし、用事がありますので帰りません」


 そう答えると、また荒々しい口調で「は?」と返してくる。


 確かに知らない子が家に上がりこんで、帰れと言われても突然「帰りません」とか言われたら、そう言いたくなるのも分かるけれど、それ以前にこの人は他人に対して配慮とか思いやりといった言葉を持たないような人だということが、この数分のやりとりだけで良く分かった。


 ただ、こちらとしても六名さんのためにやることがあるから、まだ帰るわけにはいかない。


「お話があって来ました」


「話? 何のよ」


「六名さんの……花乃亜さんの件です」


「花乃亜の件? 何言ってるの? まさか、退寮たいりょうを止めに来たとか? 呆れた……それは決まった話だし、部外者のアンタには関係ないでしょ?」


 特大の溜息をいた花乃亜ちゃんの母親だったけれど、


「何だ、どうした?」


 騒ぎを聞きつけたのか、後ろから現れたのは、これまたなんというか……見た目で判断してはいけないのだろうけれど、母親と同類の男性が現れた。


「はあ、今から話があるっていうのに、花乃亜が変な子連れてきたって」


「……花乃亜、お前は本当に……」


 多分、こちらが父親なのだろうと思うけれど、頭をぼりぼりときながらこちらも特大の溜息。


 ……うん、大丈夫。


 頭に血が上りかけたけれど、坂本式冷静法、つまり手の甲をつねって我慢する方法で、怒りをしずめた。


 この2人に鉄拳制裁を加えたくなったけれど、暴力沙汰は駄目だし、何よりそれでは話が解決しないからね。


 六名さんのためにも、ちゃんと話をしなければ。


「今日は大事な話があるって言っただろ? それなのに、友達連れてくるとか、お前マジで何も考えてないの?」


「……」


「何とか言えって」


 きゅっとくちびるんだ六名さんを横目に見て、


「失礼ですが」


 割って入り込んだ私に、一瞥いちべつをくれる六名さんの父親。


「なんだお前。娘と話してるところに割り込むとかどういう神経しんけい? ってか早く帰っていいよ」


「そうはいきません。静野さんから伝言を預かっているためです」


 私がそう言うと、母親の方の顔色が変わった。


「は、はあ? なんでよ。なんであいつがこんな知らないのを寄越すのよ」


「静野って誰だ?」


 父親の方は全く分かっていない様子だったけれど、母親から耳打ちされて同じく表情が変わった。


 どうやら、第1段階はクリアしたらしい。


「いいですね?」


 ここで押し切る以外に方法がない私は、そう強めに言うと、六名さんの両親は顔を見合わせて、渋々頷いた。


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