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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第15時限目 図書のお時間 その28

「し、失礼しまーす……」


 ノックしてから、私が保健室に入ると、


「はい、どうぞ……ああ、いらっしゃい」


 机に向かって何やら作業中だった坂本先生が振り返って、にっこり笑った。


「ごめんなさいね、呼んでしまって」


「いえ、大丈夫です。あの、何か御用ですか?」


 私が尋ねると、


「ええ、ちょっとお願いがあって。これから太田理事長と会議があるから、少し席を外さなければならないのだけれど、その間だけで良いからここに居てもらえないかなと思いまして」


 と手を合わせて、笑顔をくずさずに私に言った。


「……はい? あの、留守番ということですか?」


「そういうことになりますね」


 うーん?


 さっきの真帆の話と辻褄つじつまが合わない。


 真帆の勘違い……ということはないと思うけれど、じゃあ一体?


 もしかして、私がサボる口実こうじつのために、あらかじめ坂本先生が布石ふせきを打った的な……?


 いや、うん、もしそうだとしても理由が分からないけれど。


「あの、これから授業で……」


「ええ、そうですね。受験前の大事な時期だということは理解しています。ただ……」


「ただ?」


 先生が意味深な言葉で区切るから、私は頭にハテナを浮かべながらたずねた。


「心配事を残したままでは、勉学にも力が入らないでしょう?」


「……はい?」


 今までの話も意味が分からなかったけれど、更に意味が分からなくなり、私の思考回路が暴走しそうになっている。


 にこにこしながら話す坂本先生は細かい事情を説明する気がないのか、それ以上の説明を続ける様子がなかったから、私は至極当然しごくとうぜんの質問をする。


「で、でも、治療とか出来ないですよ、私」


「大丈夫、授業中だから、体育で怪我けがした子が居ない限り、誰も来ないはずです」


「体育で怪我した子が来たらどうするんですか……?」


「そうね……。あ、それなら電話で呼んでもらえますか? はい、電話番号はこれです」


 そう言って、スカートのポケットから携帯を取り出し、電話番号を表示させて、こちらに向けた。


「は、はあ……」


 この「何が何でもここに残ってもらいますからね!」という有無もいわさない雰囲気ふんいきは良く分かった。


 つまり、ここで私に拒否権きょひけんはない。


 ……いや、ないわけではないのだけれど、そこまで言われて無理にでも嫌だと言う気はないというか。


「大丈夫、次の授業の先生には話をつけていますから」


「次の授業、咲野先生の授業ですしね」


「あ、バレました?」


 咲野先生と坂本先生の仲だから、授業がいつなのか知らないわけではないと思うし、そもそも授業を受ける本人が知らないわけがない。


「そうです。真弓ちゃんの授業だって聞いていたので、この時間なら大丈夫かなと。あ、もちろん今日の授業で分からない部分については、個人的に質問する時間とか、ちゃんと確保してくれるみたいですよ?」


「……はあ、分かりました……」


 観念かんねんしたように私が言うと、


「じゃあ、お願いしますね」


 優しく両手をぱちん、とたたいてからそう言った坂本先生が、保健室の扉を閉める直前に、


「ああ、そうそう。1人だけ、今体調が優れなくてベッドで寝ている子が居るけれど、その子が起きてきたときは対応してあげてくださいね」


「え?」


 それだけ言い残して、坂本先生は扉を閉めてから、ささっと保健室を出ていってしまった。


 ……誰か寝てるの?


 というか、私が対応するってどういうこと?


 もし風邪だとしても、勝手に薬とか渡せないし。


 だったら、まだ体育の怪我人を治療する方がよっぽど対応出来る気がする。


 というか、そんな体調が悪い子が居るのなら、むしろ起きたらすぐに先生を呼んだ方が良いに決まっているから、起きてきたら電話しよう、うん。


 というか、咲野先生といい、坂本先生といい、生徒に爆弾情報を投げつけて逃げるのは何故。


 私を困らせて楽しんでいるのか、それとも去り際まで本気で忘れていたのか。


 まあ、どちらにしても1時限分はここに居ることが確定したから、あわてたってしょうがないと、私は坂本先生の椅子に座った。


「あー、せめて教科書とノートくらい持ってくれば良かったなあ」


 何もせずに1時限分の時間をつぶすというのはなかなかに大変。


 特に、スマホであまりゲームとか電子書籍とかを利用する人間ではないから、スマホをいじって時間を潰すこともあまり得意ではないし。


 教科書ではなくて、読みかけの小説でも良かったのだけれど、ないものを嘆いても仕方がない。


 折角だからこの機会にスマホで何かゲームとか――


「……っ!?」


 何かするどい視線を感じた気がして、息をんだ私は周囲に視線をめぐらせた。


「だ、誰も居ない……よぬぇ!?」


 ぐるっと一周見てから、ほっと安堵あんどの息をこぼした私が、ベッドの周囲に掛けられたカーテンの隙間すきまからのぞいている目があることに気づき、変なさけび声を上げてしまった。


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