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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第15時限目 図書のお時間 その21

 日曜日の夜。


 いつもどおり、六名むつなさんが来た。


 結局本人に直接名前を聞かなかったから、六名さんの叔母おばさんであるということしか未だ分かっていないのだけれど、静野さん? と思われる女性の家ではあれだけ饒舌じょうぜつになっていた六名さんが、また無言キャラに逆戻りしていた。


 これホント、太田さんのせいなんじゃ……?


 もちろん、そんなことは言えず、私は黙々とテオを撫でる六名さんを見たり、教科書を開いて予習復習をしたりと、それなりに充実した時間を過ごしていた。


 まあ、あの静野家で六名さんが思った以上にしゃべる様子を見て、意思疎通いしそつうしたくないわけではないのかもしれない、から喋りたいけど環境的に無理、みたいなことを思っていると確信が持てたから、無言で居てもそんなに苦じゃなくなったし、そのうち気を許してくれれば、寮内でも口を開いてくれるだろうと楽観的に思えるようになったから、気分的には大分楽になった。


 なので、六名さんが首の振りのみで意志を表示してくれるだけでも十分かなと思っていたそんな矢先。


「そういえば、六名さんの花乃亜かのあって名前の由来って何ですか?」


 私がふと、そんなことを思って声を掛けたのがきっかけだった。


「……」


 テオを撫でる手が止まった六名さんは、小さく、でも力強く首を横に振った。


 言いたくない……ってこと?


「ごめん、なさい」


 私の部屋に出入りするときの挨拶あいさつ以外で、久しぶりに発された言葉はそんな謝罪しゃざいの言葉だった。


 更に、その言葉の直後に六名さんは部屋を出ていってしまった。


「あ、あの……!」


 地雷を踏んだのなら謝ろうと思って声を掛けたのだけれど、一切振り返ることなく去ってしまった六名さんに、空を切った私の手はふらふらを宙を舞って、ひざに舞い降りた。


 もしかしなくても、地雷だったのかな?


 それも超特大の。


 ……いや、申し訳ないけれど、そんなところに特大の地雷が埋まってるなんて思わないよ、と言い訳するけれど単なる言い訳にしかならない。


 でも、よく考えれば『静野』という名字が爆弾だったということは、その辺りには連鎖的れんさてきに爆発する何かが仕掛けられていてもおかしくないと考えるべきだったかもしれない。


 私が名前の話題を出したのは、単純に花乃亜って名前が可愛いひびきだから、どんな意味なのかなってちょっと気になっただけだった。


 私の『準』という名前は、お母さんに聞いたら「基準とか水準とかみたいに何かの中心とか起点になるところになってほしい」という意味だったみたいで、単純に2番手でもいい、みたいな意味なのかなと思っていた私は少しだけ驚いた記憶があって。


 だから、名前の話題を振ってみたら、案外話題が広がるんじゃないんじゃないかなと思っていたのだけれど、その目論見もくろみは失敗したどころでは済まなかった。


「……ごめんなさい、六名さん」


 本人が居ないところで謝ったところで意味はないのだけれど、今回の失敗で多分星と星の間くらいに気持ちが離れてしまった気がする。


 もやもやを抱えたまま迎えた更に翌日。


「……小山さん」


「はい」


「……六名ちゃん休んでるみたいなんだけど、なんか知らない?」


 朝のホームルームが終わってから、ちょいちょいと咲野先生に手招てまねきされて呼ばれた後の会話。


「え、あ、分からない、です」


 咲野先生と目を合わせず、私はそう言った。


 嘘ではない。


 私が思いこんでいるだけで、六名さんが風邪かぜを引いただけかもしれないし。


「金曜日に、あの紙ちゃんと渡してくれたんだよね?」


「はい、進路希望面談用の紙は渡しました」


「うーん……そんなに落ち込むほど、何かあったんかなあ……。綾里あやりに聞いたら部屋から出てこないって言ってたんだけど」


「……」


 待って、そこまで落ち込むほどのことだったの……?


 少し軽く考えすぎていた自分が恥ずかしかった。


「んー……、仕方がない。面談は後日に……」


 そう言いながら、あごに手を当てつつ、咲野先生が少しだけなやんでから、


「いんや、元橋もとはしちゃんの方、先に済ませてから寮に乗り込むか」


 と言い出した。


 乗り込むって……。


「で、でも、そんな状態だったら、誰も入れてくれないんじゃ……」


「んー、まあそうかもね。でもさ」


 咲野先生は、にっ、と笑って言った。


「駄目だったら駄目だったときでいいじゃん? 人によっては構って欲しくてそういうポーズを取る子もいれば、本気で悩んでるんだけど、意外と話してみたらそんなに悩むほどのことじゃなかったとか、そういうパターンもあるし。それに、もしアタシが事前に渡してたあの紙が原因だったら、アタシの責任だしさ」


 咲野先生は教科書を抱えて直してから、


「ということで、小山さんは放課後に一緒に来てね」


 と人差し指を立てつつ、私に言った。


「え? ……あ、別に構わないですが、な、何故ですか?」


「嫌?」


「嫌ではないですが……」


「んじゃ決定で。よろしくねー」


 手をひらひらさせながら、咲野先生が去っていった。

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