表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

382/959

第15時限目 図書のお時間 その19

 そんな私の様子を見て、慌てて言い直した六名むつなさんの叔母おばさん。


「ああ、いえ……別に貴女の意見を否定をしたいというわけではなく。若人わこうどは自分の今の視野範囲だけでモノを考えがちですから、勿体もったいないと思ってのことです。もちろん、それが悪いとは言いませんが、案外思いも寄らないものに合っている可能性だってあるのです」


 相変わらず淡々(たんたん)としているけれど、私でも何となく分かった。


 今のは真面目にさとそうとしている表情。


「叔母さんみたいに?」


「……それではまるで、私が傍目はためから見たら全く合っていない仕事をしているように思われるではないですか。まあ、確かに見た目通りと言われたことは無いですが」


 ……だったのに六名さんがそんなことを言ったから態度は一変、六名さんを睥睨へいげいする叔母さん。


 そんなことを言われる仕事って一体……?


 非常に聞いてみたい衝動しょうどうられたけれど、まだ赤の他人に毛が生えた程度の知り合いだから聞くのはやめておこう。


「何にせよ、私も楽しいことを仕事にしたら、大変でした」


 ただ、六名さんの叔母さんは、そうやって溜息混じりに言う割には、楽しそうな雰囲気ふんいきかもし出していたから、きっと今の仕事は好きなのだろう。


「遠い将来のことはもう少し悩んでからで良いでしょう。ただ、今のうちから少なくとも自分がやりたい方向性くらいは見極めておいた方が良いでしょうね」


「でも、まだ全然決まってない……」


 ぶーたれる六名さんに対して、叔母さんのややお説教じみた話はもう少し続く。


「まあ、先程の忠告ちゅうこく安直あんちょくに手段を夢にえようとしたからです」


「手段……?」


「ええ。飛行機を操縦したいからパイロットになるとか、電車の運転がしたいから車掌しゃしょうになるとか。それが駄目とは言いませんし、それを夢にずっと仕事を続けられる心の強い人も居ます。そして、実際にその夢を叶えた人もたくさんいるでしょう。ただ、楽しいことでも毎日ずっと続くのですよ? 何十年とそれが続いても、変わらず楽しめるますか?」


「それは……」


 正直分からない。


 むしろ、それが分かっていれば――


「それが分かっていれば悩まないでしょう。ただ、私の経験上、それはとても大変なことです。好きなことでも”やらなくてはならない”という半ば強迫観念きょうはくかんねんのようなものにさらされてしまうからです」


 そういう、ものなのかな。


「だから、私は目的を夢にしてほしいと思います」


「目的?」


「そうです。身近な誰かを救いたい、誰に楽しいと思ってほしい、そういった目的を。そうすれば、きっとどこかでつまづいても、手段を変えて、夢には向かえるはずです」


「……」


「まあ、抽象的ちゅうしょうてきですし、何だかんだ言って、私自身楽しいことを仕事にして、続けていますからそれが正しいのかは良く分かりませんが」


 ややあきらめに近いけれど、今までよりは笑顔と言って差し支えない表情を、私に向ける六名さんの叔母さん。


 まだ十分理解できていないことが多いし、わだかまりになっている感情も飲み込めていない。


 ただ、見た目以上に……って六名さんの叔母さんということは大人なんだから当たり前なのだけれど、やっぱり人生の先輩なんだなあと思った。


 だからといって、今思った通り言葉に出したら、絶対に怒られるから、私は自分の語彙ごいの類語辞典から当たりさわりのない言葉を引いて、


「全部はまだ理解できていないですが……勉強になりました、ありがとうございます」


 と答えた。


 そうすると、表情は笑顔と呼んでも良い表情になり、


「十分です。理解できなくても受け入れようとする気概きがい、気に入りました。花乃亜と共にうちの子になりませんか」


 などと、少し息荒く六名さんの叔母さんが言った。


 ちなみに、六名さんはあまり話が飲み込めていないのか、うーん……? とまだ首をひねっている。


「え、ええ……? というか六名さん、叔母さんの子だったの? あ、いや、でも叔母さんだから子供ではなくて……養子?」


 思わず口からそんな言葉が転げ落ちたから、慌てて口の中にしまい直したけれど、どうやらそもそも2人とも自分の世界に入っていたせいか、聞きのがしてくれていたみたいだったから、いまのはなかったことにして、上書きするように私は六名さんに声を掛けた。


「あ、そうだ! 文系、理系に行くという話だけど、六名さんは苦手な教科とかある?」


「……」


 ずーん、と急に重苦しくなる空気。


 しまった、考えなしに話題を振ったけれど、これも地雷だった?


 ……いやまあ、普通に考えれば地雷の可能性大だったよね!


 理系か文系か、どっちに進もうかなと悩んでいるのが「頭が良すぎて選びたい放題なんだよねー」みたいな人である可能性なんてほんの一握りくらいしか居ないだろうし、居たら居たですごいと思う。


 もちろん、勉強は出来るが将来設計が苦手、という人も居ないわけではないと思うけれど、そこまで頭が良い人ならば、ちょっとしたきっかけで上手くやっていけるだろうし。


 まあ、とどのつまり、完全に私が地雷を踏み抜いたよね、という話。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ