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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第15時限目 図書のお時間 その7

 私がはっとして起き上がると、いつの間にか意識が飛んでいたみたいで、電気を点けたまま布団の上に伸びていた。


 あれ、私そんなに疲れてたかな……?


 今日1日を思い返してみても、力仕事はダンボール運びくらいしか無かった気がするなあ……どちらかというと精神的な疲労の方が、うん、あったかな。


 やけに喉が渇いていたし、ちょっとさっぱりするために顔でも洗おうと思って、野生を欠片ほども感じさせない大の字で熟睡中じゅくすいちゅうのテオを起こさないようにベッドからそっと下りた私は、タオルだけ持って部屋を出た。


 大きな伸びをしながら階段を下りる途中で、何だかほお辺りに違和感があって、ああこれはよだれかなと思案しあんしつつ1階に着いてすぐ左折。


「……!」


 ……喉が渇いていて良かったかもしれない。


 思わず叫びそうになったけれど、喉がカラカラだったから声を上げることが出来なかった。


 1階左手、洗面所兼脱衣所になっている扉から座敷童子がお風呂セットを持って出てきた。


 冗談で言っていたけれど、本当に着物姿だ!


「……」


 最初に心を支配したのは恐怖だったけれど、徐々にそれが驚愕きょうがくに変わり、最終的には平常心に着地した。


「六名さん……?」


 ちょっと大きめの日本人形みたいなその子は、さっき別れたばかりの六名さんだった。


 ほかほかしているから、お風呂上がりかな。


「……」


 ううん、そういうことではなくて。


「あ、あの、ごめんなさい。てっきり、座敷わら……ううん、六名さんって着物、す、好きなの?」


 クラスメイトであり、寮生でもある六名さんは、紺色基調の着物のような服装だった。


 これにカランコロンとなる下駄げたまで付いていれば完璧かんぺきという姿。


「着物じゃなくて、これは寝巻ねまき」


「ね、寝巻き……?」


 こくり、と小さくうなずいた六名さん。


叔母おばさんがくれた」


「……そ、そうなんだ……」


 その叔母さんは古き良き時代を大切にしているタイプなのかもしれないけれど、洋館風の寮には少し似つかわしくないかな。


 まあ、前髪もやや切りそろえられたショートカットで、少しクールな感じの六名さんにはぴったりというか、もうこれ以上適切な服は無いんじゃないかと思うような似つかわしさではあるのだけれど。


 ……いや、そういう感想が言いたかったわけでもなくてね?


 何にせよ、幽霊の正体見たり枯れ尾花おばな、とはよく言ったものだけれど、まさか六名さんがそうだとは……いや、でもに落ちた。


「ほっぺた」


「え?」


 言葉は耳に入ってきたけれど、意識が全く別なところで処理を走らせていたせいで意味が理解出来ず、時間稼ぎがてらたずねた。


 でも、六名さんは相変わらずのマイペースさでそれには答えず、目一杯背伸びして、私の頬に手を伸ばした。


「……猫の毛」


 私からむしった……訳ではなく、さっきから違和感を主張していた頬に付いていたらしい何かを取ってくれた様子だった。


 ちなみに、違和感の原因は六名さんが発した言葉の通り、灰色系統の色をした毛が結構もっさり取れていた。


 ああ、そっか。


 だんだん思い出してきた。


 太田さんの言葉の謎を吹き飛ばすように、テオをわしゃわしゃと撫で回していたら、何だか眠くなってきて、テオに顔をうずめるようにして眠ってしまったんだっけ。


 つまり、わしゃくりまわしていたときに抜けた毛をそのままに、顔をうずめて寝てしまったら、そりゃあ頬にテオの毛がくっついていてもおかしくはないよね。


「取ってくれてありがとう」


 手を差し出して、テオの毛を受け取ろうとするのだけれど、じっとその毛を見て止まっている六名さん。


「あ、あの……」


「……猫」


 誰に言うでもなく、独り言を呟いた……のかなと思ったけれど、


「猫」


 今度はこちらを見て、はっきりとそう言った。


 ああ、はい、それは猫の毛です。


 ……もしかして、触りたいのかな?


「あ、あの、私の部屋に居るけど、見に来る?」


 そう尋ねると、私の知る限りでは最速で、六名さんが素早く2回頷いた。


 六名さんがこんなになるほど、猫が好きなのかな。


「先にちょっと顔を洗って、お茶だけ飲ませてね」


 今度はこっくり、と1回頷いた。


 とりあえず、ずっと不安だった座敷童子の正体が分かって安心したのだけれど、顔を洗って、タオルで拭きながら鏡を見たところで、背後に六名さんが無言で立っている姿がまた座敷童子に見えて、私は「ひっ!」と小さく声を上げてしまった。


 それも、じっと私を見ているから、ホラー映画の主人公になった気分だったけれど、もちろん本人にはそんなことは言えないから、追っかけで出そうだった悲鳴を慌てて飲み込んだ。


「おまたせ」


 食堂のお茶で喉をうるおしてようやく落ち着いた私は、こくりと再び頷いた六名さんと共に2階の私の部屋に入った。


 招待客のお目当てであるテオは、さっきの体勢と一切変わらず、大の字で寝ていた。


 ずっと室内で飼っていたとはいえ、野生の『や』の字すら見当たらないこの子は本当に猫なのだろうかと疑ってしまう。


「テオ」


 まだ気持ちよさそうに寝ているけれど、お客さんが来たから、ちょっとだけ起きてもらおうと声を掛けたのに、夢の世界から一切戻ってくる様子はなかった。


 むむ……。


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