第15時限目 図書のお時間 その6
敢えなく撃沈した私は、押し黙ったまま六名さんと2人で寮までの道を踏破した。
じ、実に辛く苦しい道のりだった……。
10分以上無言で歩き続けたのはある種の拷問に近かったと思う。
そして、もし六名さんは咲野先生の手前もあって、お情けで私と帰ってくれているだけだと仮定すると、彼女にとっても私と一緒に帰ることはマイナスだったりするんじゃないかと本気で考えたりもしている。
あれ、つまりWin-Win……の逆のLose-Lose?
1番駄目なタイプじゃない?
……更に心が沈んだけれど、その思いをぐっと飲み込み、改めて思う。
最初は六名さんと華夜は結構近いのかな、とか思っていたけれど、この短時間でも大きく違うなと良く分かった。
華夜も何を考えているのか分からないときはあったけれど、大抵の謎行動は私をからかうつもりか、千華留のためかの2パターンだったし、それ以外では無感動な声ではあるけれど、本当に感情が無いわけではなく、ちゃんと答えてくれるから意思疎通は問題なく出来る。
でも、六名さんはとにかく喋らない。
物静かというにも限度があるでしょ!? と言いたくなるくらい。
とにかく可能な限り沈黙を守っている様子はもう好き嫌いというよりは人類皆敵とまで考えているのでは? とまで思ったり。
……それは冗談として、視線は何かを言いたそうに感じる。
残念ながら、半分どころか3分の1も伝わってこないけれど、きっと意思疎通がしたくない訳ではないのだろうと信じている。
発声することに自分で制限を設けている……のかなあ。
今日1日は35文字だけで生活しよう! とか……流石に無いと思うけれど。
それはそれとして、寮に辿り着いた私が玄関の扉を押し開けると、
「あら、おかえりなさい。珍しいわね、小山さんと六名さんが一緒なんて」
寮に入ってきた私たちを見て、眼鏡をきらりと光らせた太田さんだった。
「あ、ただいま。ま、まあそうだね」
「そういえば、朝のホームルームで先生から何か仕事を押し付けられていたし、六名さんと一緒ということは……大方図書室で追加の図書が来たから、体よく使われたということでしょう?」
「良く分かったね」
私の小さな称賛の言葉に「ふふん」と嬉しそうに笑う太田さん。
もしかして、探偵とか目指してたのかな。
それとも、咲野先生が前から追加図書が来る度、誰かを捕まえて同じようなことをしていたのかな?
……後者のような気もするけれど、黙っておこう。
「というか、小山さんは六名さんと面識あったかしら? 寮内含めて、2人が喋っている姿を見た覚えが無かったのだけれど」
「無かったから、今回の件で初めて話したよ。ね、六名さん」
そう同意を求めながら隣を見ると、既にそこには空気があるだけ……いや、下駄箱はあったけれど、居たはずのクラスメイトであり寮生の少女は居なくなっていた。
「……あれ?」
私がきょろきょろすると、
「もう部屋に戻ったわよ」
と呆れ顔で太田さんが答えた。
「……」
太田さんと喋っていて気づかなかったのは間違いないのだけれど、それにしても気配が無さすぎるし、冷たすぎる。
「心配しなくても、彼女は誰相手でもそんな感じだから」
私が顔を押さえていると、同情なのか、太田さんがそんな言葉を掛けてくれた。
ちなみに、顔を押さえていたのは、別に悲しくて泣いていたとかではなくて「よっぽど嫌われているのかな……」と本気で悩んだだけで、別に泣いていたとかそういうわけではない。
泣いてないよ?
「昔からあんな感じだしね」
「そうなんだ……っていうか太田さんは彼女のこと、知ってたんだ」
「まあ、多少はね。彼女も寮生だし」
同じ寮生だけど、今まで全然遭遇したことなかった人もここに1人居るんですが……。
「あんな感じになった理由は……知らないわけではないけれど、周りが言うことではないわね」
呆れというか、諦めというか、そんな顔で太田さんが言った。
そんな太田さんの雰囲気から「実は極度の恥ずかしがり屋さんなんだよ」みたいな単純な話ではないということだけははっきり分かった。
「……それなら、聞かない方が良いね」
「本人が言いたくなったら聞いてあげればいいわ。まあどうせ、貴女ならその内に教えてもらえるでしょうし」
太田さんがそう言うから、私も何となく「そっか」って言いながら靴を脱いだのだけれど、言葉の意味を反芻して、いやこれ普通に流す言葉じゃないなと今更気づき、
「え? どういうこと?」
と尋ねようとしたら太田さんも自分の部屋に戻ってしまっていた。
みんな酷くないですかね!?
「私なら教えてくれる……?」
首を捻りつつ、部屋に戻った私は、早速足に顔を擦り付けながら甘え声を出すテオを抱え上げて膝の上でひとしきり撫で回してから、テオを抱えてぱたんと仰向けで布団の上に倒れ込んだ。
「どういうことかなあ……」
私に高い高いされているテオに、そんなことを首を傾げながら呟いたけれど、テオは私の真似をするみたいに首を傾げるだけだった。




