第14時限目 契約のお時間 その18
少しだけ逡巡した工藤さ……華夜が口を開いた。
「何が合うと思う?」
「え?」
唐突な質問返しに、私は思わず口を開けて、目を瞬かせた。
「え、ええっと……なんだろう」
正直なところ、華夜と一緒に居る場合は大半が千華留と一緒に居るときだから、手芸部での関わりしかない気がする。
それを除くと、今度は寮内での遭遇しかないから、尚の事参考になる情報がない。
少しだけ期待されている……ような気がする華夜の視線を浴びつつ、1番可能性が高そうなところからカードを切っていく。
「え、ええっと、で、デザイナーとか?」
「違う」
手芸部に千華留と通っているから、もしかして……と思ったのだけれどハズレ。
「え、ええっと……じゃあ、女優さんとか?」
「違う」
手芸部繋がり……からは少し離れたけれど、どちらかというと手芸部でも作る側よりも着る側が多かったからもしかして、と思ったけれどこれも間違い。
流石にここでコスプレイヤー、というピンポイントな答えということも無いだろうし……だったら、なんだろう。
華夜情報が枯渇してしまったから、ここからは完全に当てずっぽうになる。
「えーっと、じゃあお花屋さんとか」
「違う」
「弁護士?」
「違う」
「うーんと……なんだろう、公認会計士とか」
「……」
全くかすりもしていないからなのか、徐々に華夜の表情がよろしくない方向に傾いていく。
でも、こうやって華夜の将来の夢を当てようとすると、私って華夜のこと、全然知らないんだなって気づいた。
華夜だけじゃない。
正木さんや真帆たちの夢だって、全然分からない。
まあ、出会ってそんなに経っていないのはそうだけれど、もっと皆のこと知りたいなんてことをふと思った。
それはそれとして、うーんうーん、と胃を痛めそうな悩み方をしていたら、華夜が答えを発表した。
「保育士さん……」
「え、保育士?」
私が疑問符を付けて返すと、むっすーっ! と明らかに不機嫌な表情に変化した。
珍しい、華夜がそんなに表情を変えるなんて……じゃなくて!
「あ、ち、違う違う。変とかおかしいとかじゃなくてね? その……なんで保育士さんなのかなって」
記憶を辿る限り、華夜が小さい子と絡んでいるシーンが見当たらないから、あのまま当てずっぽうを続けていても、当たるのは結構先になっていたと思う。
「……」
「あ、言いたくなければ良いんだけど……」
「小さい子、好きだから」
テオがすり寄ってきたのを受け止めつつ、華夜がそう言った。
「というか、一人っ子だったから、誰かの面倒を見たいって思う」
「そういうことね」
「だから、千華留の面倒も見てる」
「え、いや……」
それは違う、と言いたかったけれど、あながち間違っているとも言えない気がして、そのままごにょごにょと言葉を濁した。
「それに、動物も好きだから獣医さんもしてみたい」
「あ、もしかしてひつじとか?」
「別にひつじが特別好きなわけじゃない。この子は触り心地が良かったから使ってるだけ」
そう言って、そっと机の上に置かれていたひつじを抱え直すと、テオが「それ触らせて!」と俄に浮き足立った。
「こら、テオ。駄目」
私は触り心地の部分については心の中で同意して、そのふわもこ人形に今にも爪を立てそうなテオをつまみ上げ、定位置に乗せた。
「……でも、何をするにも勉強が出来ないと駄目」
「それは……否定できないね」
勉強さえ出来れば良いわけではないけれど、就職するには大抵入社テストがあるから、それに合格しないといけないというのはある。
もちろん、保育士さんや獣医さんでもそれは同じはずだし。
「勉強は出来ないといけない。でも、苦手。だから、教えて欲しい」
「うん、私に出来ることならいくらでも。あ……でも、前の勉強会のときみたいに、私をからかってばかりだと進まないから、あれは……その、なしにとは言わないけど、回数は減らしてね」
「……」
華夜が、少しだけ考え込んでから、
「うん」
と答えた。
え、だ、大丈夫……?
そんなに悩むほどのことだった……?
「でも、華夜が子供好きって初めて知ったよ」
「言ったことなかったから。それに、好きでも子供に逃げられる」
「に、逃げられるんだ……」
まあ、なんというか、普段の華夜はこう……若干近寄りがたい感じがあった。
華夜のことがある程度分かってきた今では、別にそんなことは無いのだけれど、最初は何を考えているのか良く分からない不思議タイプの子だったと思うし。
あ、それと千華留のお母さんと最初会ったとき、見た目は間違いなく千華留のお母さんだったけど、最初の方のちょっとだけクールな感じは華夜のお母さんと言われても少しだけ頷けそうな感じだった。
最終的に、大変失礼では有るけれど、ポンコツな感じは園村家の血筋なんだなって感じだったから、やっぱり千華留のお母さんで合ってるんだなあ、なんて。




