第14時限目 契約のお時間 その17
「だから、どういう形でも良いから、園村さんと工藤さんの役に立ちたいと思う。ホントは代わりに血を吸われるのが1番良いと思ってたけど、それが駄目なのであれば、別の方法でも良いと思うし」
「……」
私の言葉に対して、再びふいっとそっぽを向く工藤さん。
む、折角本心を曝け出すのだから、ちゃんと話を聞いてもらわないと、と思って私はぐいっと肩を引き寄せて言う。
ちなみに、このときの行動は完全に無意識。
「私、何か出来ること無いかな」
じっと真摯に見つめると。
「……ち、近い」
工藤さんが、私を押し返すようにして言う。
「あ……ご、ごめん」
はっとして、私が慌てて謝ると、工藤さんは口をへの字に曲げた。
「それで、何かあるかな……?」
「……勉強」
「勉強?」
言われて、私はその後「あー……」と微妙な態度を取ってしまった。
それは、やっぱり片淵さんのときのトラウマ的なものが引っかかっているから。
多分、私よりも咲野先生の方が良い気がする。
ああ見えて……って言うととても失礼だけれど、やっぱり先生は先生なんだなって思うくらいには、咲野先生もちゃんと先生していたから。
でも、確かに私が1番役立てる場所となると、必然的にそういう頭脳労働的な感じになってしまう気がする。
あ、それに。
「そっか、受験もあるしね」
「受験」
私の言葉を繰り返した工藤さんは、さっきまで私のすぐ側まで迫ってきていたのに、ぴぴぴっと後ろに下がる。
「受験……」
そして、ずーんと精神の重量が数倍になったかみたいな落ち込みようを見せていた。
「あれ!? そういう意味で言ったんじゃなかったの?」
工藤さんはぷるぷると左右に首を振って、違うと意思表示をする。
てっきり「もうすぐ受験だよね、だから勉強手伝って! 代わりに授業中、私は寝てるから!」みたいな話かなと。
……いや、自分で言っていて、意味分かるようで、意味分からないけれど。
「すぐとは言わないけれど、受験も間違いなく来るし、確かに勉強はしておいた方が良いと思うよ」
「……受験」
まだ、受験繰り返すロボに成り果てている工藤さん。
こ、これは思ったよりも重症かな……?
「ま、まあ、まだ焦らなくても――」
「準は」
さっきも同じようなパターンあった気がするけれど、また工藤さんが私の名前で区切って、声を発した。
「何処か、行きたい学校は決まってる?」
「行きたい学校、かあ……」
工藤さんの言葉に、私はうーんと唸る。
「実を言うと、正直全然決まってない」
そう言ってから、私はすぐに付け加えた。
「正確に言うと、本当は……昔はあったんだよ」
「昔?」
「前の学校に居たとき、かな。あー、えっと……工藤さんには話したっけ、前の学校の話」
「聞いてない」
首を横に振ったから、私はかいつまんで話をした。
このネタはあまりしたくないと思っていたけれど、今日の私はノーガードデー。
それに、今はこの学校に転校して、色々あったお陰で吹っ切れた。
だから、過去の嫌な話も笑い飛ばしながら言える。
「……そんな学校だったから、将来は有名な学校に行く! っていうぼんやりとした目標だったんだよね。多分あのままだったら、同じようにぼんやりと一流の企業に就職する! ってなってたんだろうけど」
「……」
こくり、と私の話を邪魔しないように、工藤さんも床にぺたんと足を崩して座って話を聞いてくれている。
私も、流石にずっと正座は辛かったから、大分前から同じように足を崩してから座っている。
「だけど、この学校に来て、色んな人と話をしてたら、むしろ今が楽しくて全然将来のこととか考えてなかった」
前は何も考えず、がむしゃらに勉強ばかりしていればよかったけれど、今は正木さんたちと遊んだり、みゃーちゃんと遊んだり、たまに大隅さんや中居さんが遊びに来たり、繭ちゃんとも……あれ、遊んでばかり?
「そう」
「と、とにかく! だから、私も受験がどうこうって言ったけれど、全然将来どうなりたいかって決まってないかな。……あ、ちなみに工藤さんは?」
私の言葉にしばらく思案して、一瞬だけ口を開きかけたけれど、またそっぽを向いた工藤さん。
言いたくなかったからなのか、それとも別に理由なのか。
分からないから、素直に言う。
「工藤さんの将来の夢、聞いてみたいな」
「呼び方」
少しだけむすっとした横顔が見えている。
「ん? 呼び方?」
「……」
「呼び方……あ」
もしかして。
そういえば、あのとき……保健室から出ていったときからずっと、呼び方を戻してしまっていたんだっけ。
「……華夜の将来の夢、あるなら教えてほしいな」




