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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第14時限目 契約のお時間 その9

 だから、私もそれにならって、腰をかがめてから、


「こんにちは、小山準です。よろしくにゃー」


 と言いながら、ミケちゃんの頭をでた。


 続いて、正木……じゃなくて、紀子ボイスのミケちゃんは、


「すごく辛そうな顔してるにゃー? 何かあったのかにゃー?」


 と手を振りながら言う。


「……」


 私が少し言葉を選んで、躊躇ためらっていると、


「教えて下さい」


 とミケちゃんを下ろした紀子が真摯しんしな目で言う。


 ……確かに、もう話してしまった方が良いのかもしれない。


 もちろん、園村さんの秘密とか、自分の性別については説明出来ないけれど、ある子と仲違いしてしまって、その際に私自身も大人げない行動をしてしまって……という事実のみ並べる。


 部屋にあるクッションに座って、向かい合って私の話を聞いていた正木さんが、大きく深呼吸すると、


「それは準が悪いです」


 と再び真摯な色をたたえた目で言った。


 ストレートに言われた私は、またカッと頭に血が――


「やっぱり、そうなのかな」


 ――上らず、素直に聞き入れていた。


 それは、地雷原を踏み抜き過ぎた上での懺悔ざんげだからというのも少なからずあると思うけれど、何よりも真面目に聞いてくれた正木さんが聞いてもおかしい、と素直に言ってくれたからかもしれないと思う。


 多分、もう自分に言い訳が出来ないように、誰かにちゃんといさめて欲しかったのかもしれない。


「そうです。だから、その相手にちゃんと謝らなきゃ駄目です」


「……でも、謝って許してくれるでしょうか?」


 正直、自分で言うのも何だけれど、あれだけの態度を取られたら、嫌われても当然だと思うし、許したくはないとも思う。


「小山さん……いえ、準……ううん、小山さん!」


 紀子が、私の呼び名について迷走していたけれど、結局名字呼びをしてから、私の肩を掴んだ。


「良いですか? 最初から許してもらえるかどうかを考えて謝罪しても駄目です! 許してもらえるかではなく、まずは心からちゃんと謝罪してください」


「は、はい」


 ずずいっと顔を近づける正木さんに、私はこくこくこくこくと何度も何度も頷いた。


 それは大量に水を流された鹿威ししおどしみたいに。


「最初から許してもらえると思いながら謝罪したら、そういう態度が出てしまいます。だから、きっと……ううん、絶対に許してもらえません。だから、ちゃんと誠心誠意謝ってください!」


「そ、そうですね……」


 若干、私がたじろぎながら同意すると、にこりと笑ってくれた。


「それで、もし許してもらえなければ……そのときは、私が許してあげます!」


 ふむん! と鼻息荒く、言ってから、


「あっ……じゃなくて……ミケが許してあげますにゃー」


 床で大の字になって寝転がっていたミケちゃんを抱えて、顔を隠しながら慌ててそう言い直したから、私はまた表情をくずした。


「……ありがとう、ございます」


 私の言葉に、正木さんは笑顔で応えてくれた。


 正木さん自身は何も言われていないから、そう言ってくれるのだろうと思うけれど、それでも今はそう言ってくれる人が居るだけで救いだった。


「えっと……こんなこと聞いて良いのかは分からないですが、その人は小山さんのこと、本当に嫌いだって言ってたんですか?」


「え? あ、いや……直接的には……。態度からするとそうかなって……」


「……それでは、もしかすると小山さんの思い込みという可能性は?」


「……ない……」


 その言葉の後で、しばらく溜めてから続けた。


「……とは言えないです」


 もし。


 もし、本当に私の単純な思い込みのせいで、工藤さんにあんな酷い仕打ちをしたのであれば、本当に最低だと思う。


「ならば、尚更なおさら本気で謝らないといけないですね」


「はい」


 正木さんの言葉に、私は力強く頷いた。


「ありがとうございます、正木さん……あ、えっと、紀子」


「あ、あの……」


 さっきまでの自信に満ちたというか、さとすお母さんみたいな表情とは打って変わって、またいつもの少し躊躇ためらったような声で正木さんが言った。


「私から言い出しておいて……とは思うんですが、下の名前で呼ぶの、無理してませんか?」


「え、あ……」


 あはは、と少し苦笑いした正木さんは続けた。


「小山さんが真帆のことを真帆って下の名前で呼ぶようになって、ちょっとだけ嫉妬してたんです。私のことはまだ名字で呼んでいるのにって。でも、私自身が小山さんのことを準って言うようになって、距離が近くなったはずなのに、自分自身が無理している気がして……」


「あの、私も少しだけ……そういうのはあります」


 正直なところ、真帆や都紀子は思ったよりもすんなりと自分自身、下の名前で呼ぶことを受け入れられていた。


 ただ、正木さんだけは未だ違和感がぬぐえていない。


 それは、正木さんが真面目で優しいからこそ、下の名前で呼ぶと粗野そやに感じてしまうからかもしれないけれど、はっきりとした理由は分からない。


「だから、私のことは無理せずに、素直に紀子って呼べるようになったら、そう呼んでください。私も気軽に準って呼べるまでは、もうちょっと時間が必要かなって思います」


「分かりました」


「あ、でも他の皆を下の名前で呼ぶようになったら、逆に名字で呼んでいる方が特別感が出るかもしれませんね」


「あ、確かに」


 そう言い合ってから、私たちはふふっ、と顔を見合わせて笑った。

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