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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第14時限目 契約のお時間 その2

「……」


 少し考え込んだ華夜が、すっと席を立ったかと思ったら、私の隣の席に座った。


 唐突な工藤……じゃなくて華夜の行動に、私と千華留の脳内に疑問符が浮かんだのは間違いないのだけれど、華夜は周囲に視線を巡らせてから、


「良いよ」


 と胸元を大きく開けようとするから、私も千華留もほぼ同時に手を伸ばす。


「そ、そういうのは止めて!」


「華夜! そういうのは駄目だから!」


 千華留とほぼ同時に、小声で叫んだ。


「千華留が言ったのに」


「じょ、冗談だから……私も冗談だから」


 思った以上の行動に走った華夜に、振り回される私と千華留。


「なーんだ」


 白々しく言って、元の席に戻っていった。


 うん、この辺りはいつもと変わらない華夜だと思った。


 ……ただ、俺の気のせいかな。


 今まで気づかなかっただけなのかもしれないし、今回だけかもしれないけれど、耳がやけに真っ赤だった。


 ……もしかして、風邪?


 それなら気を付けておかないといけない。


 夏風邪は結構長引くと言うし。


 もし、違うのなら……華夜が恥ずかしがってる?


 いや、それは無いよね。


 未だに、朝ドライヤーで髪を乾かすときにはバスタオル1枚で、今なんかよりももっと恥ずかしくても、そんな素振りは見せていないし。


 ……うん、良く考えてみれば、それもおかしいよね。


「それで、これからどうしよう?」


 重要ミッションはこれでコンプリートしたから、後は流れ解散でも良いのだけれど、お茶したらはい解散、という形にしたいというほど居心地が悪い相手でもない。


「そうですね……あ、そうだ。良ければ、うちに来ますか?」


 少し考えていた千華留が、ぽんと手を打った。


「千華留の家に?」


「はい。お母さんも、たまには華夜以外の子も呼んで来いって……。あまり友達が居ないんじゃないかと心配されてます」


 よよよ……と泣き真似した千華留が言う。


「まあ、別に構わないけれど……」


 確かに、実際華夜以外と一緒に居る姿を、あまり見たことがないような。


 特段、クラスメイトが千華留を忌避きひする様子は見られなかったけれど、人の中心に居て、人をぐいぐい引っ張るタイプかというと、そうでもないかなとも思うし。


 ちゃんとキリッとしたとき、特に手芸部での部長っぷりは板についている感じがあったけれど。


「決まりですね。じゃあ、食べ終わったら行きましょう」


 そう言った千華留は、食べる手を早めたのだけれど、横に座っているのんびり女子は一切その速度を上げる様子がないから、まあもうしばらくは時間が掛かるかなと思いつつ、少しだけぬるくなりかけていた紅茶に手を伸ばした。


 華夜が最後の一口を食べ終わったのが、私の紅茶が全て無くなって、溶けかけた氷だけ残った水のコップを置いた辺りだった。


 事前情報から園村家は学校の隣、つまり正木家の逆側にあるらしいとは知っていたけれど。


「おお……?」


 なんというか、システマティックというか、スタイリッシュというか……上手く説明が出来なくて困るけれど、そんな感じの家だった。


 ほとんどの壁はガラス張りになっているけれど、外からは中が見えないようになっている。


 スモークガラスか何かなのかなと思ったけれど、家の中に入れてもらってから外を見ると、こちらは普通に見えている。


 つまり、所謂マジックミラーになっているみたい。


 でも、ちゃんと大きなカーテンがあるのは何故?


「お家の中が明るい方が良いからって、マ……お母さんが、マジックミラーにしたみたいなんですけど、夜中になると光の屈折? 反射? のせいで、うちの中が逆に見えちゃうので、ちゃんと分厚いカーテンを閉めるんですよ」


 興味深くカーテンを見つめていた私に、そう教えてくれた千華留だったのだけれど、どうしても聞きたいことが。


「……吸血鬼なのに太陽光に弱くないよね? 本当に千華留って吸血鬼、なんだよね?」


 私がいぶかしむと、


「ホントですよぉ!? というか、準の血も貰ってるじゃないですかぁ!」


 と何だか泣きそうな表情で返してくる千華留。


 い、いや、まあ本気で疑っているわけではなくて、これもある意味、ちょっとした冗談というか……ね?


「でも、吸血鬼って普通、太陽にっ……!?」


 私は言葉を発している途中で、思わずピシッと石化してしまった。


 何故かといえば、千華留の後ろにゴゴゴゴゴ……と殺気立ったゴルゴン……ではなく、長髪の黒髪女性が立っていたから。


「どうしたんですか、準?」


「い、いや……後ろに……」


「後ろ?」


 きょとんとしたまま千華留が後ろを振り返ると、背中しか見えないけれど、千華留がバイブレーション機能を発し始めた。


「……ま、ママ……」


 視線の先に、ギンッという視線の刃をこちらへ向けていた女性が、千華留に言う。


「今、その子、吸血鬼と言ったわね……? 千華留、彼女……工藤さんに知られたときにも言ったわね……? 私たちが吸血鬼だということは、絶対にバレてはならないと。何故、このお嬢さんは、貴女が吸血鬼だと知っているの……? 答えによっては、お仕置きが必要よね……?」


 一言で例えるならば、その形相ぎょうそうは、鬼。


 千華留をそのままもっとクールに、大人っぽくした感じで、まず間違いなく姉……いや、お母さん? どちらかは分からないけれど、明らかに血縁関係があることは分かる雰囲気ではあるし、おそらくおかんむりになっていなければ、美人と言っても過言ではないのだけれど、今のゆがんだ表情は「あ、これが吸血鬼ですか……」と納得してしまうようなプレッシャーだった。


「ち、違うの……」


「何が……? 何が違うの……? 違わないでしょう……?」


 あ、これは聞く耳を持たないというやつですね。


 問答無用とばかりに、何やら言い訳をしている千華留を軽々と抱え上げた女性。


「ひぃぃ……」


 泣き声を上げながら千華留が連行されていくのを、私と華夜は見送り、手を合わせるしか出来なかった。南無なむ


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