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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第13時限目 血縁のお時間 その20

 岩崎さんを救うはずだったのが、結局状況を引っ掻き回しただけで終わってしまった。


 ……駄目だな、私。


 いつもこんな感じで、気持ちばかりがいてしまって、何かしようって考えているのに空回りしてばかり。


「ねえ、準」


 私が反省の言葉を脳内で呟いていると、岩崎さんに声を掛けられた。


「ん、どうしたの?」


「次のバイトに行くときはさ、準も一緒に行かない? あ、もちろん、受験の時期とか考えると、そんなに長いことやれないけどさ」


「……そうだね」


 岩崎さんは結構コミュニケーション能力が高いし、誰とでも仲良くなれる気がするから、私なんかが居なくても良い気がする。


 何よりも、今回みたいなヘビーな状況はそうそう起こらないと思うから、そんなに心配しなくても良いと思うのだけれど、用心棒的な意味で一緒に居て欲しい的な感じはあるのかも。


「まあ、あたしもまだ次にどんなバイトをしようとか、全然決めてないんだけどさ」


「やっぱり、バイトはまだ続けたい?」


 まだ1学期さえ終わらないこの時期から受験対策というのは流石に息切れしてしまうと思うけれど、急にバイトをやめて、勉強一本に集中するのは難しい気がするから、こういうきっかけでバイトをやめてしまう方が良い気がする。


 ……ああ、勉強したくないから、バイトに集中しているというのもあるかもしれないけれど。


 岩崎さんは私の言葉に、小さくうーんとうなる。


「やっぱりさ、体動かしてないと調子狂うっていうか」


「そういう理由?」


「あはは。後はまあ、ほら、お金の問題もあるし……」


 おどけてそう言った後、岩崎さんは少しだけ押し黙ってから言った。


「……ホントはさ。まだ、何も将来とか決めてないのがちょっと心配で。あたしはどうすれば良いんだろうって思っちゃってるんだよね」


「将来?」


「ほら、なんていうの? 準とか紀子とか……都紀子だって、本気だせばあれだけテストで取れるって分かったじゃん? でも、あたしは頑張がんばっても全然取れなかったし」


「そんなこと無いと思うけど……」


 片淵さんのあの件の話であれば、岩崎さんだって十分に頑張ったと思う。


 そういう思いで言った私の言葉に、ううんと首を横に振る岩崎さん。


「そんなことある。もちろん、勉強する前よりはマシな得点だったけど、必死で頑張ってもあれだけしか出来ないんだって思った。そうするとさ、あたしって何が出来るんだろうって」


 一旦思い込んでしまうと、誰が何を言おうと自己否定からい上がるのは難しいと思う。


 だから、私は無理に否定せずに、


「そっか……」


 と曖昧あいまいな言葉をらすだけだった。


 あはは、とやっぱり力なく笑う岩崎さんに、私も『将来』という2文字を思い浮かべる。


 ……確かに、私もまだ考えてはいない。


 前に配られた進路希望調査は、何がしたいか思いつかなくて、3つらんがあるのにも関わらず進学とだけ書いたのだけれど、じゃあどんな方向に進みたいのか、そもそも理系なのか文系なのか、そんな考えもない。


「そういえばさ、準は理系授業多めに取ってるよね。何かなりたいものでもあるの?」


「ううん。理系科目の方が、何となく面白いからだけだよ」


「そっか」


 ここ西条学園さいじょうがくえんでは基本的にほとんどの授業が共通で、一部の授業だけを文理で分ける形にしている。


 これは、国が教育方針として『どんな分野にも強い人材を作る』という題目をかかげるようになり、それに合わせて完全に文系理系といった分け方をしないようになったかららしい。


 だからこそ、この3年になってもまだ文理、どちらに進むかを決めあぐねていても大丈夫でもあり、同時にギリギリまで伸ばすことで、どちらの方向の勉強もおろそかになっていて絶望するおそれがあるということでもある。


 ……せめて、どんな将来像を描いているかくらいは、今のうちに決めておくべきなのだろうけれど。


「やっぱり、準は大学進学するの?」


「そうだね……したいと思ってる。でも、何がしたいから大学に行くってわけでもなくて」


 大学に行くことで何か見えるかもしれないとも思っている。


 ……いや、違うかな。


 今まで、私には勉強しか無かったから、大学に行かなければならないと、漠然ばくぜんと考えていた気がする。


 でも、本当に大学に行く必要があるのか?


 就職をしてもいいんじゃないか?


「岩崎さん」


 岩崎さんの質問に、自問自答して答えを見つけようとしていた私が、口を開きかけたところで、お店の裏口の扉が開いて、店長さんが顔を出す。


「それとそちらの……」


「あ、小山、です」


「小山さん、貴女も中に入ってください」


 未だ、店長さんの視線は冷たく、正直なところこの場から逃げ去りたかったけれど、岩崎さんを巻き込んで大事おおごとにしてしまったのは自分だ。


 だから、どういう形であれ、けじめは付けなければならない。


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