第13時限目 血縁のお時間 その17
「あの子を許せとは言わないけどね」
撫でる女性の腕を振りほどいて、歩いていったゆかぴーの背中を見ながら、現場向きの体格をした女性が苦笑いして言う。
「あの子が更生するのを遮るのだけは勘弁してやって欲しい。確かに最低なことをしたと思うけど、若い間には色々あるからね。まあ、それでも許せなければ、喧嘩でもしに来なよ。あたしがちゃんと見届けてあげるからさ」
この人は、よっぽど私たちを喧嘩させたいみたい。
あれかな、殴り合えば分かり合えると考えているタイプなのかな?
「いえ、喧嘩はしないですが……彼女、ちゃんと更生するんでしょうか」
この人はこの人の考え方があるんだろうと思うし、私もそれを否定する気はない。
でも、美歌さんが言っていた通り、この前の様子からして、反省しないタイプのような気もする。
あの動画があるとはいえ、今度はバレないようにこそこそ悪巧みを実行するんじゃないかって。
それとも、私は当事者だから色眼鏡で見すぎなのかな?
「さて……ね。あの子のご両親から依頼されただけだから分からんけど、あたしのやることはあの青いケツを叩いて、全うな道に戻すだけさね」
がっはっはと大笑いした女性はそのまま視線をスライドさせて、
「……おい、コラ! そっちでふらふら誘導棒振ってるヤツ! ちゃんと誘導しな! いい加減にやると事故になるよ!」
とふらふらと赤い棒を振っている女子を叱ると、
「ひ、ひぃ! ちゃんとやってますぅ!」
と謝罪のためにか、振り返った。
あれ、この色黒に茶髪、そして声。
ついでに言って、大人しい感じのメイクにはなっているけれど、何となく見覚えがある顔。
「……あれ、えっと、ぱるぱる?」
「ぱるにゃんだっての! ……ってうげぇ!? こやまん……じゃなかった、小山! 何でここに居んの!?」
どうやら、オセロコンビはここでも一緒に居るようだった。
「ああ、そうか。さっきの子と知り合いってことは、こっちも知り合いかい?」
苦笑いする女性に、私も苦笑いを返す。
「ええ、まあ」
「なっはっは。まあ、心配しなくていいさ。こっちもあたしがビシバシ鍛えておくからね」
「お願いします」
……2人共、ここでこの女性にきっちり躾けられたら、もうちょっとはまともな性格にはなるかもしれない。
「まだ何かあるかい?」
「いえ。失礼します」
「また来なよ!」
工事現場にまた来い、というのも妙な話だとは思うけれど、快活に笑う女性に頭を下げてから、私は迂回路へと足早に向かった。
大分、時間を食ってしまったから、歩く速度を早める。
早く岩崎さんのところへ行かないと、開店時間になってしまうし。
色々あったお陰で大分遅れて、お店の前まで来たのは良いけれど、当然まだお店は開いていないから自動ドアは私を拒絶するように閉じたまま。
え、ええっと、こういうときはどうすればいいのかな?
従業員の人たちだけが入れる裏口があるはず、と私は店に沿って歩く。
お店の裏側に回ってみると、予想通り小さな扉が半開きになっていた。
不用心だなあ、なんて思いながら中を覗き込むと、通路の左右に金属の棚やダンボールが置いてあるのが見えるけれど、人は見当たらない。
もっと奥の方に居るのかな? と思った私は、でも勝手に入るのはまずいよね……と尻込みしていると、奥の方で何やら人の声が聞こえてきた。
その口調は談笑には聞こえず、どちらかというと言い合うような調子だったから、私は少し気になって、
「お邪魔しまーす……」
と小声で言いながら、裏口からお店に入った。
通路の両側にある棚には、整然とダンボールが並んでいるけれど、あまり幅が無く、人がすれ違うには片方の棚をどけた方が良いんじゃないかな、と思う程度には狭かった。
声が聞こえる方へ歩を進めると、聞こえてくる声は3人から発せられていると分かったのだけれど、その内の1つの声に、私は顔をしかめた。
それは、あまり聞きたくない声だったから。
「でさー、それ、あたしらがやったって証拠、あるワケ?」
声しか聞こえていないけれど、中途半端に甘えた調子で、ただし人を小馬鹿にしたような声は、顔が見えなくてもほぼ想像がつく。
昨日、絡みたくなかったけれど絡むことになってしまった、あの沢桐とかいう女子だ。
「そうそう」
この声は誰かは分からないけれど、その口調と声色からして、私が前に聞いてしまった、あの沢桐との悪口仲間の片割れだと思う。
「それは、確かに無いけど……」
あ、この声は岩崎さん。
これで3人全員。
……もうこの時点で、大方何が起こっているか分かる。
私がこっそりと事務所と思われる中を覗くと、想像通り3人の女子が立っていた。




