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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第3時限目 日常のお時間 その1

「おはようございます」


 長身痩躯ちょうしんそうくという言葉を女性に使っても良いのかは分からないけれど、教室に入ってすぐの席には腰に届きそうなくらいの黒い長髪をそのまま流した女子生徒、園村さんとそしてその前に座る、今朝も絶賛水も滴る何とやらだったわかめ星人ちゃんこと工藤さんが何やら話をしていたから、挨拶する。


 ちなみに工藤さんは私が太田さんから髪を乾かすお仕事を渡されたのを聞いていたからか、私が顔を洗いに洗面所に行くと相変わらずのタオル1枚姿のまま、洗面台の前に置いてある椅子に座って準備していたりする。本当に毎日するのかな。嫌ではないのだけれど、せめて服を……ってどっちにしても頭を拭いてからでないといけないのだけれど。


 初日は廊下がずぶ濡れになってしまうからと、工藤さんの姿を意識して見ることはあまり無かったのだけれど、今日の朝は落ち着いて見ることが出来た分、落ち着いて見られなかった。いや、言っている意味が良く分からないと思うけれど、察してください。私だってこんな格好をしていても男のはしくれなのだから、その……タオル1枚姿の女の子と同じ部屋というのは少しどころじゃなく落ち着かない訳で。お陰で毎日しっかり目が覚めるようになったのは良かったのかもしれないけれど。


「ああ、小山さん。おはようございます」


「……おは……よう……ごず……い……」


 血色の良さそうな破顔で応えてくれた園村さんと相変わらず青白く重い瞼に耐え切れていない工藤さんがそれぞれ挨拶を返してきてくれる。


「まあ、華夜ったら……今日は本当に体調悪そうね。大丈夫?」


「……だい……お……ぶ」


 スリープモードと受信待機中を行ったり来たりしている工藤さんの頭を撫でて、園村さんが不安そうな顔をする。むしろこんな状態だったのに、教室まで無事に辿り着いたことが凄いと思う。


「どうしても辛ければ、保健室で休む方が……」


「…………」


 あ、寝た。


「……とりあえずは授業が始まるまでは寝かせてあげましょう」


「そ、そうですね……」


 園村さんに軽く頭を下げてから、私は昨日咲野先生に教えてもらった部屋の最後列に向かうと、


「あ、小山さん。おはようございます」


 その手前、つまり私の席の右隣に正木さんが座っていた。


「おはようございます。もしかして私の席って正木さんの隣ですか?」


「はい!」


 満面の笑みで答えてくれた正木さんの隣に座って、鞄を机の横に掛けると、


「お、来た来た」


「おはよー、準ちゃーん」


 岩崎さんと片淵さんも早速私の机まで来る。まだ会って2、3日目だというのに、もう見慣れた光景になってしまっている。それだけ早く溶け込めているということなんだろうけれど、それは3人の人柄のお陰かな。


「小山さーん。今日は買い物行こうよ買い物」


「もう、真帆ったら……まだ1限目も始まってないのに」


 正木さんが隣で既に1時限目の準備を始めながら苦笑する。


「流石にあれほど殺風景な部屋は精神衛生上良くないと思うな、私! だから、もうちょっとこう、可愛くコーディネートしたげるからさ」


「にっはっは、そう言いつつ、準ちんハウスを乗っ取ろうと思っているね、真帆ちん」


「えー、そこまでは思ってないよ?」


 そこまでは、ってことはちょっとは思ってるんだ、という言葉がまろび出そうになったのを飲み込んで押し留める。うむ、悪い子ではないと思うのだけど、思ったことが一切処理とか変換とかの工程を経ずに出てしまうタイプの女の子なんだなあ、岩崎さん。


「とにかく、買い物行こうよ。まだお店とか知らないでしょ?」


「ええ、そうですね、分かり――あ」


 言いながら昨日の記憶を掘り起こすと、そういえば地下室在住の猫耳娘さんから「放課後に良い物を進呈しますので奮ってご来場ください」とは言っていないけれど、意味合いとしては似たようなことを言っていた気がする。


「あの、先にちょっと用事があって、先にそれを済ませてからでも良いですか?」


「用事? 良いけど、何処?」


「えっと……」


 そういえばみゃーちゃんのことって、皆何処まで知っているんだろう。そもそも、私も地下にあんな猫耳少女が住んでいる、ということしか知らないのだけれど。


「地下室のあの子のところですか?」


 正木さんがおずおずと尋ねてくる。


「は、はい、そうです」


 本当に心を読んだんじゃないか、って思うくらいに正木さんは言い出しにくい話を切り出してくれる。


「地下室……あー、あのなんだっけ、名前忘れたけど、ちっちゃい女の子が居るとか何とか聞いたことはあるよ」


「そう、あの子から呼ばれていて」


「へー、準にゃんがあの子に? 珍しいねー。何かあったの?」


「ええっと……まあ、ちょっと」


 口が裂けても、あの動画でみゃーちゃんに脅されている……というほどではないけれど、呼び出されているということは言えない。


「まあいいじゃん。あの子、性格悪いし、あたしは嫌いだな、うん」


「確かにちょっと口悪いねー。まあ、子供だから仕方がないと思うけど」


 岩崎さんと片淵さんが素直にみゃーちゃんの印象を答える。


 うーん、まあ確かにちょっと傍若無人というか、言葉が不遜なところもあるけれど、どちらかというと背伸びしている感じがあるだけで、腹を立てるほどのタイプではないと思うけれど。これも男女の感覚の違いによるものなのかな。うちの妹も昔はそういう時期があったし。


「まあいいや。じゃあ、先に家帰っとくから午後5時に校門前集合でー」


「ええ、分かりました」


「おらー、席つけー」


 そんな話をしていたらチャイムが鳴って、咲野先生が入ってきてホームルームが始まるも、大して連絡事項もなかったからすぐに1時限目の授業が開始。


「あ、正木さん……」


「教科書ですよね?」


 私が声を掛けた時には、机をずずずっと近づけて来てくれる。もう熟年夫婦みたいな阿吽の呼吸。ううん、本当は単純に正木さんが先読みしてくれているからだけれど。


 授業の内容は基本的に前の学校で既に習ったところばかりで、ただただ復習の時間。でも、解き直してみると間違える問題もある。気を付けないと。


 真面目に授業を聞きながら、真横の肩より少しだけ伸びた黒髪の少女を見てみると、真面目に黒板の文字を書き写している。私自身、どちらかというと文字は綺麗な方だと言われるけれど、私よりも更に綺麗な楷書体で板書の文字をさらさらと書き写している様子は指揮者のタクトみたいにも見える、なんてことは言い過ぎかな。


「どうしました?」


「あ、いえ。何でもないです」


「?」


 いけないいけない。ずっと凝視なんてしてたら色々思い出してしまうから、とにかく授業に集中しよう。


 2時限目、3時限目、4時限目と続いたけれど、どの授業も既に習った範囲だったからひたすら復習ばかりだったけれど、それほど苦にはならなかった。まあ、勉強は嫌いじゃないから。

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